325話 戦後処理の始まり -エライさんが集まってますね-
王国と帝国の重鎮が集まっているようです。
「魔族男の尋問ってどうなったの? あと、魔力阻害の腕輪って魔族男を拘束するために使ったんだよな?」
亮二の問い掛けをマルコは軽く躱しながら会話を続けていた。アンデルスやユーハンを始めとする高級指揮官達の間で、魔族男への尋問内容については亮二に伝えないとの事で一致していた。
「未成年には早いってか? リョージなら問題なく受け入れると思うけどな」
「なんだよ。聞こえるようにハッキリ言えよ。マルコの小声なんて色っぽくもないし、面白くもな……痛ぃ! なんで叩かれたの?」
自分の呟きに、ブツブツと言っていたのをミスリルのハリセンで黙らせると、マルコは軽く首を振って意識をハッキリさせながら亮二に語りかける。
「すまん。聞いてなかった。なにを言おうとしてたんだ?」
「ひどい! 話も聞かずに叩いたのか? 駄目だろ! 意味なくツッコんだらマルコの徳が下がる……痛ぃ!」
「ツッコんでもツッコまなくても俺の徳は下がらねえよ!」
ぎゃあぎゃと叫んでいる亮二に再度ツッコミを入れると、戦後処理について再び考えに耽るのだった。
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魔族男から得られた情報を元にサンドストレム諸侯軍と、ガムート帝国の第一王子クヌートと第三王子ロジオン、白竜騎士団としてマデリーネの皇族達と、大臣を始めとする重鎮達が帝都前に設置された野営所に集まっていた。
「帝都に入る前に情報を渡しておきましょう」
アンデルスは今回の騒動になった経緯の説明を始めた。主犯格の魔族男の単独犯である事。魔王を筆頭に今回の件について魔族側は一切合切知らない事。集まっていた魔物は操られていたが、今は解放されて散り散りに逃げており、サンドストレム諸侯軍による掃討戦が始まっている事。
「あの、兄上の消息は?」
恐る恐るな感じで質問をしてきたマデリーネに、アンデルスは努めて平静な表情を浮かべて返答する。
「彼は魔族男を止めようとして……」
魔族男は第二王子ヘルベルトの居城に保管されていた、魔道具である調教の笛を強奪するために侵入し、その場にいた者を殺害して手に入れたとの事だった。
「だが、あの城には弟以外にも城仕えの者がいたはずだが?」
「調査はまだ出来ておりませんが生存は難しいかと。彼の領地では日常生活に混乱は起こっておらず、民達はなにも気付かずに暮らしていましたので」
城に住んでいた五〇名近くが全滅しているとの報告に帝国側は沈痛な表情になるのだった。
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「情報ばかりもらって申し訳ない。そして大事な事を忘れていた。アンデルス殿下、帝国の緊急事態に援軍に来て下さって有り難うございます。貴方達のお陰で、我らは被害が少なくて済みました」
クヌートが立ち上がると深く頭を下げて謝辞を述べてきた。その様子を見たロジオンにマデリーネ、大臣を始めとする重鎮達も慌てて一斉に立ち上がると深く頭を下げた。
「お気になさらないで下さい。その為の援軍なんですから。領民達に被害はありませんでしたか? こちらで対応出来る事があれば言って下さい」
鷹揚に謝辞を受け取り帝国民の行く末まで心配しているアンデルスの態度に、クヌートは感銘の表情を浮かべながら問題ない事を伝える。
「ご配慮感謝します。疎開させていた領民達は慣れない生活で体調を崩している者は居りますが、それ以外は大丈夫です。元の生活に戻るのも時間は掛かるでしょうが王家の責任において対応します」
アンデルスと兄のクヌートの様子を眺めていたマデリーネだったが、今回の立役者である亮二がこの場に居ない事を不思議に思い、近くにいたマルコに問い掛けた。
「リョージ様はどうされたのですか? 古龍が出たと聞いておりますが、戦いの中で怪我をされたとか?」
心配顔のマデリーネにマルコは安心するように伝えると、亮二が今現在なにをしているかの説明を始めた。
「あいつなら大丈夫ですよ。古龍と戦っても傷一つ負わずに完勝です。それだけでなく、古龍を完全に心服させて執事にしてしまいましたからね。今は王都のライナルト教授の地下工房で鍛冶でもしてるんじゃないですか? 部下に恩賞が大量に必要だと言ってましたから。早く帰って来いとは言ってあるんですけどね」
呆れた口調で話すマルコに、王国側は悟りきった表情で、帝国側は驚愕の表情で亮二の行動を受け止めるのだった。
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「よし! セバスはそのまま剣に細工を頼む」
「畏まりました。それにしても素晴らしい施設ですね。このような場所を人間が用意できるようになっているとは驚きです」
亮二と一緒にライナルトの地下工房で作業をしているセバスチャンは、設備の充実ぶりに感心した表情を浮かべながら周囲を見渡すと作業の続きを始めた。亮二は笑いながらセバスチャンの勘違いを訂正する為に説明を始める。
「ここと俺の屋敷くらいだぞ。ここまで設備が整っているのは。他の場所は大したことないぞ」
「なるほど。我が主は戦闘だけでなく、全てが突き抜けて素晴らしいのですな」
地下工房の設備が充実しているのは亮二が関わっているとの説明に、セバスチャンは素晴らしき主に仕えている事に満足げな表情を浮かべるのだった。
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「痛ぃ! なんだよ! なに怒ってんだよ? なにかあったの……痛ぃ!」
「ちょっとくらいは羽目を外しても大目に見るが、丸一日は流石に容赦できるか!」
ホクホク顔で野営所に帰ってきた亮二を待っていたのは、怒り顔のマルコだった。ミスリルのハリセンによる攻撃を受けた亮二を見たセバスチャンが、血相を変えて二人の間に入るとマルコの胸ぐらを掴んだ。
「なにをする! 我が主のリョージ様への暴力は私が許さん! そもそも見たこともない変な武器でリョージ様を殴るとは何事か! ……痛ぃ! なっ! 私が人間ごときの攻撃を躱せないとは!」
「やかまし! その変な武器を作ったのはお前さんの主なんだよ!俺も使い勝手が良すぎて乱用しているけどな!」
躱すことも出来ずにハリセン攻撃を受けて硬直しているセバスチャンを見ながら、マルコは再びミスリルのハリセン攻撃をセバスチャンに打ち下ろすのだった。
おぉ! 古龍のセバスチャンでも躱せないとは!