296話 偵察の中で -色々と出会いますね-
進軍は順調に進んでいます。
帝都への行軍は順調に進んでいた。街道を使って帝都を目指していたのだが、帝国の人間に会う事もなく、それ以外にも魔物や動物などの生物にも遭遇する事はなかった。
「それにしても生き物に全く遭遇しないな。今まで遭遇したのって、虚ろな目をした兵士とゾンビ化したワイバーン二体だけじゃん」
「そうだな。町や村も有るのに人が居ないってのは不気味なもんだよな」
心底不思議そうに呟く亮二に対して、マルコも薄気味悪そうに答えていた。諸侯軍一行は敵に遭遇する事が無かったために進軍速度は速く、予定よりも2日ほど早く進んでおり帝都まで五日ほどの場所まで来ていた。帝都が近い割に斥候の兵すら居ない事に疑問を感じたアマンドゥスは、帝都に向けて偵察を出す為に暇そうにしていていた亮二を呼び寄せると指示を出した。
「リョージ伯爵。申し訳ないが帝都方面に偵察をお願いしていもいいでしょうか?」
「もちろん! ちょうど暇してたんだよ。偵察の内容によって進軍速度を調整するって感じだよね。結構重要な偵察になるから早目に出発したほうがいいよな。じゃあ、今日の食事は昼はサンドイッチと果実ジュースにしてもらって、夕食はお好み焼きにしておこう。輜重隊! 小麦粉と山芋と卵をあるだけ用意して厨房に集合!」
亮二の掛け声に輜重隊の十名が荷馬車から小麦や山芋などの食材を取り出すと、亮二が作った小屋の中に順番に入っていった。
「それにしてもリョージ伯爵が作られる料理は、どれも本当に美味しいですね。この戦いが終わったらエレナも一緒の食事会を王家主催で行いたいので、臨時調理長として来て頂いていいですか?」
アンデルスが冗談交じりに亮二の料理を褒め称えながら、王都に戻った後の食事会で料理長をお願いすると、貴族の一人が毅然とした態度で苦情を言い始めた。
「殿下! いくら殿下でも言っていい事と悪い事がありますぞ! リョージ殿は伯爵ですぞ! 戦時で特別とならともかく、王都で料理長なんてダメに決まっているでしょう! ちなみに、リョージ伯爵。私の屋敷では最近料理長が亡くなりましてな。よろしければ教授として講義に来て…… 痛ぃ!」
「結局は自分のところに来て欲しいだけかよ!」
マルコからツッコミを受けた貴族は満足気な表情を浮かべながらマルコに感謝を述べると、アンデルスに対して無礼な発言をした件について謝罪するのだった。この貴族は実際に料理長を亡くしており、王都帰還後に亮二主催による料理勉強会が開催され、そこで亮二から指導を受けた料理人がこの貴族の料理長に就任するのだった。
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「相変わらず人っ子一人居ないよな。なにも情報を得られなさそうだし、そろそろ戻るか」
相変わらず近場の村や街には人が居らず閑散としており、アマンドゥスから指示を受けて偵察をしていた亮二は、一度拠点に戻るために寄った最後の街の入り口で引き返そうとしていた。亮二が立ち寄った街も人の気配はせずに耳鳴りがするような静けさが支配していた。
「少し探索だけでもしてみるか」
亮二は呟きながら街の中を探索していたが、やはり誰も居らず落胆した表情で引き返そうとした時に前方から、かなりの人数が雪崩れ込むように街に入ってきた。先頭を走っていた騎士に亮二が質問をしようと近付くと、遠くの方から剣撃が音が響いてきた。
「ねえ! 今、誰が戦っているの?」
「なんだ! 姫騎士様が汝らの為に最後尾を守ってくださっているんだろうが! ん? 前から歩いてきたが、どこから来た? それに見かけない顔だな?」
亮二の質問に騎士が鋭い声で答えはしたが、今まで見た事のない少年が居る事に疑問思うと不審者を見るような目で亮二に質問を返してきた。亮二は騎士の声に応える事なく、剣撃がする方向に向かって風属性魔法を身に纏うと全力で走って行くのだった。
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「ここで引けば帝国の名折れだぞ! 白竜騎士団の意地を見せろ!」
「「おぉ! 姫騎士様に続け!」」
門を出た辺りで数十名の騎士達と全身白色の鎧を来た騎士が戦っていた。魔物との戦闘は実力としては騎士達の方が優っていたが数量で押されており、白色の鎧を着た騎士以外は苦戦しながら戦闘を継続させているようだった。
「へぇ。結構強いね。助太刀するよ」
「誰だ! 子供は早く門の中に入れ!」
白色の鎧を着た騎士に亮二が声を掛けると、子供扱いされた答えが返ってきた。亮二は少しムッとすると目の前で戦闘が続いている中に向かって右手を振り上げた。
「ライトニングアロー32連」
亮二の目の前にライトニングアローが生まれると、戦闘を続けている中に向かって右手を振り下ろした。亮二の意志に反応したライトニングアローは、騎士達と戦っていた魔物の群れに向かって突き進むと眉間に突き刺さった。
「なっ! 何事だ?」
「ゾンビ以外の魔物と戦うのって久しぶりって感じかな? まずは雷属性二重掛けからいってみようか!」
突然の乱入者によって、崩壊しかけていた防御ラインが一瞬で回復した事に驚いている一同を尻目に、亮二はストレージからミスリルの剣を取り出して雷属性を二重掛けすると、魔物の群れに突入して片っ端から攻撃を加え始めた。
「なっ! なんだ! あの出鱈目な強さは!」
「誰か! あの子供の正体を知っている者は居ないの?」
周りに居た騎士や、白色の鎧に身を包んでいる騎士が属性を次々と切り替え、魔法も駆使しながら戦っている亮二の強さに驚愕しながら呟いていると、街の中に居たはずの騎士が息せき切った状態で報告してきた。
「街の中に居た子供です! で、ですが何者かは分かりません。一瞬で走りだしてしまったので……」
「街の中に居た? 先頭で街の中に入った貴方と会った? それで会話した後にここに来たって事? ここまで結構距離あるわよ?」
白色の鎧に身を包んでいる騎士がブツブツと呟いている間にも亮二は魔物の数を減らしており、なぜか倒された瞬間に魔物の姿は消え失せていた。自分達が死に物狂いで攻撃を防ぎながら近場の街まで撤退してきた魔物に対して、軽く相手をする感じで次々と討伐していく子供の強さに、白色の鎧に身を包んでいる騎士は目を離せなくなるのだった。
久しぶりのゾンビ以外の魔物との戦闘です!