249話 迷宮探索9 -最深部に到着しましたね-
最深部に全力でGo!
「へっ?なんや?なんでお前がここにおるんや!」
急に立ち止った小さなウッドゴーレムがなにもない個所を指差して叫んでいた。亮二達が、その様子を眺めながら立ち止まっていると、今まで元気に動いていた小さなウッドゴーレムが力尽きたかのように崩れ落ちた。
「おい。どうした?駄目だ。魔力の供給が途絶えている。こっちのウッドゴーレムを操作する余裕がなくなったんだろうね」
「どうされますか?今まで余裕の状態だったのが、こんな風になるなんて、よっぽどの相手だと思うんですが。一旦、体制を整えてから…そのご様子だと全力で前進して最深部の部屋に行くって事ですよね?」
亮二が小さなウッドゴーレムに近付き、魔力の供給が行われていない事を確認した。その様子を眺めていたカレナリエンが亮二に引き上げる事を提案しようとしたが、小さなウッドゴーレムをストレージに収納して"ミスリルの剣”や”不可視の盾形ガントレット”“ミスリルの腕輪”までを装備したのを見て軽くため息を吐くと、一同に対して号令を掛けた。
「いい?今から”深き迷宮”の最深部がある部屋まで強行します。ライラとクロは最後尾で後ろからの攻撃を警戒!ベッティさん達は私とメルタと後衛2人を守ってください。正面はリョージ様にお任せしますが、私達を置いて行かないで下さいね」
「当たり前だろ!なんで、可愛い婚約者達を見捨てて行くんだよ!ベッティ達はいいけど」
「勘弁してくださいよ。ちゃんとカレナリエンさんとメルタさんを守りますから!」
カレナリエンの号令に一同が陣形を組んで対応している最中に、先陣で進む事を頼まれた亮二は嬉しそうにカレナリエン達を守る事を伝えるのだった。
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「よし!これから最深部の部屋まで強行突破する!全開で行くから安心して付いて来い!」
自分の掛け声に一同から返事が来たのを確認した亮二は、インタフェースを起動させながら最短ルートを検索すると、脇目も振らずに進み始めた。
「前方に敵が10体います!リョージ様!気を付けて…」
10mほど先を走っている亮二に対して、カレナリエンが前方に敵がいる事を伝えようとしたが、言葉が途中で尻すぼみになり、最後には押し黙ってしまった。目の前を走っていた亮二が無詠唱で”ライトニングニードル”を20本を、そのまま撃ち出したからである。カレナリエンの索敵は精霊の力を借り、敵の数や見た事がある魔物のなら名前も分かるほど高性能であった。先ほどの戦闘と呼んでいいものか分からない戦いで倒した魔物も、本来なら瞬殺されるようなレベルではなく、亮二の戦闘力の高さが改めて分かるのだった。
「本当に規格外ですよね。私の婚約者様は」
ため息を吐きながら感想を呟きながら、戦闘が行われた場所を通り過ぎても魔物の姿は見えなかったため、亮二に確認したところ「邪魔だから収納した!」と返事が返ってきて、さらに盛大なため息を吐くカレナリエンだった。
「よし!着いた!これから最深部の部屋に突入するから、皆は気合を入れて防御するように!」
「防御だけで構いませんか?」
亮二の号令にメルタが本当に防御だけで問題無かと質問すると「問題ない!」と元気な声が返ってきた。
「いつでも撤退できる準備をして突入!」
亮二の声に一同から「はい!」と返事が来ると、勢い良く最深部への扉を開いて中に突入するのだった。
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「よう!大丈夫か?その姿が本体か?」
「大丈夫な訳ないやん!こっちは病み上がりやで!自分ら、もっと早く来てくれんと!なに呑気にうちの姿の事を聞いてるん!」
亮二の問い掛けに魔石の前で防戦一方の少女が息も絶え絶えに答えてきた。亮二は少女が、先ほどの小さなウッドゴーレムだと確信すると、笑いながら“ミスリルの剣”に【雷】属性を付与して援護しようとした。
「あれ?」
亮二が【雷】属性が付与され無い事に戸惑いを覚え再び属性付与を行おうとしたが、やはり反応は無かった。慌てて周りを見るとベッティ達も属性剣が使えないようで何度も柄頭を叩いていた。カレナリエンも魔法が使えずに戸惑った顔をしており、混乱状態になっている一同を見た少女が大声で叫んできた。
「あかん!今はうちの魔道具で、この部屋で魔法を使う事を禁止してるねん!ごめんやけど、剣で斬り掛かってくれるか?」
「なんでそんな事をしたんだよ?魔法を使ったら一発だろ?」
「しゃあないやん!アイツは魔法で腐食と睡眠の息を吐き出すんやから。睡眠はともかく、腐食の息を受けたら弱っているうちなんてひとたまりもないわ」
亮二の問い掛けに少女は相手の魔法を封じるために、仕方なく魔道具を使った事を説明した。事情を納得した亮二は“ミスリルの剣”を構えると、ゆっくりとした足取りで少女と戦っている魔物に近付くと上段から全力で振り下ろして蔓の束を刈り取るのだった。
「ひょっとして、花の魔物?」
「そうやで。でも、綺麗な花やと思ってたら痛い目を見るで。綺麗どころか、臭くて有名な花やからな!500年くらい前に倒したはずやのに復活してるんやもん。敵わんわ!しかもこっちは衰弱してるし!」
少女の言葉に亮二は首を傾げると少女に向かって問い掛けた。
「なあ、水が有ったら全力で戦えたのか?」
「そらそうやろ!うちが何で水を集めてたと思ってるん?元気になるためやん。もし、水が有るんやったら、いっぱい出してくれるか?」
少女の言葉に亮二は「今は魔道具の力が有るから無理だけど、戦闘が終わったら嫌ってくらいに贈ってやるよ!」と答えるのだった。
臭い花って有名なアレですよ!