277話 エレナ姫とのデート4 -なぜか戦いになりましたね-
ロジオンと戦うことになりました。
少し離れて観客の一人となったエレナに向かって亮二は片手を上げながら話し掛けた。
「ごめんね。ちょっとだけ拳撃王って呼ばれているオッサンと遊ばせてね」
「むう。ちょっとだけですよ。この後にスイーツを食べに行って、指輪を買う予定なんですから」
亮二のお願いに頬を膨らませながら了承すると他の観客と同じように亮二の応援を始めた。亮二とエレナとのやり取りを見ていた王国民達は微笑ましそうに、ロジオンの取り巻き達は怒声を上げながら見ていた。
「おぉ。物凄く怒声が上がっているな」
「気を悪くするなよ。俺達は帝国から女っけ無しでここまで来たんだ。それにしても、あの女に物凄く入れ込んでいるな。俺の知っているドリュグルの英雄だと、嫁と恋人が5人ずつで愛人が300人居るにもかかわらず、女が群がるって聞いているけどな。今はあの女に執着してる感じか?」
「人を女と見たら見境無しみたいに言うなよ! 帝国での俺の噂が王都よりも酷いじゃん! そっちの方が気を悪くするわ」
怒声の大きさに、思わず呟いた亮二にロジオンが軽く笑いながら怒声の理由を話したが、それよりも帝国での噂の内容の誇張さに今度は亮二の方が怒声を発した。
「はっはっはっ。まあ、良いじゃねえか。強い奴がハーレムを築くのは当たり前だぞ。俺も帝国に帰ったら嫁は10人に恋人も10人くらいはいるからな。それよりもそろそろ戦おうぜ」
「ああ。そうするか。エレナとデートする時間が少なくなるかなら」
亮二はそう言い放つと腰を落として軽く拳を握るのだった。
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ロジオンは目の前で腰を落として戦闘態勢になった亮二を楽しそうに眺めていた。見た目は間違いなく子供で、巷で噂のドリュグルの英雄には全く見えなかった。話し方は大人顔負けだが、身体は子供であり筋力も有るようには見えなかった。
「構え自体に隙はないから本物って事か。スピード重視の戦士ってところか? そう言えば魔法も使えるって話だから、魔法を組み合わせながら相手の隙を窺うタイプだろうな」
ドリュグルの英雄の噂が独り歩きして帝国までやって来たのを真に受けて、王都までやって来たのは間違いだったと軽くため息を吐きながらロジオンは亮二の動きを見ていた。
「なっ!」
亮二が腰を軽く沈ませたまでは把握していたが、気付いた時には懐まで潜り込まれており、全身に汗が噴き出るような感覚を覚えながらもなんとか亮二の攻撃を躱した。体勢を崩したロジオンの隙を逃す亮二ではなく畳み掛けるように間合いを詰めながら連続攻撃を始めた。
「なめるなっ!」
防戦一方になりながらも亮二の攻撃を躱していたロジオンだったが、軽めのジャブをわざと受けると体格差を活かして体当たりを行い間合いを取った。
「おぉ。やるじゃん。思っていたよりも楽しめそうだな。だてに拳撃王の二つ名を持ってるだけはある」
「こっちもビックリだよ。まさか俺が防戦一方になるとはな。ちなみに俺の聞いたドリュグルの英雄は剣士だったはずだが?」
「そっちが拳で来てるのに俺が剣を使ったらズルいじゃん」
亮二の軽口にロジオンも同じように軽口で返したが、亮二から返ってきた回答に一瞬唖然とした表情になった後に大爆笑をし始めた。あまりの大声で笑い続けるロジオンを周りの観客が不安そうに見ている中、亮二は少し間合いを開けると腰を落として警戒態勢になった。
「久しぶりに大笑いしたぜ。俺に対してここまで言い放つ奴がいるとはな。じゃあ、俺もリョージが子どもとは思わずに本気になって戦うとしようか」
「最初からそうしたらいいんだよ。お前じゃなかったら『今の台詞はフラグだぞ』って言うところだ」
ロジオンは獰猛な笑みを浮かべながら先ほどとは比べ物にならないスピードで突っ込んでいった。亮二は軽くサイドステップで攻撃を避けると蹴りを放ったが、ロジオンは亮二の蹴りを片手で鷲掴にすると全力で投げ付けた。
「うぉ! 危ねえ! 思ったよりもやるな拳撃王!」
「それはこっちの台詞だ! やるじゃねえかドリュグルの英雄!」
回転して体勢を整えた亮二が賛辞を送ると、ロジオンからも賛辞が返ってきた。2人は嬉しそうにしながら再び戦闘に突入するのだった。
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「おいおい。なんか凄い事になってきたよな? この場所で観戦するのは危ないんじゃないか?」
「俺もそう思う。リョージ様が戦っているのを初めて見たけど、ドリュグルの英雄ってのは伊達じゃないよな」
観客の輪が少しずつ大きくなり始めた。亮二とロジオンの戦いは10分ほど経過していたが勝負はついておらず、戦いは白熱していた。スピードの亮二と力のロジオンの戦いは、スピードで勝る亮二だが力不足で決定打を与えられないように素人目には見えていた。
「おい! ふざけているのか! リョージ!」
突然、戦いを中断してロジオンが叫び始めた。観客は静まり返って2人の様子を見ていると、亮二が肩を竦めて理由の説明を始めた。
「俺が本気で戦ったら周りにも被害が出るだろ! ここは街中なんだぞ。ロジオンの取り巻き連中レベルだったら手加減しながら無力化出来るけど、お前相手には無理なんだよ」
「だったら本気で戦えよ! その腰に差している剣は飾りか! それに魔法も使えるんだろ!」
ロジオンが激怒しているのを見て観客として見ていたエレナが亮二に話し掛けた。
「リョージ様。剣は怪我人が出るかもしれないので駄目ですが、魔法なら良いんじゃないですか? 魔法を使うのもリョージ様の魅力の一つですよ」
「分かった! そうだよな。相手が拳撃王だからって拳だけで戦わなくてもいいよな。そういう事で魔法も使わせてもらうぞ! 行くぞロジオン!」
「へっ! やっと本気になるって事かよ。よし! 掛かって来いリョージ! 帝国で名を響かせている俺相手にどこまで……ぐわぁ!」
亮二の目が本気になったのを確認したロジオンは嬉しそうに構えを取ろうとしたが、亮二の身体が薄く光った瞬間に姿が消え、探す間もなく右からの衝撃を感じながら意識を失うのだった。
本気を出したら瞬殺でした。