258話 打ち上げで軽い騒動 -お酒は怖いですね-
宴会が盛り上がってきました。
「伯爵! 飲んでるか…… そんな訳ないか。子供だもんな。まあ、果実水でも良いから乾杯をするぞ! 今回の件は本当に感謝している。ギルドの出張所だった場所に立派な建物が建つんだからな!」
「喜んでもらって嬉しいよ。“深き迷宮”は今後の領地運営で重要な位置を占める予定だから。これからも色々と話を持っていくと思うから協力よろしく!」
出張所に詰めている冒険者ギルド副ギルド長のオーベから感謝の言葉を告げられた亮二は、嬉しそうにしながら果実水が入ったコップを掲げた。亮二からの返答にオーベもエールの入ったジョッキを掲げて再度、乾杯を行いながら冒険者に向けて声を張り上げた。
「おい! 伯爵がせっかく用意してくれたんだから残すなよ! ほらっ、ギルドで用意した酒も余ってるぞ! 明日の分まで食い溜めとけ! 遠慮するだけ損だぞ! 俺も食べるぞ」
「ぎゃはは。当たり前っすよ! 明日の分まで食いまくるっすよ! それにして伯爵って良い人だったんすね! 伯爵の嫁さんや愛人が増えてるのを聞いた時は、ぶん殴ってやろうと思っ…… ぎゃぁ!」
「その話はするな! それと、言っとくけど俺に愛人なんて一人もいないからな!」
肉を片手に持った冒険者の一人が亮二に近付きながら声を掛けてきた。最初は楽しそうに話を聞いていた亮二だったが、女性関係の話になると血相を変えて冒険者に対して威力を落とした“ウォーターボール”をぶつけると強制的に黙らせたが、そんな様子を見ていたメルタとカレナリエンが徐々に距離を詰めながら問い掛けてきた。
「それにしても、先ほどからリョージ様は女性の話になるとムキになられますよね?」
「あっ! それは私も思った。なにか隠してる感じだよね? なにを隠してるんですか?」
亮二は挙動不審になりながら全力で否定を始めた。
「別になにもないよ! 王都に行った時にカレナリエンやメルタの他に結婚する人が居るとか言われてないよ! ダイジョウブダヨ。オレガケッコンスルノハカレナリエントメルタダヨ」
「その言い方だと、私達の他にも結婚相手が居ると言われましたね? エレナ以外の誰ですか? シーヴとクロは良いとして、まさかライラ? でも、ライラは王族種の魔物だし……。リョージ様、ちょっと正直になって白状をしましょうか?」
カレナリエンとメルタが問い詰めてきたので、亮二は近くにあった飲み物を2人に勧めながら必死で話を別にすり替えようとするのだった。
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別の話にすり替えが奇跡的に成功したようで、20分ほどは楽しく会話をしていた3人だったが、急にカレナリエンとメルタが赤い顔をしながら近付くと、亮二にしなだれかかりながら絡んできた。2人の大胆さに亮二が挙動不審になりながら引き離そうとしたが逆に身体を押し付けられると勢い余って、もつれるように倒れこんだ。
「ちょっ! 嬉しいんだけど、いつもと違う感じだよね? 2人とも酔ってるんじゃないの?」
「カリェニャリエンはワインをぎゃぶ飲みしていたので酔ってりゅかもしえまえんが、わらりはじぇんじぇん酔ってみゃしぇんっよ? そうりゃ。しゃっきの結婚相手が居りゅ話でしゅが誰にゃんですか? ははは。語尾がにゃんてにゃってりゅ。にゃんにゃん。ごろごろにゃん」
「私が、お酒に酔うわけ無いじゃないですか。ほらっ! リョージ様にくっついていてもフラフラしてません! あっ! そうです! さっきの結婚相手が10人居る話の続きをしてもらいましょうか。私とメルタとシーヴとエレナとクロとライラとドリュアと、後は誰だっけ? シャルロッタは違うし、エリーザベトはオルランドとくっついたし…… はっ! そうだ! 私のお酒が飲めないと仰られるのですか? ささっ! 私の注いだお酒をぐぐっっと!」
慌てる亮二の問い掛けにメルタは呂律が回らない状態で、カレナリエンは口調はしっかりしているが話の内容が支離滅裂な状態だった。共通しているのは2人とも完全に亮二にしなだれかかっており、甘えモード全開で詰問している事だった。
「しゃあ、ろっろとはくりょうししぇっもりゃ……きもじわりゅい」
「ささっ! ぐいっと! ぐぐっっと!」
「ちょっと! メルタ! ダメ! トイレに行こう! カレナリエンも子供の俺に酒を勧めない!」
亮二の上に乗り上がりながら視点の定まっていない状態で、事情聴取をしようとしたメルタの動きが止まり、徐々に青い顔をしながら亮二の腕を持ったままフラフラとし始めた。慌てた亮二はカレナリエンの方を見たが、彼女は彼女で片手にコップと瓶を掲げて亮二に酒を飲まそうとしており救援は頼めそうになかった。
「仕方がない! 緊急事態だからね」
両腕を掴まれて身動きの取れない亮二は、メルタを抱きしめたまま転移魔法陣を発動させると、自室に転移してメルタをトイレに連れて行き全て吐かせて、回復魔法と浄化魔法を掛けると、ぐったりとしたメルタをベットに寝かせるのだった。
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「ぶっつけ本番だったけど、意外と上手く出来たな。念の為に自分の部屋に転移魔法陣を置いといてよかったよ。まだ、自分のイメージだけで転移は出来ないからな」
メルタの具合が良くなったのを確認した亮二は、宴会の行われている会場に戻ってきた。盛り上がっているはずの会場は静まり返っており、首を傾げた亮二が会場に入ると阿鼻叫喚な状態になっていた。
「なっ! なにが有った?」
「リョージ様。どこに行かれてたんですか? メルタと急に消えるからビックリすじゃないですか。で、誰なんですか私達以外にも結婚する相手ってのは? ひょっとして、ソフィア? 当たりですね。やっぱりなぁ、正解したので、お酒を飲みましょうか?」
亮二の驚きの声に気付いたカレナリエンが笑顔で抱きついてきた。まだ、酔いは醒めていないようで口調はしっかりしているが言っていることは支離滅裂であり、行動も無茶苦茶で亮二にコップを渡して飲むように言ってきた。
「これって、酒だよな? しかも度数も高そうだが?」
「お、おぃ……。伯爵はその酒を呑むなよ……」
奥で倒れこんでいた中の副ギルド長のオーべが、なんとか立ち上がって亮二に話しかけてきた。オーべの話では、片隅で楽しんでいる亮二達を肴に飲んでいると突然カレナリエン一人になった事。急に一人になったカレナリエンはしっかりとした足取りで冒険者達の方に来ると『リョージ様知りませんか?』と聞きながら酒を勧め始めた事。酒は冒険者ギルドで所有していていた酒精がかなり強い酒で、原液で飲む酒ではない事。それをカレナリエンは冒険者全員に飲ませた事。
「飲めないと言った人間には勧めなかったのは偉かったけどな。だが、後は頼んだぞ……」
オーべは最後まで言い切ると崩れ落ちるように倒れて動かなくなった。亮二はその様子をため息を吐きながら眺めると、1人元気にしているカレナリエンの相手をするのだった。
ちなみに、お酒が飲めない組は別の場所でスイーツ三昧を楽しんでいたため無事だったようです。