282話 帝国への援軍準備3 -呼びに行きますね-
ロジオンとテオバルトを呼びに行きます。
「おう! リョージも戦いに来たのか? マルコも一緒って事は会議は終わったんだよな? なにが決まったのか教え…… 痛ぃ! なにすんだ! 問答無用でハリセンで叩きやがって!」
「テオバルト騎士団長。ヘルマン宮廷魔術師から会議をサボった件について話があるので、会議室に早急に来るようにとの事です」
亮二とマルコが闘技場に来たのに気付いたテオバルト騎士団長が声を掛けてきたが、マルコはテオバルトの台詞をハリセンで遮ると伝言を伝えた。
「なんでヘルマンの所に行く必要があるんだよ? どうせ会議に出ても寝ちまうんだから出席しなくてもいいだろ? 後で決まった事を教えてくれればいいんだよ。そうだ! リョージと戦った後ならヘルマンの話を聞いてもいいぞ!」
「だとよ。どうするリョージ?」
テオバルトの言葉にマルコが呆れながら亮二に確認をしてきたが、やる気満々な表情の亮二にため息を吐きながら横に退くと審判を務めるのだった。
「いいか? 木剣を使ってするからって無茶をするなよ? それとリョージは魔法での攻撃は禁止だ」
「俺は別に魔法を使って貰っても構わないがな」
マルコの言葉にテオバルトが木剣の頼りなさに嘆きつつ、素振りをしながら魔法を撃っても問題ないと伝えてきた。亮二はテオバルトの言葉にニヤリと笑うと火水風雷氷土を発現させると、それぞれの属性ボールを作りだすと連続で撃ち出しながら笑顔で言い放った。
「魔法を使ったら瞬殺になるけどいい?」
亮二が撃ち放った属性で作られたらボール群は、誰も居ない場所に着弾すると轟音と共に巨大な土煙を巻き上げた。あまりの威力にやる気満々だったテオバルトと、近くで見学していたロジオンは唖然とした表情のまま固まっており、周りに居た兵士達は興奮した表情で近くに居た者と話し合っていた。
「さすが、ドリュグルの英雄だな」「おい。あれと戦うってテオバルト騎士団長って凄いよな」「だが、あの勢いで戦われたら、ここで見学するのも危険じゃないのか?」「そうだよな。まえに王と姫が話し合いををされた時の破損が、やっと直ったのに修理でまた使えなくなるのか」
周りで2人の戦いを見学するために集まっていた兵士達の声が聞こえたテオバルトは、大きく咳払いをすると亮二に向かって話し掛けた。
「ん、んん! そ、その、やっぱり魔法は止めておこうか。周りを巻き込むと良くないからな」
「そうだよね。周りを巻き込んだら駄目だもんな」
亮二の言葉にテオバルトがホッとした表情を浮かべたのを見て、マルコは苦笑を浮かべると開始の合図をするのだった。
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「先手必勝!」
テオバルトは開始の合図が上がった瞬間に、叫びながら一気に亮二との間合いを詰めると全力で上段から木剣を振り下ろした。テオバルトからの上段からの一撃を軽くサイドステップで躱すと、亮二は振り下ろされた木剣に全力でケリを入れて弾き飛ばそうとした。
亮二から木剣にケリを入れられたテオバルトは、今まで受けた事のない攻撃に動揺しながら、なんとか木剣を取り落とさないようにと力を入れたが、力を入れすぎた為に一瞬身体が硬直してしてしまった。
そんな隙を逃す亮二ではなく、テオバルトの背後に回って膝の裏にケリを入れて膝かっくん状態にすると、膝をついたテオバルトの首筋に木剣を当てて「はい。終わり」と告げるのだった。
「それまで! この勝負はリョージの勝ちとする!」
「ちょっと待った! 頼む! もう1回だけ相手をしてくれ。これじゃあ、あまりにも消化不良で納得ができない」
「よし! その心意気に免じてもう一回だけ相手をしてやろう。次は一撃で決めないから安心していいよ」
テオバルトからの泣きの一回が入ったのを亮二は軽く了承すると木剣を構え直した。マルコはなにか言いたげにしていたが苦笑しながら首を振ると「あと、1回だけだぞ」と告げて再び開始の合図をするのだった。
「おい。もう5分以上は戦っているぞ」「そうだよな。あれだけの動きを全く衰えさせずに戦い続けるって凄くないか?」
2戦目は正面から剣撃を続けているテオバルトの猛攻を、亮二は軽やかに剣で捌き続けてた。教科書に載っているような攻撃と防御のお手本のような戦い方に、周りで観戦していた兵士達は魅了されたように見続けていた。
「俺は、さっきの戦いで団長が弱くなったと思ってしまったが、リョージ伯爵が強すぎるんだよな。あのドリュグルの英雄相手にあれだけ戦い続けられるって尊敬するよ」
先ほどの戦いを見ていた兵士達は、一撃で決着が付いたテオバルトの強さに疑いを持ち始めていたが、2戦目の戦いを見て考えを改めていた。2人の動きは自分達の最速の動きでは比較対象にならない程の速度が出ており、単に速度が出ているだけでなく一撃ごとの剣撃にも重さを伴っていた。
「よし! 防御はこれくらいにして、こっちのターンだ!」
亮二はテオバルトの攻撃を大きく弾くと、一旦間合いを取って攻撃に転じ始めた。亮二からの攻撃に対して防御に回ったテオバルトは、始めは防御が出来ていたが時間が経過するにつれて防御に綻びが出始め、亮二の攻撃が徐々に当たるようになってきた。
「ま、参った。こ、これ以上は体力が持たない」
「よくやったと思うぞ。俺の攻撃を3分は持ち堪えたんだからな」
膝を付き息も絶え絶えの状態で降参を申し入れたテオバルトに、亮二はストレージから巨大な水筒を取り出して飲みながら賞賛を送るのだった。
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「よし! じゃあ、ヘルマンの話を聞きに行くか。ロジオン殿はどうされる? 一緒に行くか?」
「色々と帝国の内情を伝える必要が有るから、一緒に行くとするか」
2人は汗を拭うとスッキリした表情となってヘルマンの元に向かって行った。その様子を眺めていた亮二とマルコだったが呆れたような顔をしながら呟いた。
「あの2人は怒られるって自覚はないんだな」
「自覚が有ったら俺と戦いなんて言わないんじゃない? そんな事よりも、こっちを見ている兵士達の熱い眼差しの方が俺としては気になるけどな」
亮二は、先ほどの戦いを見て改めて亮二の強さを認識した兵士達が、テオバルトの次に模擬戦をしてもらおうと順番に並んでいるのをみて軽くため息を吐くのだった。
この後、兵士達と模擬戦を30戦ほどしました。マルコからは「全力で付き合ってんじゃねぇ! さっさと領地に戻って準備をしろ!」とツッコまれました。