297話 戦闘開始 -全力で暴れますね-
これまでの鬱憤を晴らしてやる!
「テンション上がってきた! ここから本気を出していくぞ!」
亮二はストレージからコージモの剣を取り出すと、水属性魔法をまとわせて戦い始めた。右手にコージモの剣、左手にミスリルの剣を使って縦横無尽に斬りつけ、その一撃が致命傷となる圧倒的な戦闘力を見せつけている亮二に、魔物達は混乱状態になり始めていた。
「おっ? さっきまで不自然に統制が取れていたのに、急に混乱状態になり始めたな。もう少し攻撃を続けたら撤退するかな?」
亮二は魔物達が混乱している事を冷静に分析しながら戦いを続けていた。正面から襲ってきた熊型の魔物は雷属性をまとわせたミスリルの剣で切り付け、背後から攻撃を仕掛けようとしていた豚人を水属性をまとわせたコージモの剣で回転しながら切り捨てた。
二体とも亮二の攻撃で絶命した瞬間にストレージに収納されており、出来上がった空間には別の魔物が入り込んで攻撃をしようとしていた。
「うっとおしい! 俺のタイミングで好きに攻撃させろ!」
亮二は叫びながら空いたスペースに入った魔物に向けてファイアアローを撃ち放った。燃え上がった魔物が絶叫を上げながらのたうち回り、周りの魔物を巻き込みながら絶命するのを確認した亮二は、風属性魔法を使って三メートルほど飛び上がった。
亮二は魔物が集中していそうな場所にファイアボールやアイスボールなどを五つほど呼び出して撃ち放ち、魔物の混乱に拍車をかけていくのだった。
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「よっと! ほい! そら! そっちは火の海だぞ!」
「な、なんで! なんで、あの状態から魔法が撃てるんだ? 斬撃を放ちながら魔法を撃ってるぞ! 詠唱は? 詠唱はどうしてるんだ?」
亮二の攻撃は苛烈を極めていた。近場に居る敵についてはミスリルの剣とコージモの剣で斬り捨て、中距離の敵にはアロー系の魔法を撃ち、遠距離の敵にはボール系の魔法で被害を拡大させていた。亮二は混乱しながら喚きながら見学状態になっている白色の鎧に身を包んでいる騎士達の事を完全に忘れた状態で、先日のフラストレーションの貯まった戦闘での鬱憤を晴らすように全力で戦っていた。
亮二と魔物の戦闘が始まって三十分が経過していた。残っているのはかろうじて命を繋ぎ止めている魔物と見学している騎士達に亮二だけであり、残りの魔物は圧倒的な存在感を放っている亮二に恐怖を植え付けられ、振り返る事もせずに武器等も投げ出して逃げていた。
「よし! 完全勝利!」
周りに向かってくる敵が居ない事をインタフェースで確認した亮二はガッツポーズをして勝利宣言をすると、倒した魔物をストレージに収納し始めた。手際良く収納していた亮二は逃げ出した魔物の武器を眺めて、武器の性能の良さに首を傾げていた。
「これって、普通の魔物が持つような武器じゃないよな? 冒険者が持っているような武器を魔物がなんで持ってるんだ?」
「助力には感謝するが、聞きたい事がある! ……無視をするな! 返事をしないか! ……ちょっと? ねぇ! 聞いて! お願いだから!」
亮二がストレージから取り出した鉄の剣を眺めながら呟いていると、背後から白色の鎧に身を包んでいる騎士が話し掛けてきた。亮二は話し掛けられえいる事を分かっていながら軽く無視をして収納を続け、全て終わらせてから今気づいたかのように振り返って答えた。
「えっ? 俺の事を呼んだ?」
「うぅ。はっ! そ、そうだ! 君は一体何者だ?」
問い掛けてきた姫騎士と呼ばれていた女性は、髪は金髪ストレートの碧眼で、普段なら凛々しくしているのだろうが、逃避行の疲労と亮二の出鱈目な強さに唖然呆然愕然とし続けており、魔物が居なくなった安堵感と合わせて軽い混乱状態になっているようだった。
戦闘終了後に亮二に話し掛けても無視されていたのも堪えたのか少し涙目になっており、亮二は少しからかい過ぎたと反省すると姫騎士の眼をしっかりと見て話し始めた。
「通りすがりの旅人です。じゃあ! そういう事で」
「「「そんな訳があ(りますかぁぁ)るかぁぁぁ!」」」
そこら中に焼け跡や氷柱、クレーターに水溜りがある壊滅状態になった戦場を背景に、爽やかな笑顔で言い切って右手を上げて去ろうとした亮二に、姫騎士を始めとする数十名の騎士から絶叫に近いツッコミが入るのだった。
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「安心してください! 怪しい旅人じゃないよ!」
「通常なら拘束して取り調べをするのですが、それほどの強さがあれば拘束自体が無理だと思います。なので、お願いしか出来ませんが臨時詰所まで来てもらえませんか?」
あくまでも爽やかな笑顔で怪しくないと言い切る亮二に根負けした姫騎士は、ため息を吐きながら詰所まで同行するように亮二に求めてきた。亮二としても情報を集めておきたいので、からかうのは程々にして同行について了承すると街の中に入っていくのだった。
「おぉ! すごい人気だね」
「当然ですよ。全員が無事に街に入れたんだから。誰かさんが居なければ、騎士団は壊滅に近い状態になっていたでしょうけどね」
「『くっ! ころ!』って感じ?」
「なんの話? 『くっ! ころ!』? どういった意味?」
亮二の発言に首を傾げながら姫騎士達が街の中に入ると、先に街の中に逃げ込んでいた帝国民達が大歓声で出迎えた。街中が姫騎士や騎士団に対して感謝の言葉で溢れ返っており、一同は歓声を背に街の中で一番大きな屋敷の応接間に亮二を連れて来るとしばらく待つように言われた。
「じゃあ、早速、話を聞かせてもらおうか」
二十分程待たされた亮二は、鎧を脱いでラフな姿で応接間にやって来た姫騎士から尋問を受けるのだった。
尋問が始まりました。別に隠す事はないんで全部話しますけどね。