237話 事前の情報収集 -冒険者ギルドに行きますね-
宿屋に着いたので、今後の予定を立てます。
宿屋に着いた一同は各部屋に割り振られた。護衛の騎士達は亮二達が"深き迷宮”に潜っている間は北部を巡回している"マチカタドウシン”に合流して町村の視察に向かうとの事だった。御者も帰りの馬車を担当するので、実家がある近くの村に帰るのと事だった。
亮二は御者に土産として王都で販売予定のベビーカステラと、労いの小遣いを手渡して「村の人達に配ってベビーカステラの感想と、『このくらいなら買える』値段を聞いてきてよ」と依頼し、騎士たちに対しても”マチカタドウシン”の活動状況を確認して報告するように依頼をして一旦解散すると、自分達の部屋に入りカレナリエンから"深き迷宮”に現れた魔物についての情報を確認するだった。
「それで、"深き迷宮”に現れた魔物の特徴ってどんな感じなの?王族種の可能性も有るみたいだけど全くの不明なんだよね?出てきている階層とかは分かってるの?」
「はい。出てくる階層は分かっています。宿屋に来る前に冒険者ギルドで情報収集をしたのですが、階層は8層以下での目撃があったそうです。ただ、8層以上潜れる冒険者が今回の魔物に襲われて怪我をしているので、現状では確認のしようが無いとの事でした」
カレナリエンの報告を聞いた亮二は、自身も冒険者ギルドで事情を聞く事を伝え、怪我をしている冒険者の住所も調べるようにカレナリエンに伝えると、メルタとクロとライラを連れて冒険者ギルドに向かうのだった。
◇□◇□◇□
亮二達が冒険者ギルドに到着したのは昼を過ぎた頃だった。本来なら“深き迷宮”に潜っている時間帯だが、8層以下に現れる魔物の影響かは分からないが、全体的に魔物の強さも増してきているそうで調査隊を編成するまではダンジョンへのアタックは禁止となっており、冒険者ギルドには情報を求めに来ているの者や酒を飲みに来ている者などで溢れかえっているのだった。
「おぉ、凄い人混みだな。受付はどこだ?一番奥に行けば…「おい!ここは冒険者ギルドなんだよ!お前みたいな子供が来るところじゃないんだよ!どっかの貴族の坊っちゃんか知らねえが、自分の遊び場に帰りな!」」
亮二の前に赤ら顔の巨躯の男が立ちふさがった。硬直したように立ち止まって自分を見上げている亮二を見下すようにしながら嘲笑すると、畳み掛けるように恫喝混じりに話し始めた。
「おいおい!俺の巨大さにビビって声も出ないのかよ!これだから、お坊ちゃんは駄目なんだよ!周りに女を侍らかせやがって!おい!なんとか言ったらどうなんだよ!」
「あぁ。本当に有難う」
反論せずに見上げているだけ亮二に対して、威圧しながら調子に乗ってきた巨躯の男がドスの利いた声で「なんとか言え」と言ったのを聞いた亮二は、男に対して感謝の言葉を述べた。感謝された男がわけが分からずに混乱しながら目で問い掛けると、満面の笑みを浮かべた亮二が感謝の理由を説明した。
「まさか、こっちに来て、ここまでテンプレな絡まれ方するとは思っていなかったよ。あまり捻りのない台詞が減点だけどな。あっ!でも、それを含めてのテンプレか」
「あぁ!何言ってんだ?だが、お前が俺の事を馬鹿にしたのは分かった!いい度胸だ!“深き迷宮”で魔物相手に暴れて付いた“暴れ猛牛”の二つ名を持つ俺をこけにした落とし前は付けてやる!」
亮二のセリフに激高した巨躯の男が喋り終わると同時に殴り掛かってきた。周りからは囃し立てる声や、職員の静止の声が交じる中、誰もが殴られて吹っ飛ぶ亮二をイメージするのだった。
◇□◇□◇□
「おい。ふざけるなよ」
驚愕の顔に彩られた巨躯の男の耳に低い声が届いた。手加減をして殴ったが、手で受け止められるとは思っても見なかった。しかも握りしめられている右手は力を入れてもピクリとも動かないのである。
「い、痛ぇ。は、離しやがれ!」
「ふざけるなよ!なにいきなり殴りかかってきてるんだよ!」
あまりの亮二の剣幕に巨躯の男と周りが静まり返った中で、亮二の声が冒険者ギルド中に響き渡った。
「殴りかかる前に、そこは『表に出ろ!』ってセリフだろうが!空気読めよ!デカイだけで頭の中は空っぽかよ!テンプレな流れなら冒険者ギルドの外に連れ出してボコろうとするだろうが!」
巨躯の男が悲鳴を上げるほど男の右拳を握り締めて言い放ちながら突き飛ばすと「さっきのところから、やり直し!」とやり直しを要求するのだった。混乱した巨躯の男だったが、亮二からの威圧を受けて2,3歩後ずさりながらも指示通りに「ふ、ふざけるなよ。お、表に出ろ」と、やけっぱちな声で叫ぶのだった。
「そこまで言われたら表に出るしか無いな。冒険者ギルドで通用する力かどうか見せてやるよ」
「「「お前が言えっつたんだろ!」」」と周りから小さな声が揃ったが、笑顔で気分よくしている亮二の耳には届かず、巨躯の男を伴ってギルドの外に出て行ったのを見たギルドの中にいた者も、釣られたように一緒に外に出て、2人のやり取りを見物するために輪を作って眺め始めた。
「おい!今度は手加減しねえからな!」
「分かった。分かった。“暴れてるだけの牛”の二つ名を俺に見せてくれよ」
「“暴れ猛牛”だよ!こんどはギルドの中みたいに狭くないからな!全力で行くぜ!」
身体を低くしてショルダータックルのように突撃した巨躯の男を軽やかに躱すと、少し間合いを取って「今度はこっちから行くよ」と告げると、一瞬で間合いを詰めて鳩尾辺りに一撃を入れて巨躯の男を悶絶させるのだった。
「なにをしてるんですか?リョージ様?」
悶絶している巨躯の男がいる辺りからカレナリエンが顔を出した。【B】ランク冒険者として名高いカレナリエンの登場に周りがどよめいたが、亮二の名前を理解した一同はさらに興奮したように隣同士で話し始めた。
「おい。あそこに居るのは昨日、冒険者ギルドに来ていた“精霊の愛娘”のカレナリエンだよな?」「カレナリエンが、あの子供に『リョージ様』と話しかけていたぞ?もしかしなくても“ドリュグルの英雄”のリョージか?」「マルセル王のお気に入りのリョージ伯爵?確か冒険者ランクも【B】だったよな?」
周りのざわめきに呻いていた巨躯の男も自分が絡んだ相手が悪かった事に気付くと、鳩尾辺りの痛みだけでなく全身に脂汗が噴き出してくるのを感じるだった。
サックリと倒すのもテンプレ!