313話 剣の授与式 -ちゃんと渡しますね-
微妙に追い出されました。新婚さんだから仕方ないよね。
「ただいま!」
「お帰りなさい。リョージ様。思ったよりも早かったですね」
ガムート帝国に戻ってきた亮二にカレナリエンが話し掛けてきた。シャルロッタとの朝食後、いそいそと奥の部屋に向かってしまい、放置された亮二は地下工房で作業を少しだけして戻ってきたのだった。
「ライナルトは学院長とロサ相手にユックリしないといけないから、放置されちゃったんだよ。本当はライナルトと地下工房で思いついた魔道具を一緒に作ろうと思ってたんだけどな」
「ユックリですか? 新婚さんなのにユックリ? あっ!」
ライナルト達がユックリしているとの表現をした亮二に、首を傾げていたカレナリエンだったが、意味が分かると赤面しながら慌てて話を逸らし始めるのだった。
「そ、そう言えば、アラちゃんさんが面会に来られてましたよ」
「アラちゃんが?ちょうど良かった。俺も話があったんだよね。呼んできてくれる? それで、話を戻すけど、カレナリエンの顔だけじゃなくて耳まで赤いよ」
話に乗ったフリをして赤面している事を告げてきた亮二に、誤魔化しきれていない事が分かったカレナリエンは、耳だけでなく全身を真っ赤にしながら「知りません!」と叫ぶと、アラちゃんを呼びに行くのだった。
◇□◇□◇□
「耳だけじゃなく、全身真っ赤になってるカレナリエンって可愛いと思わないか?」
「俺にどんな感想を求めてるんですか? 嫌ですよ。この後、カレナリエンさんに捕まって怒られるのは。それに俺は奥さん一筋ですからね」
呼び出しに応じて亮二のテントにやって来たアラちゃんに、真っ赤になったままのカレナリエンを見ながら同意を求めたが、素っ気ない返事と惚気話が返ってきた。
「おお、そうか。ところで新婚生活はどうなんだよ? 少しは安定してきたのか?」
「それはもちろん、伯爵のお陰で良い生活になってるよ。ジェイミーも、あいつも、近くに引っ越してきたエミールも。あっ! エミールってのはジェイミーの兄貴だ。これも伯爵が屋敷をくれただけでなく、家族全員に仕事まで紹介してくれたお陰だよ」
亮二の質問にアラちゃんが嬉しそうに新婚生活の話をしてきた。亮二はしばらくアラちゃんから新婚生活報告を聞きつつ楽しそうに頷いていたが、本来の目的を思い出すと表情を引き締めてアラちゃんに話しかけた。
「来てもらったのは剣についてなんだよ。昨日の模擬戦で俺相手に善戦できただろ? だから、アラちゃん用に剣を用意したんだよ」
「お、俺用の剣! 本当ですか! 俺のために伯爵が剣を作ってくれたんですか! 剣が無くなったから可哀想ではなく?」
剣を台無しにした事は別として、模擬戦での奮闘に感じるものがあった事を含めて亮二が剣を渡す事を決定したと伝えると、アラちゃんは感動で目を潤ませるのだった。
◇□◇□◇□
「よし! じゃあ、さっそく剣を渡すぞ」
「リョージ様! せっかく、剣を用意されたんですから、ここではなく場所を変えて渡しましょう! 騎士団の皆さんにも見てもらいましょう!」
亮二がストレージから剣を取り出して、アラちゃんに渡そうとするのをカレナリエンが慌てて止めた。彼女から騎士団長に領主が剣を渡すイベントを大々的にする事で、騎士団のモチベーションが高められると説明を受けた亮二は、アラちゃんに全員を集めるように指示を出して自身は舞台の準備を始めるのだった。
「何事ですか?」「また模擬戦をするのか?」「俺も伯爵と模擬戦がしたいな」「おぉ! お前勇気あるな」「で、なにが始まるんだよ?」
突然、野営地の中心に舞台が整えられたのを見ながら騎士団員達は、理由も知らされずに集められた事を訝しげに思いながらも集合していた。
「お集まりの皆さん! これから、アラちゃん騎士団長への剣の授与を行います」
舞台に上がってきたカレナリエンが大声で招集の目的を伝えると、ざわめいていた騎士団が一瞬静まり返り、その後に轟くような歓声が上がった。騎士団全員が満面の笑みで歓声を上げており、心からアラちゃんを祝福する表情をしていた。
「よし! 全員集まったみたいだな。これからアラちゃんに剣を渡そうと思う。先に言っておくが、これはアラちゃんに言われたから渡すんじゃないからな。昨日の模擬戦での実力を見て問題ないと判断したから渡すのだと分かって欲しい」
亮二が剣を渡す前に声を掛けると、団員達は力強く頷いて団長が実力で剣を勝ち取ったと分かっていると伝えてくるのだった。
「ここまで立派にしてくれなくても……「汝! アライグマ騎士団団長アラちゃんに、我が鍛えし魔剣を与える! これからも変わらず心身ともに鍛え、我と王国の為に仕えるが良い!」」
あまりにも立派な舞台を用意され、若干引き気味のアラちゃんが亮二に話しかけようとすると、遮るように亮二が凛とした表情で口上を述べ始めた。再び喧騒に包まれていた騎士団だったが、亮二の口上が始まった瞬間に静まり返り、厳粛な表情でアラちゃんが剣を受け取るのを眺めるのだった。
◇□◇□◇□
亮二はアラちゃんに魔剣を手渡すと、先ほどとは比べ物にならない程の大歓声が騎士団員から上がった。剣を受け取って感動に震えているアラちゃんと騎士団員を微笑ましそうに見ながら亮二は話しかけた。
「この魔剣は前作った剣を参考に改良を加えてある。属性付与の仕方は後で教えてやるけど、それ以外の性能について、先に言っとくな」
魔剣の性能を順番に説明しだした亮二の話を恭しく聞いていたアラちゃんだったが、あまりの性能の良さに徐々に顔が引き攣っていくのだった。
あれ? 喜んでくれると思ったのに、アラちゃんの顔が引き攣ってる?