311話 剣の作成 -一から剣を作りますね-
アラちゃんの成長を実感しました。
「明日の出立は昼ごろにする。それまでは各自、英気を養うように」
「「「ははっ!」」」
亮二から明日の行動予定を聞かされたアライグマ騎士団の一同は、交代で食後のデザートを楽しんでいた。亮二が領主になってからは、騎士団を始めとする肉体労働をする者達に食後のデザートと紅茶が支給されるようになっていた。
「今日のデザートはお汁粉か」
「リョージ様が領主になってから食生活が変わったよな。それにしても、リョージ様はどれだけデザートの作り方を知っているんだろうな」
食後のデザートであるお汁粉を食べながら騎士達が喋っていた。領地ではクッキーやスコーンなどが中心に支給されていたが、今回の遠征では亮二自らが作ったスイーツが日替わりで支給されており、騎士達は亮二のデザートを毎回楽しみにしていた。
「明日のデザートは、ぜりーらしいぞ」
「おっ! リョージ様が街で作られたって話のデザートだな!」
アライグマ騎士団のメンバーは、亮二の最新デザートを満喫できる今回の遠征に選ばれた幸運を喜んでいた。そんな様子を眺めていた亮二が微笑ましそうにしていると、カレナリエンがホクホク顔でお椀を持ちながら近づいてきた。
「リョージ様。このお汁粉はぜんざいと違ってマメの粒が無くて、白い玉が入っているんですね。 本当にリョージ様が作ったデザートって美味しいですよね。食べ過ぎて太ってしまいそうです。話は変わりますが、明日は昼から出立との事ですが、それまではどうされるのですか?」
「ああ。ちょっと剣を作ろうと思ってね。さっきの模擬戦でアラちゃんの剣が使い物にならなくなったからな」
亮二はカレナリエンからの感想と質問に笑いながら答えた。二人は領主用大型テントで会話をしており、テントの中ではクロが転移魔法陣の準備をしていた。
「リョージ様。いつでも大丈夫」
「ああ。ありがとう。じゃあ、俺は屋敷に戻るから、後は頼むよ」
「分かりました。なにかあればケイタイデンワで連絡しますね」
準備を整えたクロの頭を撫でると亮二は転移魔法陣に飛び乗るのだった。
◇□◇□◇□
「お帰りなさいませ。リョージ様」
「ただいま。これからライナルトの地下工房に行ってくる!」
王都の屋敷に転移した亮二は、執事長に声を掛けると馬車の手配を頼んだ。ライナルトの屋敷に訪問を告げる急使と、馬車の手配をした執事が手元にある手紙等を持ってきた。
「なにか気になる物はある?」
「リョージ様が領都に移られてから手紙などは減っております。訪問要望や婚約者紹介がほとんどでしたので。今はニコラス様が対応されているのではないでしょうか?」
「なるほどね。今まで迷惑をかけていたようだね。気になるのはこれくらいかな。後で指示を出すからやっといて」
執事から王都の屋敷で集めている情報や手紙を受け取り、それぞれに指示を与えた亮二は到着した馬車に乗り込むと、ライナルトの屋敷に向かうように御者に声を掛けた。
「着くまでに、どのくらい掛かる?」
「三十分ほどかと」
御者の声に亮二は着く直前に声をかけるように伝えると、ストレージからミスリル鉱石や魔石を取り出して魔力を注ぎ始めるのだった。
◇□◇□◇□
「そろそろ到着致します。旦那様」
「ああ。ありがとう。こっちも準備が整ったよ」
御者の声に亮二は答えると、出していた材料をストレージに収納し降りるための準備を始めた。
「いらっしゃいませ。高名なドリュグルの英雄様の急なご訪問を歓迎致します」
「急に来てごめんって。だから、そんなに怒らなくてもイイじゃん。新婚の学院長」
出迎えたシャルロッタの目が笑っていない笑顔に、亮二は平身低頭で謝罪しながら挨拶をした。新婚のライナルトにシャルロッタとロサは新居で半月の休暇に入っていた。せっかくの休暇に訪れた事にシャルロッタは難しそうな顔をしていたが、亮二の申し訳無さそうな顔と、おみやげに持ってきたゼリーの話を聞いた後は笑顔になって屋敷に迎い入れた。
「お礼を伝える前に帝国へ援軍に行ったはずなのに、もう片付けたんですか?」
「いや、まだだけど。ちょっと、ライナルトに用意した地下工房を借りようと思ってね」
シャルロッタは亮二の訪問理由を理解すると地下工房へと案内し始めた。屋敷にはシャルロッタの他には誰もおらずに、不思議に思った亮二が問い掛けた。
「あれ? ライナルトは?」
「大丈夫ですよ。今はロサと二人でユックリとしていますから。リョージ君の事だから明日の朝まで地下工房に入ってるんですよね? 呼びに来るのは明日の朝で良いんですか?」
「そうだね。気を使わせて申し訳ないけど呼んでもらえると助かる」
亮二が地下工房に入ると分ってからは終始ご機嫌なシャルロッタは、明日の朝に呼びに来ることを伝えるとスキップをするように屋敷に戻っていくのだった。亮二が屋敷を訪れている事と、さらには地下工房で徹夜で作業をした事を聞かされたライナルトは、その場にいなかった事をのたうち回る勢いで後悔するのだった。
◇□◇□◇□
「えらい機嫌が良くなったな。土産で渡したゼリーが良かったのかな?」
亮二はシャルロッタの機嫌の良さに首を傾げながらも、地下工房に設置されている炉に火属性魔法で点火するとミスリルと銀を入れて溶かし始めた。
「標準的な剣を使っていたよなアラちゃんは。重さを同じにしとかないと使いにくいからな」
亮二はストレージから鉄剣を取り出して重さを確認しつつ、アマンドゥスの剣を作った時のように刀身に魔法陣を刻み、鍔には亮二が魔力を注ぎ込んだ魔石を埋め込んで作成した。
「握りの部分は手に馴染むように最適な形になるようなプログラムを組み込んでみるか。後は鞘の部分も防御魔法が自動で展開されるようにして……」
亮二は楽しそうにしながら剣を作り続ける槌の音などが、完全防音されている地下工房の中に響き渡るのだった。
逸品が出来上がりそうです。