257話 打ち上げ直前の話 -色々な話をしますね-
ライナルト結婚おめでとう。
「どうかされたのですか? リョージ様?」
宴会の準備をしていたカレナリエン達の下に、亮二が難しそうな顔をして帰ってきた。声を掛けられた亮二は、慌てて笑顔になると「なんでもないよ」と応えて部屋に戻っていった。
「ちょっと! クロ、ライラ。リョージ様になにがあったの? あんなに喋らないリョージ様を始めて見たんだけど」
「私達も分からない。すいーつを買って帰ったらああだった」
「そうなの。待ち合わせ場所に戻ったら、リョージはあんな感じで、どうしたのかと聞いても『なんでもないよ』としか答えてくれないの」
いつもと様子の、違う亮二に首を傾げながらなにがあったのかを問い掛けたカレナリエンだが、クロとライラ達も理由が分からないと首を振るのだった。不安を感じたカレナリエンはメルタに準備を任せると、亮二の居る部屋に向かうと扉をノックして呼びかけるのだった。
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「リョージ様? どうかされたのですか? 入りますよ」
恐る恐る扉を開けて中に入ると、机に突っ伏した亮二が居た。カレナリエンが部屋に入ってきた事に気付いた亮二は、突っ伏した状態のまま、顔だけをカレナリエンに向けると呟くように話し始めた。
「ねぇ。カレナリエンはライナルトが結婚する話って知ってた?」
「もちろんです。シャルロッタ学院長からもライナルト主任教授からも連絡が来てますよ」
亮二の問い掛けにカレナリエンが答えると、勢い良く顔を上げた亮二が驚きの声を上げた。
「そうなの! 俺は聞いてないんだけど?」
「ちゃんと報告しましたよ? てっきり、王都に行かれたのは、結婚の祝福を言いにだとばかり思ってました」
あまりの驚きぶりに戸惑いながらもカレナリエンが返事すると、亮二は「マジか」と呟きながら椅子に座り直した。カレナリエンの話では領都に着任して2週間ほどした頃にライナルトから手紙が来ており、亮二に報告したところ『よし! 俺が面白い事を考えてやる!』と言っていた事。実際に、工房で何かを作っていたとの事だった。
「えっ? えっ? 俺が工房で何かを作って…… あぁ! 思い出した! そうだよ! 確かにライナルトの為に作ってたんだよ! 有難う。カレナリエン。忙しくてすっかり忘れていたよ」
「良かったです。ちなみに、ライナルト主任教授の為に何を作ってたんですか?」
あまりの忙しさに忘れていたことを思い出した亮二は、恥ずかしそうに頭を掻くとストレージから鍵と転移魔法陣を取り出した。突然、ストレージから転移魔法陣を取り出した亮二に驚きながらカレナリエンは問い掛けた。
「急にどうされたのですか? 転移魔法陣を取り出されて?」
「折角だから、後1ヶ月で完成させてやろうと思ってね。ライナルト達の新居を」
亮二はそう告げると転移魔法陣に乗って建築途中の屋敷に飛んで行くのだった。
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「どうだった? どうしたの? 何でそんな顔をしているの? カレナ?」
「えっ? あ、あぁ! そうなのよ! リョージ様って変なのよ!」
「リョージ様が変なのは今更じゃない。なにを言ってるのよ?」
「そうじゃなくって!」
唖然と呆然を足して二乗した様な顔をしたカレナリエンが準備中の宴会会場に戻ってきた。メルタが声を掛けると、ふと我に返えると怒涛の勢いで話し始めた。領都にライナルトの屋敷を建築中である事。魔法で作っているらしく、外観は完成している事。内装についても「どこの上級貴族の屋敷なんだよ!」と言わんばかりの過剰装飾になっている事。地下にはライナルト専用の研究室がある事。などをメルタに伝えてきた。
「いったい、あの屋敷がいくらするのかとリョージ様に聞いたら、『俺が作ってるからタダだよ』って言うのよ! じゃないでしょ! リョージ様が作ってるから値段が付けられないって意味でタダってのなら分かるわよ!」
「落ち着いてカレナリエン。そんなに凄かったの?」
「大きさを抜いて質だけだったら王宮なんて目じゃないわね」
メルタが再度問いかけると、興奮気味だったカレナリエンは少し落ち着いて、遠い目をしながら屋敷の凄さを詳細に伝えるのだった。
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「ただいま! 宴会の準備はどんな感じ? えっ? なに? どうしたの?」
「リョージ様に質問があります」
宴会会場に戻ってきた亮二は椅子に座るように伝えられると、恐る恐る座りながらメルタからの質問を待った。
「ライナルト主任教授に結婚祝いで屋敷をプレゼントされるとか?」
「あぁ! そっち? なんだ。さっき完成させてきたよ。ライナルトは物凄く喜んでくれると思うけど、しばらくしたら悶えるんじゃないかな?」
メルタの質問に亮二は安堵した表情を浮かべると笑顔で答えた。
「最初は喜ばれると言う事は、しばらくすると喜ばれなくなるって事ですか?」
「そうだよ。地下に造ったライナルト専用の研究所は、最新設備で欲しい物は全て揃えたと言ってもいいくらいだけど、部屋に入るためにはシャルロッタとロサからポイントをもらう必要があるんだよね」
亮二は人の悪そうな顔をするとカレナリエンやメルタに詳細を説明するのだった。
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「それは、シャルロッタとロサからすれば素晴らしい屋敷になりますね」
「だろ? ライナルトが悶える姿を想像すると作りがいがあるよ」
カレナリエンとメルタの苦笑とともに賛同を得た亮二は気を良くすると、宴会の準備に取り掛かるのだった。宴会はベッティ達が酒場に来たタイミングでスタートとなり、4人が驚いて呆然としている間に中央に連れてこられると何が起こっているのか理解できていないのを眺めながら亮二が挨拶を始めた。
「今日は“深き迷宮”を攻略した事を祝うパーティーになっている! 盛大に攻略祝いをするから、思う存分飲み食いをしてくれ! それと今後だが、重要な情報を提供してくれたパーティーと俺と一緒に最深部まで潜ったベッティ達のパーティーを迷宮の管理人として任命する」
その他にも事務所はギルドの出張所を当面は利用するが、半年後を目処に建替えを行う事。買い取りに関しては、今までよりも1割高く買取る事。新しく建築する建物は治療院や武器防具屋、道具屋なども入っている事。訓練場や研究施設棟も立てる事。冒険者を引退した後も“深き迷宮”への貢献具合によっては新たな事務職や教官職を用意する事を伝えた。
「いいか! 精一杯稼いで、情報を入手して、死なないように頑張れ! 頑張った奴は冒険者を引退した後でも俺が面倒を見てやる!」
亮二の宣言に集まっていた冒険者達からは大歓声が上がるのだった。
宴会が始まりました。