25話 試練の洞窟広間の攻防2 -思い切りが必要ですね-
正:悪い流れを断ち切る時は大胆さが必要です
誤:悪い流れを引き寄せる時は大胆さが必要です
悪い流れを引き寄せてはだめですよね……。
戦線自体は亮二の参加によって一時的に復旧したが、戦況としては振り出しに戻ったに過ぎず、時間が経てばまた戦線が崩壊に向かう可能性があった。亮二はこの状況を打破するためにインタフェースを起動して残敵の数を索敵モードで確認し始めた。索敵範囲を50mで検索すると無数の赤い点がバリケードで作られた3箇所の出口から奥の通路まで続いていた。そのままでは残敵が分からないため索敵モードでログ表示画面に敵数を出すイメージを行った所、ログ画面に「残敵数確認:残り154匹」と表示された。
- おぉ、上手くいったな。残敵数は154匹か。俺1人で出口が1つだったら時間さえ掛ければ殲滅できそうだけどそうもいかないよな。出口が3箇所ってのは駐屯軍兵士達で抑えられるからなのか?でも、3箇所も出口があると俺のフォローが間に合わない可能性が出てくるな -
そう考えた亮二は部隊長に事態を改善する提案を行うのだった。
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「部隊長さん、敵の残りは200くらいだよ。このままの状態なら時間が経てば殲滅は出来るかもしれないけど、こちらも死者が出る可能性があるよね。そこで、ローテーションを決めて疲れが溜まらないようにしていけば疲労の溜まり具合もマシになるんじゃないかな?」
「“ろうていしょん”?なんだそりゃ?リョージは何が言いたいんだ?」
亮二の提案にマルコは首を傾げながら「お前は何を言っているんだ」と言わんばかりの顔で問いただした。
亮二の提案は
・今ある3つの出口を2つに変更する
・右側は亮二と5名で左側はマルコと5名で対応
・中央には部隊長と残りの兵士を配置し、基本的には休憩だが戦況によって動く遊軍とする
・戦闘は3名1組で行い戦闘時間は3分で交代を厳守とする
「これで、中央にいる人は休憩できて回復した状態で戦闘に復帰できるでしょ?それと回復役のカレナリエンさんにはこれを渡しとくね」
「え?腕輪ですか?」
亮二は手に付けていた“ミスリルの腕輪”をカレナリエンに渡すと使い方を説明した。
「これは、ウチノ家の家宝の一つで“ミスリルの腕輪”なんだよ。通常の杖に比べると5倍以上の性能が出るらしいよ。それだけじゃなくて、この腕輪には魔力を貯めることが出来て、俺の魔力を貯めてあるから戦闘が始まったら回復魔法を遠慮無く唱えていって欲しい」
「“ミスリルの腕輪”ですか!それってイオルス神が付けている神具の一つですよね?何でそんな物をリョージさんが持ってるんですか?」
声に微かに震えが混じっているカレナリエンの台詞に「家宝だけど、何で有るのか知らない」と軽くはぐらかしてスルーした。納得はしてなくても亮二から渡された“ミスリルの腕輪”が本物で有る事を理解したカレナリエンは恐る恐る装着すると、亮二に促されて戦闘中の部隊に腕輪の魔力を引き出すイメージで全体回復魔法を掛けるとビックリした顔になった。
「リョージさん!頭のなかに「残り98%」って声が響いたんですが!」
「へー、声が響くんだ。残り98%なら今カレナリエンさんが使った魔法なら後49回は唱えても大丈夫!“ミスリルの腕輪”の魔力が無くなってからカレナリエンさんの魔力を使ってね」
「よ、ようんじゅうきゅうかい?私の魔力だと10回も出来ませんよ」
愕然としながら口から魂が出そうなほどのため息をついて答えると「よし!決めた」と亮二を見ながら呟やき、残りの部隊にも全体回復魔法を使用して「私が皆さんを支えますから頑張ってくださいね!」と声を掛けた。カレナリエンの回復魔法と応援でテンションの上がった駐屯軍兵士から「おぉ!」と鬨の声が上がった。
「作戦は分かったが、どうやって正面を封鎖するんだよ?」
「あぁ、それは俺が正面から右側に抜けて時間を稼ぐからその間に塞いでくれたら良いよ」
カレナリエンと亮二のやり取りを眺めながら出口を2つにするやり方が分からない事に対して質問したマルコに予想外の回答が返ってきた。
「正面を閉じる作戦は1分後に開始って事で。じゃあ行ってきます」
「ちょ、ちょっとリョージくん!」
カレナリエンが止める間もなく「ちょっと、近所の店に買い物に」位の軽い感じで亮二は”ミスリルの剣”を引っさげながら正面の出口に突っ込んで行くのだった。
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正面の出口からバリケードの中に突っ込んだ亮二は、目の前に飛び込んできた緑狼を一刀両断するとストレージに収納した。その勢いのままにミスリルの剣に【火】属性を付与し、右側の豚人を袈裟斬りにして大きく燃え上がらせた。突然燃え上がった豚人を切った自分に魔物の視線が集中したことを確認すると、属性を【雷】に変更して目につく魔物に片っ端から斬りかかった。
亮二が突入して1分が経った頃に正面の出口がその役割を終えるように閉じ始めた。背後でバリケードが動く音を確認すると正面から右側に向かって縦横無尽に斬り分けながら進んでいった。【雷】属性を付与しての攻撃なので、致命傷を負っていない魔物も痺れて動けなくなっており生死に関係なく痺れて動けなくなった魔物は後から出てきた仲間に襲われて喰われていた。その様子を眺めながら「時間稼ぎにはなるな」と独り言として吐き出すと、仲間を襲っている魔物達も同じ様に痺れて動けなくしてから右側の出口に向かった。
「脱出成功!!」
「成功!じゃないですよ!リョージさん、この戦いが終わったら覚えておいて下さい!2時間お説教コースですからね!」
呑気な声で右側の出口から出てきた亮二に怒り心頭のカレナリエンから大きな声が飛んできた。カレナリエンに「ごめんね」と舌を出して反省していない顔で謝ると、そのまま右側での戦闘を開始するのだった。
ノリと勢いは大事です




