301話 食事の前の挨拶 -早く食べたいですね-
マルコとケネットさんが、なにか喋るようです。
「なるほど。あれはリョージ殿の気遣いではなく、元々の性格から来ている訳ですね」
「ああ。見た目は子供だが、実績とたまに出てくる真面目な態度に騙されるなよ。間違いなく見た目は子供で心も子供だからな。大人の知識を持ってるだけの子供だと思わないと痛い目にあうぞ」
感心したように頷いているケネットを見ながら、マルコは亮二についての説明を行っていた。先ほど、マデリーネを悲嘆から救った亮二の行動に帝国側は感謝と賞賛の嵐を贈っており、ケネットも同じように賞賛をしていたが、マルコに別室に連れて行かれると亮二の為人についての説明を受けた。
「そのようには見えませんけどね。リョージ殿の行動は考え抜かれた上での結果にしか見えません」
「だろ? 本人に聞いても『考え抜いての結果に決まってるだろ!』と言うのは間違いないだろうがな」
ケネットは苦虫を噛み潰したようなマルコの表情を見ながら苦笑を浮かべていた。帝国に伝わっている噂では、突然現れた亮二を最初に見初めたのは目の前に居るマルコであり、それ以降の活躍もマルコが絡んでいる事が多かったからである。亮二の話を聞いた帝国の高官たちも『なぜ、彼が現れたのがサンドストレム王国なのか!』と歯噛みしているとの噂も聞いている。
「少なくとも、リョージ殿がサンドストレム王国に現れてくれて助かりました。帝国では彼を使いこなせないでしょうからね」
「だろうな。王国側でも、友人付き合いしているマルセル王やハーロルト公爵やユーハンもリョージが突然居なくなるのではないかと、戦々恐々としているぞ」
亮二の自由奔放さは王国側でも取り扱いに苦慮している事が分かったケネットは、マルコに対して亮二の取り扱いの説明を熱心に確認するのだった。
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「遅いよ! マルコとケネットさん! 姫の挨拶が始まらないだろ! 飯を配れないじゃん」
「悪い。悪い。ん? 姫が挨拶するのか?」
亮二の叱責にマルコとケネットが素直に謝っていると、二人の姿を確認したマデリーネが挨拶を始めた。
「皆さん! 恐怖に苛まれながらの行動をさせてしまって申し訳ありませんでした。ですが、安心して下さい! サンドストレム王国から王太子のアンデルス殿下が二千名の兵士を引き連れて援軍に来てくださっています!」
マデリーネの言葉に集まっていた帝国民は歓声を上げた。魔物の襲撃に怯えながら逃げ続けている日々であり、やっと逃げ込んだ街で二千名の援軍が来たのである。別の国の軍隊であっても一般人からすれば関係なく、心強い存在であった。
「さらに、知っている方も多いかもしれませんが、援軍の中に王国で勇名を轟かせているドリュグルの英雄と呼ばれているリョージ伯爵も参加されています。街に入る際に、私達の目前まで迫っていた魔物の群れを殲滅したのは彼の力です! さらに全員分の温かい食事もリョージ伯爵は用意してくださっています!」
マデリーネから英雄と呼ばれる人物が援軍に来てくれた事と、温かい食料配布の話が出ると帝国民達から街中に響き渡るような歓声が上がった。その様子を眺めていたマルコが不安げな顔をしながら亮二に質問をした。
「おい。リョージ。本当に大丈夫なんだろうな? 王国の兵士二千名と帝国の住民を入れると五千名以上は居るぞ?」
「ああ。それくらいだったら大丈夫! こっちに来る時に念の為に俺のイオルスさんの幸福な皮袋に大量の食材を入れておいた。それ以外にも俺が作ったアイテムボックスにも食材を大量に確保してるから、一ヶ月くらいだったら養えるよ!」
亮二の言葉を聞いて、納得したように頷いたマルコとケネットだったが、何気なく食料の数を計算してぎょっとした表情になって亮二を見つめた。
「ほ、本当ですか? リョージ殿?」
「お、おい。本当に大丈夫なんだよな? それも一ヶ月分は持つって言ったか?」
「ああ。五千人分だろ? 小麦や野菜なんかは商人のセシリオに他領から大量購入させていたし、肉は魔物の肉が腐るほどあるしな。腐らないけど」
あっけらかんとした表情で説明する亮二に、マルコは呆れていたがケネットは喉を鳴らしながら質問した。
「つまりはリョージ伯爵は五千名の兵士を一人で食べさせられる量の食料をお持ちと言う事でしょうか?」
「えっ? そんな事ないよ? 俺のアイテムボックスには量は入らないって設定になってるんだよ」
「アイテムボックスは容量と時間経過がありますが、時間経過をゆっくりにすると容量が物凄く小さくなると聞いています。それに設定?」
「おい! 設定とか言うなよ。お前のアイテムボックスがアーティファクトなのは知ってるけど、気付かないフリしてる俺達の身にもなれよ。ケネット殿。リョージのアイテムボックスの事については気にせずに流してくれると助かる。あまり追求するとリョージが国から逃げ出す可能性があるんでな」
ケネットの質問に亮二がトボけた感じで返事をしたのを見て、苦笑しながらマルコがケネットにアイテムボックスについては、王国でも見て見ぬ振りをする事が決まっていると伝えるのだった。
アイテムボックス万能説!