321話 真打ち登場 -ボスっぽいのが出てきましたね-
ドラゴンと対峙しましょうね。
アラちゃんの攻撃で、生まれて初めてダメージを負ったドラゴンは怒りの咆哮を上げていた。怒りで視界の狭くなったドラゴンがアラちゃんだけに視線を向けているのを見たマルコは、チャンスとばかりに反対側に回り込むと魔剣の力を使って雷属性を付与すると斬りかかった。
「リョージの話じゃ、雷属性だと痺れ効果が出るんだったよな」
死角から攻撃を受けたドラゴンが慌てて方向転換をした時にはマルコの姿はなく、攻撃を受けない場所に移動しつつ目線で指示をアラちゃんに送る。
「分かってますよ! マルコさん! アライグマ騎士団は投擲準備! 魔法が唱えられる奴は、魔力を振り絞って撃ち続けろ」
「「「おぉ!」」」
マルコからの視線に気づいたアラちゃんは全員に聞こえるように叫ぶと、自身の風属性に魔剣の風属性を重ねて纏わせると、勢いよくドラゴンに斬りかかった。
アラちゃんの振るった魔剣での攻撃は初撃以上にダメージを与えたようで、激痛の叫び声を上げたドラゴンだったが、蹴り出すように前足を使って攻撃をアラちゃんに仕掛けてきた。
「彼を守って!」
手をかざしながらカレナリエンが叫ぶと、攻撃しようとしたドラゴンの前足のスピードが途中で弱まった。その隙に攻撃が届かない場所に移動したアラちゃんが攻撃命令を下す。
「投擲開始!」
「「「おぉ!」」」
命令の元、アライグマ騎士団が槍の投擲を次々と始めた。槍を投擲する10名は騎士団の中でも腕力に自信のある者であり、周りに守られながら全力でドラゴンに向かって槍を投げつけた。
「ぐぉぉぉぉ!」
槍の投擲を受けたのが最初だったら、ドラゴンに傷を付けられなかったであろうが、マルコとアラちゃんが付けた魔剣での傷跡を狙っていたのが功を奏して見事に突き刺さっていた。
「よし! 攻撃が届いているぞ! ここが踏ん張りどころだ。皆は傷が付いている場所を重点的に攻撃だ。マルコさんは別の場所を攻撃してくれ!」
「ああ。任せとけ! リョージから防御までしてくれる魔剣を預かっているからな。カレナリエンも俺らの事は気にせずに騎士団を守ってやってくれ!」
アラちゃんの檄に騎士団は野太い声で応え、マルコはカレナリエンに騎士団を中心として防御をするようにと伝えるのだった。
◇□◇□◇□
「あっちは順調そうだな。俺の方はなにが出るかな? こんにちは! いい天気ですね! お元気で・・・・・・うぉ!」
亮二が軽い感じで召喚が終わったように見えるドラゴンの側に居る何者かに声を掛けると、ブレス攻撃が襲ってきた。亮二は防御魔法を展開しながら近付いていたのだが、突然のブレス攻撃に対してはさすがに驚きの声を上げた。
「ほぅ。ドラゴンのブレスを受けても傷一つ負わないとは。何者だ貴様?」
ドラゴンの近くに居たのはフードを被った男性のようで、感心した表情を浮かべつつフード越しに警戒しながらも近付いてきた。
「それは、こっちの方が聞きたいな。こんな騒動を起こしてなにがしたいんだよ?」
「これから死に逝く、名も無き者への冥土の土産として教えてやろう」
亮二がミスリルの剣を油断無く構えて問い掛けると、フードを被ったままの男性が嘲るような口調で話し始めた。亮二は思わず剣をだらりと下げ、口を開けたままで硬直する。
「ふっ。恐怖のあまり気が触れたか。仕方あるまいか。ドラゴンが二頭もおればそうもなるだろうな。脆弱な人間如きでは限界なのも仕方あるまい。魔王様はなぜこのような貧弱な者を大事にせよと仰るのか? 魔力に長けており、そもそも次元の違う魔族が人間に気を使うなど・・・・・・ん? なにが可笑しい?」
滔々と語り出していた魔族が亮二の様子に違和感を感じて問い掛ける。
「も、もう! もう! そ、それ以上はやめて! 少しで十分だから。テンプレな台詞の満漢全席なんて、流石に俺でも消化しきれないぞ」
「な、なにが可笑しい! 低俗な人間の分際で許さん! 『我、ここに凍えるべき氷河を生み出し敵を滅する! アイスウォール!』」
魔族を名乗るフードを被った男は肩を震わせて笑っている亮二の態度に激高すると、詠唱を始めてアイスウォールを撃ち放つ。
「おぉ! キレる魔族が魔法攻撃するってのもテンプレかな?」
亮二は感動した表情になるとファイヤーボールを連続で撃ち出して相殺するのだった。
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「はっ? な、なにが起こった?」
氷山が出来上がっているはずの場所に亮二が平然と立っている事に混乱した魔族が、理解できない表情で呟いたのを聞いた亮二が笑顔で答えた。
「ん? ファイアーボールで相殺しただけだけど?」
「ふ、ふざけるな! 人間如きの魔法が魔族と対等だと!」
軽い感じで返事をされた魔族は怒りのオーラを発すると、連続で魔法を唱え始めた。
「食らえ! 我が奥義。五属性連続魔法 ・・・・・・跡形もなく消えるがいい!」
高速詠唱で火水風氷土で作ったボールを一斉に撃ち出した。自信に満ち溢れ人間を見下したた表情の魔族が勝利を確信して背を向けると、苦戦しているもう一体のドラゴンが戦っている場所に救援へ行こうとした。
「おい。どこ行くんだよ。話はまだ終わってないぞ? 第二王子の消息くらい教えろよ」
背後から聞こえてきた声に信じられない様子で振り返った魔族の表情を見て、亮二は嬉しそうに近付いていくのだった。
またテンプレっぽい魔族が出てきました。