236話 ダンジョンへの道のり4 -街に到着しましたね-
ライラが懐いてくれました。
亮二達一行が"深き迷宮”を所有する街に到着したのは、ライラとの模擬戦から3日後だった。模擬戦からライラの態度は豹変しており、周りが心配するほど素っ気なかった亮二に対する態度が嘘のように、事あるごとにまとわり付き1日に1回はブラッシングを亮二に催促していた。懐かれた亮二も気楽な感じでブラッシングを引き受けており、カレナリエンが宿の手配が終わった事と、街での話題を告げに馬車に入った時も、寝そべった状態のライラに亮二が櫛を通していた。
「ライラもリョージ様に大分と懐きましたね。毎日ブラッシングして飽きないんですか?リョージ様は」
「だって、ブラッシングをすればするほどライラの毛並みにどんどんと艶が出て、人型に戻っても髪の毛が艶々なんだよ!それに見てよ。このライラの幸せそうな顔!こんな顔をされたら毎日どころじゃなくて朝昼晩とブラッシングをしたくなるよね」
蕩けきった顔でブラッシングを受けている狼型のライラを見ながらカレナリエンは苦笑を浮かべながら亮二に質問すると、テンション高い返事が返ってきた。
「ライラはリョージ様の前では、ほとんど狼型ですね。食事の時くらいじゃないですか?人型で居るのは」
「だって、リョージのブラッシングテクニックは凄いんだよ!こんな神業を受けたら、僕じゃなくても誰でも虜になっちゃうよ。“魔狼が住む森”でブラッシング店を経営したら行列が出来ると思うよ!」
カレナリエンの言葉に、ライラは寝そべった状態で顔だけを上げて答えた。2人のやりとりを眺めながらブラッシングを続けていた亮二はライラへ囁くようにお願いをしてみた。
「そろそろ、人型でもブラッシングをさせて頂けませんでしょうか?」
「それは、まだ恥ずかしいから駄目」
恥ずかしそうに断るライラにガッカリしながらも手を止めない亮二を見ながら「人型と狼型でブラッシングを受ける気持ちの違いはなんだろう?」と、カレナリエンは他人事ながら気になるのだった。
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「それで、なにか用事があって馬車に戻ってきたんじゃないの?宿が取れたから移動を開始って感じ?」
少し考え顔になったカレナリエンに亮二が質問した。亮二から質問されて本来の目的を思い出したカレナリエンは頭を振って本来の目的である、宿屋の手続きの完了報告と街で話題になっている事の説明を始めた。
「そうです!宿は取れたんですが、その時に話題になっている魔物がいるとの話を聞きました。“深き迷宮”で、今まで見た事のない魔物が出没したそうです。結構、被害者も出ているそうなので、討伐した者には報奨金が出るそうですよ」
「へぇ、見た事もない魔物ね。どんな感じなんだろ?前にカレナリエンから聞いた王族種とかかな?」
「王族種って母様みたいな?」
亮二とカレナリエンの会話を聞いていたライラが横から話に参加してきた。
「えっ?フェリルって王族種なの?」
「そうだよ。王狼だよ。知らなかったの?母様は魔狼の女王だもの」
それなららライラも王族種の一員になるのでは?との質問にライラは首を振ると否定してきた。王族種と呼ばれるのは頂点に立っている者のみとの事だった。
「僕が女王になってから王族種って呼んでね」
自信満々な態度で次の王族種は自分であると言い放ちながらブラッシングを受けるライラの言葉に、亮二は苦笑を浮かべ「頑張ってね」と言いながら最後の仕上げをするのだった。
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「じゃあ、宿屋に移動しようか」
亮二がブラッシング道具をストレージに収納する様子を眺めていたライラは、残念そうな顔で短く詠唱を唱えながら大きめのタオルで体をくるんだ。一瞬光った後に人型に戻ったライラは近くに置いていた服を手に取ると、タオルの中でもぞもぞと着替えを始めた。しばらく美少女のタオル越しの生着替えを眺めていた亮二だったが、ふと思いついた顔をするとライラに貸し出している変身ペンダントを受け取り、その場で改良を始めた。
「なにをしたの?」
「ああ、ペンダントに機能追加をしたんだ。いつもの変身のように『マジカルスペシャル変身』と言ってくれる?」
10分ほどペンダントに対して魔力を注いでいた亮二が、ストレージにペンダントを近づけて満足気な顔をするとライラにペンダントを渡した。亮二から変身キーワードを唱えるように言われたライラが「マジカルスペシャル変身」と唱えると、一瞬光り輝いた後に純白のドレス姿に変身した。
「よし!成功だ!」
「うわぁ!な、なに?この格好?なんで?なんでドレス姿に変身したの?いま着た服は?」
突然ドレス姿に変身したライラとカレナリエンがパニックになっているのを嬉しそうに見ながら、亮二は「似合っているよ」とライラに声を掛けると説明を始めた。【時空】魔法を使ってペンダントにドレスを収納した事。変身すると今まで来ていた服は交換されてペンダントに収納される事。ペンダントには後、3種類の服を収納できる事。ドレスだけでなく、普段着や装備なども登録出来る事などを説明するのだった。
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「すごい技術ですね。リョージ様」
「カレナリエンも、そう思う?ちょっと思い付いた時は自分で『俺って天才!』って思ったもん!」
「本当に凄い技術だと思いますよ。ちなみに装備も登録できるんですよね。どんな装備も登録出来るんですか?それに色々と切り替えたいときはどうするんですか?」
「ペンダントを握りしめながらキーワードを唱えると登録した姿に変身できるよ!後は、自動清浄と登録が自分で出来るように改良したら完璧かな?」
「ところで、ライラの装備も用意されたんですか?」
「装備は用意してないよ。ドレスだけ!ライラに似合うと思う生地を見つけたから、領都の洋服店と共同開発したんだよね!」
「よく似あってますよ。でも、高かったんじゃないですか?」
「いや、生地を含めて金貨1枚も掛かってないよ!」
「金貨1枚あれば1ヶ月は暮らせるのを忘れないでくださいね…」
後で、皆の分のペンダントを用意しよう!