251話 迷宮をクリアして -報酬の話をしますね-
同日に2話掲載していますのでご注意下さい。
夜中の1時にアップなんてするもんじゃないですね…。
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花の魔物を結局は瞬殺しちゃいました。
戦闘が終了した後も紫色の雲のような腐食の息は残っており、雲の中に亮二がうっすらと見えていた。しばらくすると雲が消えていき、それと同じく亮二の姿も消え去った。
「おぉ。思ったよりも上手くいったな」
「なあなあ。リョージ。今のって一体なんなん?」
花の魔物をストレージに収納していた亮二が、紫色の雲を見ながら呟いたのを聞いたドリュアが疑問をぶつける。ドリュアの質問に亮二は嬉しそうな顔をすると、残像についての説明を始めた。
自分の住んでいたニホン国で見た事があるので、やってみようと思った事。残像は時空魔法を使って数分間、映像だけを残した事。天井に張り付いたのは風魔法を応用して、足の裏に魔力を纏わせて接着するイメージをした事などを説明した。
「いやぁ。ぶっつけ本番にしては上手くいったよ。もう少し改善の余地が有るんだけどね。まあ結果良ければ全てよしって事で」
「えっ? ひょっとして、思い付きで試されたんですか?」
半分腰が抜けた状態で確認をしてきたカレナリエンに、亮二は当然とばかりに嬉しそうに頷く。それを聞いたカレナリエンは、完全に腰が抜けた状態になり、一緒に話を聞いた一同も、唖然や呆然とした表情で亮二を眺めるのだった。
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「あ、あの。カレナリエンさん ?ひょっとしなくても怒ってらっしゃいますよね? えぇ! メルタもクロも、なに泣きそうな顔をしてるの? いつもみたいに怒らないの? せ、正座とかする?」
亮二の目に写ったのは、両目から溢れかけるほど涙を浮かべているカレナリエン達の姿だった。
「腐敗の息に飲み込まれたリョージ様を見て意識が真っ白になって、天井に張り付いたのを見て驚いて、無事なのが分かったら安心のあまり涙が溢れて……」
オロオロしながら顔をのぞき込んで見上げた亮二に対して、カレナリエンは抱きつきながら泣き始めた。
「本当に心配したんですからね!」
「本当にごめん! これからは、気を付けるように頑張る事を検討したいと思ってるよ」
「どう考えても、反省してへんやん! あかんよ! カレナリエンらを悲しませたら」
カレナリエンに抱き締められながら謝っている亮二に、ドリュアからツッコミが入る。亮二とドリュアの掛け合い漫才に、あきれた表情で笑い出したカレナリエンをみて亮二は安堵のため息を吐いた。
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「オチが付いたところで、リョージがやったのをもう一回やって……」
ドリュアがもう一度、残像を頼もうとした時にファンファーレが鳴り響く。その後に無機質な女性の声が聞こえてきた。
「深き迷宮の攻略おめでとうございます。攻略時間は18時間21分となり、最短記録となります。記録を更新されたプレーヤーに対し、特別報酬として深き迷宮の下位管理者権限がプレゼントされました。名前の登録を行いますか? 行われない場合はそのままスキップして下さい。登録作業終了後に報酬の説明に入ります」
「おぉ。このフレーズは懐かしいな。登録プレイヤー名はリョージ=ウチノで。ちなみに盤面の森や初級探索者ダンジョンと同じ感じかな?」
「ヘルプ機能発動しました。ご質問をどうぞ」
亮二が天井を向いて質問すると返事が返ってきた。簡単な説明に返事が来たことを確認すると、気になった質問を始める。
「この深き迷宮は、他のダンジョンと同じなのか?」
「はい。この深き迷宮は他の迷宮と同じになります。お互いに連絡を取ることは出来ませんが、作成者は同じと思って頂いて構いません」
「じゃあ、今までの最短攻略者は?」
「最短攻略者のプレーヤー名は30時間13分のアマデオ=サンドストレムとなります。最終ログイン時間は188,368日前です」
亮二の質問に無機質な声が回答を返す。サンドストレム王国の建国王であるアマデオの名前が出てきたことに、亮二は運命を感じたかのように嘆息しながら語りかける。
「相変わらず建国王は出てくるね。他の迷宮もクリアしてるんだろうな。それと王宮に設置されてる石版の名前も、俺になってるんだろうな。ちなみに今回の報酬は?」
「クリア報酬については魔道具5点、ミスリル鉱石一〇〇キログラム魔石の財貨箱となります」
「あれ?少ない?」
天井から聞こえてきた声のクリア報酬に、亮二が呟いていると周りから驚きの声が上がる。
「少ないとか無いっすよ! 伯爵の金銭感覚は変です! 例えば、ミスリル鉱石が一〇キログラムを捨て値で売りさばいても、俺達4人が死ぬまで豪遊しても、余裕で余る金額になりますよ!」
「えっ? そうなの?」
ベッティが叫びながら亮二の金銭感覚がおかしい事を指摘すると、心底驚いたかのような顔になってメルタやカレナリエンを眺める。
「知らなかったのですか? リョージ様?」
「ミスリルが貴重とは知っていたけどさ。買った事は無いから金額とか知らないし、結構な人数にプレゼントしてるんだけど問題ないよね?」
呆れた口調で答えたメルタに亮二は頭を掻きながら苦笑いするのだった。
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「質問は終了でしょうか?」
「あと一つ! ダンジョンマスターの変更は可能?」
「可能です」
天井の声に亮二が質問をすると無機質な回答がきた。ドリュアが驚いた顔で亮二を見ている間に、ダンジョンマスターの変更手続きは完了させる。
「よし! これからダンジョンマスターは、彼にお願いする事になったから」
亮二が手の平を広げると、ゴルフボール大の種が乗せられていた。一同が覗き込みながら首を傾げていると、亮二は嬉しそうに説明を始める。
ゴルフボール大の種は、先ほどの花の魔物の種子である事。あの性格は消え去っており、赤子と同じ状態である事。種子からダンジョンマスターとして活動できるまでには10年は掛かる事。それまでは月に1回、亮二が魔力を注ぐか、魔石を与えることでダンジョンの維持活動処置を行う事。ドリュアはダンジョンマスターとしての役割は解除された事。などが決まった事を周りに伝えた。
「えっ? えっ? うち、ダンジョンマスターせんでよくなったん? 自由にしてええの?」
「おうっ! さっき、俺の下位管理者権限で変更したから、これからは自由にしていいぞ。取り敢えずは外に出ようぜ! 水を俺がたっぷりとプレゼントしてやるからな!」
これからは自由になる事を亮二が告げると、ドリュアの声が徐々に歓喜の声に変わっていくのだった。
ドリュアに残像の再現を頼まれているのを忘れていました。