252話 迷宮の出口にて -水を渡しますね-
“深き迷宮”から出てきました。
"深き迷宮”から出てきた亮二達一行は約1日ぶりの外の空気を感じていた。最深部からの帰りは亮二の“深き迷宮”下位管理者権限で魔物から襲われないように設定したお陰で、行きの1/10の時間で出口まで到着出来ていた。
「ん!超気持ちいい!」
外に出たドリュアは出口付近で大きく両腕を上げながら深呼吸をすると、満面の笑みを浮かべながら地面の土や近くにある木を触ったりしていた。5分ほど外の環境を満喫したドリュアは鼻歌を歌いながら武器や防具、道具などの手入れをしている亮二に近付いて話し掛けた。
「やっぱ自然の空気は新鮮で気持ちいいなぁ。思わず自然と戯れてしもたわ。それと話は別やけど、リョージは例の約束を忘れてへんよね?ボケんでええで!水をたっぷりくれるって約束やで!」
「ああ、安心しろ。木の子…ドリュアが『根腐れするのでいりません』と言ってくるまで、全力で水を提供してやるよ!」
亮二はドリュアの言葉に【土】属性魔法で25mプール程度の容器を作り、そこに【水】属性魔法を使って満杯になるまで水を注ぎこんだ。亮二の作業を唖然とした表情のベッティ達や、悟りきった顔のカレナリエン達、何事かと集まった冒険者達の愕然とした表情が亮二に集中した。そんな自分を様々な視線で集中砲火されている事に気付かず、ドリュアに向かって満面の笑みを浮かべると巨大な容器に手を置いて「さあ、お風呂にどうぞ!」と亮二は声を掛けるのだった。
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「あほかぁぁ!なんや!この大きさは!それに、こんな人が多い所で水浴びなんか出来る訳ないやろ!リョージは乙女心を分かってへん!乙女心が分かってへんのに天然のタラシやから嫁はんが増えてカレナリエン達が苦労するんやで!」
誰が見ても巨大なプールを前に風呂と言い切った亮二にドリュアが切れながらツッコんだ。
「ちょ、ちょっと。ドリュアちゃん!その話は内緒って…」
"深き迷宮”の最深部から出口までの2時間ほどでドリュアとカレナリエン達は仲良くなっており、亮二の行動に振り回されていると愚痴気味の話を聞かされていたドリュアは、亮二に反省を促すにはいいタイミングと思い込み、人が集まっているのを利用して周りに聞こえるように大声で叫んだ。
焦ったのはカレナリエン達である。仲良くなるための女子トークとして話していた事を大勢の前で暴露されたからである。慌ててドリュアを止めようとしたが、間に合わずに次の爆弾も投下されてしまった。
「なんでや?エレナ姫っちゅう女の子も婚約者になって、ソフィアって子も婚約者になりそうなんやろ?このままやったらリョージの奥さんは10人を越えるんとちゃうか?」
そんなドリュアの台詞に亮二よりも周りに居た冒険者達の方が衝撃を受け、どよめきと共にそれぞれが叫び始めた。
「エレナ姫?あの“微笑みの聖女”のエレナ姫がリョージの婚約者だって?」「ソフィアって、最近出来た“サンドストレム王国すいーつ普及研究所”の2代目所長で、あまりの可愛いさに非公認親衛隊が居るって噂の?」「そう言えば、リョージの婚約者は5人で、愛人は10人居て、愛人待ちが50人は居ると聞いたぞ!」「許すまじ!リョージが“深き迷宮”で迷子になって泣きじゃくる呪いをかけてやる!」
冒険者達から憶測や推測、恨み声がダンジョン出入り口に響き渡るのだった。
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「おぉ。なんや、リョージはえらい人気もんやな」
「あの様子を人気者と言い切るドリュアに尊敬を覚えるよ」
冒険者達から怨嗟や呪詛の声が"深き迷宮”の出入り口付近で響き渡る中、ドリュアが軽く呟いた内容に亮二はゲンナリしながら答えた。そんな亮二の様子を笑いながら見ていたドリュアに、亮二はストレージから"巨大な水筒”を取り出すとワイバーンの魔石を詰め込んで手渡した。
「なにこれ?こんな、ちゃっちい水筒でうちとの約束を果たすつもりか?本気で怒るで!」
「まあまあ。取り敢えず飲んでみなよ。その凄さが分かるから」
怒り顔のドリュアに亮二は笑いながら飲むことを進めた。なにかの魔道具であるだろうと推測したドリュアが"巨大な水筒”に口を付けて飲み始めるとカレナリエン達が周りに集まり始めた。最初は少しずつ飲んでいたドリュアだったが、水のあまりの美味しさに飲む事を止められなくなり、ひたすら水を飲み続けているドリュアを微笑ましそうに眺めていた亮二達だったが、いつまで経っても水を飲んでいるドリュアに呆れながら話し掛けた。
「なあ、いつまで飲んでるんだよ。そろそろ宿屋に戻ってくつろごうと思ってるんだけど?」
「うぇ?ちょ、ちょっと待ってぇや!なんなん!この水の美味しさは!春の雪解け水を彷彿させるような柔らかさ!喉を通る時の澄み渡るような透明さ!体の隅々に染み渡るような芳醇さ!こんな水を飲んだら他の水なんて飲めへんやん!なんちゅう水を勧めてくれたんや!もうあかん。うちはリョージに一生付いて行くで!」
呆れ顔で「どこの評論家だよ!」とツッコんだ亮二にドリュアは水筒から口を外すと、怒涛の勢いで感想と亮二に一生付いて行くと大声で宣誓をするのだった。
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「おい!またリョージに惚れ込んだ女の子が出てきたぞ!」「さっき、エレナ姫とかソフィアの情報を叫んでた子か!」「あの子も可愛らしい顔をしているな!」「やっぱり男は権力とカネがないと駄目なんだよ!」「なんでリョージばっかりモテるんだよ!」「俺は“深き迷宮”に潜って、この怒りを魔物相手にぶつけてくる!」「よし!俺も付いて行くぞ!5層までの魔物は殲滅だ!」
ドリュアの告白に近い宣誓を聞いた冒険者達のテンションが跳ね上がって気勢を上げると、その勢いのまま“深き迷宮”に潜って行くのだった。
物凄い勢いで冒険者達がダンジョンに潜って行きました。