243話 迷宮探索3 -急いで駆け付けますね-
カレナリエン達の様子が気になります。
「どう魔物の勢いは衰えそう?」
「ちょっと、厳しいかも。メルタ、あっちの魔物の群れに"ファイアアロー”を連続で撃ってくれない?後退する為の時間を稼ぎたい」
「了解!"我、かの敵を打ち倒さん!ファイアアロー”。カレナリエン!後、5回位で魔力が切れるわよ!マナポーションの残りは1個だからね!」
メルタの問い掛けにカレナリエンは撤退の判断をすると、時間を稼ぐために魔物が集まっている場所への攻撃を頼んだ。メルタの"ファイアアロー”は大部屋に溢れ返っている魔物の左翼辺りに着弾して炎の海となり、ライラとクロは半包囲網を敷いてきていた魔物たちの混乱に乗じて正面の敵にスピードと手数の多さで翻弄しながら戦線の維持に務め、カレナリエンからの指示を待った。
「クロ!ライラ!30秒後にメルタの弓攻撃が魔物の後方に炸裂するから、魔物の動きを見ながら大部屋から撤退!」
「「了解!」」
メルタからの魔力残量の報告に戦闘継続は不可能と判断したカレナリエンは大部屋から撤退するために右翼に対して魔法攻撃を行った。両翼の混乱状態に加えて後方で炸裂したメルタの弓攻撃で混乱に拍車がかかった魔物の群れからカレナリエン達は速やかに撤退をするのだった。
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「それにしても、あの魔物の数はなに?倒しても倒しても出てくるじゃない。私の収集した情報では魔物が溢れてくる部屋なんて話は無かったのに!」
「どうする?リョージ様が来るのを待つ?それとも撤退して早急に合流する?」
カレナリエンの苛立った言葉にメルタが最後のマナポーションを飲みながら話し掛けてきた。カレナリエン達が戦闘を行っていたのは"深き迷宮”の10層にある大部屋であり、入院中の冒険者パーティーが襲われた場所の近くとなっていた。
「入院中の彼らから『10層には大部屋があって、そこに居る魔物を全滅させると1時間は敵が出てこない』と聞いてたから休憩場所に設定したのに。その先に正体不明の魔物に襲われた場所があるらしいのよ!」
「やっぱり、リョージに報告して一緒に行こう。ここまで来たんだからリョージも褒めてくれるよ」
「その方が良い。なぜか大部屋からは敵が出て来ない。撤退するなら今がチャンス。私もそろそろ疲れた」
ライラとクロの言葉に、正体不明の魔物の情報を少しでも仕入れたかったカレナリエンは残念そうな顔をしながら周りの索敵をおこなった。確かに大部屋の敵はこちらを警戒しながらも部屋からは出てこないようで、今いる場所でも休憩は出来そうだった。
「よし!リョージ様に合流しよう。その前に各自、武器と怪我の状態を確認。リョージ様が作った"食べるポーション”で空腹も満たしておいて。リョージ様と合流するまで休憩は無しだよ!水分の補給も忘れないように」
「カレナリエン!メルタ!クロ!ライラ!大丈夫か!」
一同が小休憩として武器の状態チェックやアイテムボックスから"食べるポーション”を取り出そうとすると、後方から大きな物音と共に大声で安否の確認をしてくる亮二の姿が見えるのだった。
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「きゃ!リ、リョージ様!」
「良かった!無事でよかった!魔物の大群に囲まれそうなのが視えて急いで来たんだよ!」
勢い良く自分に抱き付いて安堵の表情を浮かべている亮二に対して、真っ赤な顔になりながらカレナリエンがおずおずとした感じで抱き返した。しばらくその状態でいると周りから強烈な視線が3つ、亮二とカレナリエンを突き刺した。
「ちょっと、カレナリエン!なにリョージ様に抱きついてるのよ!ずるいじゃない!リョージ様。私も頑張ったんですよ。大変だったんですよ?怖かったんですよ?」
「メルタも無事で本当に良かった!本当に怪我とかしてないんだよね?ポーションとマナポーションなら100個近くあるから手持ちがないならすぐに言って」
カレナリエンと抱き合っている亮二の後ろからメルタが全力で抱きついてきた。美少女と美女からサンドイッチ状態にされて2人の無事を確認できた亮二は安心したような顔になった。そのままの状態で2人から、今までの報告や苦労話を聞かされていた亮二にクロとライラが近付いてきた。
「リョージ様。私も頑張った。褒めて」
「私も頑張ったんだよ。クロを褒めるなら私も一緒に褒めて。リョージ」
カレナリエンとメルタに挟まれたままの亮二にクロが近付き、頑張ったアピールを始めた。亮二は笑って頷きながらクロの頭を撫でていると、ライラも同じように「褒めて」と言ってきた。
思わずクロと同じようにライラの頭を撫でたが、「人型の時に髪を触られるのは嫌だったよね」と亮二が慌てた様子で手を離したのを名残惜しそうにしながら少し頬を染めつつ答えた。
「リョージなら人型の時でも頭を撫でても、髪を触ってもいいよ」
「じゃあ遠慮なく触るし撫でるよ。ちなみに尻尾は駄目?」
亮二から再び頭を撫でられながら「尻尾を触ってもいいか?」と聞かれたライラは「それは、まだ恥ずかしい」と盛大に尻尾を振りながら答えるのだった。
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「やっと、追いついた!ちょっと!リョージ伯爵!置いて行くなんて酷いじゃないですか!俺達は4層までしか…なんだこれ?」
必死で亮二を追いかけてきたベッティ達の視線に入ったのは、カレナリエンとメルタに挟まれながらクロとライラの頭を撫でている亮二の姿だった。あまりにも場違いな、いちゃつきっぷりを見せ付けられたベッティ達は崩れ落ちるようにその場にへたり込むと青筋を立てながら亮二に抗議をした。
「戦闘の途中で、いきなり『彼女達が危ない』と叫んだと思ったら走りだすし、死に物狂いで追いついたと思ったら美女に囲まれてるし!俺たち死ぬかと思ったんですよ!酷いじゃないですか!」
「すまん!すまん。カレナリエン達が魔物の大群に囲まれてるのが分かったから思わず我を忘れて走りだしちゃったんだよ。ちなみに、この状態は俺の命令じゃないぞ。彼女たちから抱きついてきたんだからな」
亮二の言葉に「そっちの方がさらに腹立ちます」とゲンナリした表情で答えたベッティに、残りの4人も同じ表情で頷くのだった。
ベッティ達から物凄く怒られました…。