28話 試練の洞窟での一コマ -なぜこんな事になったんですかね?-
お説教は精神がゴリゴリと削られます
亮二は”試練の洞窟”の広間で正座をしながらカレナリエンのお説教を受けていた。
「いいですか、リョージさん。何回でも言いますが、リョージさんは【H】ランクの【H】ランクの冒険者なんですよ。それを駐屯軍を勝手に仕切って作戦を立てた上に、正面の出口を閉じるために1人で勝手に突っ込んだ上に、1人で戦闘を勝手にした上に、牛人と勝手に一騎打ちした上に、牛人の上に乗って勝鬨をあげた上に、『牛人だから断末魔は「ぶもぉぉぉ」なのかな?』って『ぶもぉぉぉ』かなってなんなんですか!」
顔を真っ赤にして腕を組んで仁王立ちの状態でお説教をするカレナリエンの同じ内容が2時間近く続いているので若干うんざりしながらも、カレナリエンに心配させたのは分かっているので神妙な顔を作って反省の言葉を返した。
「カレナリエンさん。『勝手に、勝手に、上に、上に』って言いすぎじゃない?」
「リョージさん!反省してますか!」
反省していると見せかけて、全く反省していなかった事に気づいたカレナリエンは亮二の両頬を引っ張ると「反省してますか!」と大声でもう一度反省を促した。
「ひゃい、ひゅいましぇん。もうひぃまひぇん」
カレナリエンの目が涙で潤んできたのを確認し、これ以上怒らせたらダメだと感じた亮二は頬を引っ張られながらも真剣に謝り続けた。マルコや部隊長、駐屯軍の兵士たちは亮二とカレナリエンのやり取りを聞きながら苦笑いや生温かい眼差しを浮かべながら2人を眺めているのだった。
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「マルコ、途中で止めてくれ。2時間も正座させられているこっちの身にもなってくれよ。牛人との一騎打ちよりも大変だったし、カレナリエンさんの説教は魔物の波状攻撃より恐ろしかったんだよ」
「馬鹿言うなよ。あんな状態のカレナリエンを止められると思ってるのかよ。こっちまでトバッチリを食らっちまうわ。まあ、あいつがどれだけお前の事を心配したかを考えたら、2時間くらいの説教は責任を持って受けてやれや」
痺れた足を擦りながら愚痴を言う亮二にマルコは苦笑しながら軽く返した。今回の件については死者どころか、けが人が1人も出ていないという駐屯軍が”試練の洞窟”で活動を開始してから初めての快挙であった。そして、この戦いに於いて亮二が占めた割合は尋常ではなく、亮二がいなかった場合は広間にいた駐屯軍は壊滅に近い被害を出しながらの撤退になり、その後を追った魔物が雪崩を打って洞窟から飛び出してドリュグルの街にまで甚大な被害が出た可能性もあった。マルコは顔をしかめながら足を擦っている亮二を眺めていた。カレナリエンに貸している腕輪は“ミスリルの腕輪”と聞かされており、創造神イオルスが身につけている神具と同じ名前であるし性能もその名前に相応しい性能との事だった。それに剣技に関しても大胆な戦いぶりや、属性付与を自由自在に出来る事を考えるとキノコのお化け600匹討伐なんて話ではなく、それ以上の戦闘能力を持っている事も十分に証明してくれた。
「リョージよ、お前さんは一体何者なんだ?」
「何者って、最近マルコと出会ったマルコのお陰で【H】ランク冒険者になったリョージだよ。それ以外の何者でもない。そうだよね、マルコ」
マルコの質問をはぐらかして「それ以上は聞くな」と言わんばかりの回答が亮二から返ってきたのでそれ以上の追求はマルコからは出来なかった。【H】ランクの冒険者が体力、魔力とも全快するような尋常ではない性能のポーションを、亮二は20人近くに惜しげも無く配ったのである。マルコはそんな秘薬の情報を見たことも聞いたことも無かった。だが、これ以上の追求は亮二との関係が壊れそうな気がしてマルコには出来なかったので話を無理矢理変える事にした。
「ん、ごほん。で、今後の話についてだがな、リョージ」
気まずくなった会話の流れを切り替えたマルコは強引に今後の話を始めた。
・討伐した魔物については証明書に種族と数が登録されている
・今回の件は特別依頼扱いとし、報酬金については辺境伯から渡される
・亮二のレアアイテムボックスに収納されている広間の魔物は6:4で亮二の物とする
・尋常じゃない性能のポーションに関しては駐屯軍に箝口令を出す
・シーヴが依頼した薬草についてはギルドが責任を持って用意し、依頼としては完了扱いとする
・この先【C】ランクへの昇格試験を受ける時の”試練の洞窟”依頼は免除される
と、1点ずつ説明を行った。
亮二としては今回の魔物の買い取りでかなりの金額が入ってくる事は予想出来ており、またストレージの中にはイオルスから貰った宝石が大中小と数多く入っているので報奨金についてはどちらでも良かった。もちろん貰える物は有難く頂くが、一番有難いのはポーションに関しての箝口令を出してくれた事だろう。辺境伯には報告は行くだろうが、特殊な素材が必要な秘薬とマルコや部隊長には説明しているので、大量生産の依頼は断れると思っている。マルコからの説明に亮二が考えていると部隊長からも要請があった。
「これは俺からになるが、今回の件については辺境伯に報告するので2日ほど滞在してもらえないか。動くのはそれからにしてもらえると助かる」
亮二たち3名が部隊長からの要請を了解すると「2日間とも模擬戦するから覚悟しとけよリョージ!」との声が兵士たちから上がるのであった。
結局、薬草取ってません……。




