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235話 ダンジョンへの道のり3 -決着を付けましたね-

全力で戦わせてもらいます。

 正々堂々と勝負して負けたら尻尾に触っていいと宣言した直後に「本当に尻尾を触らせるのですか?」「嫁候補がこれ以上増えるのは困る」「リョージ様に『やっぱりやめます』って言えばなしに出来るわよ?」とカレナリエン達から言われたライラは、自分が負ける事は確実であると全員から明言された事に顔を真っ赤にすると「勝つんだから、僕の邪魔をしないでよ!」と言い放ち、開始線に立っている亮二に向かっていくと合図をするように伝えた。


「えっ?」


 ライラは諦め顔のカレナリエンから「始め!」の戦闘開始の合図を聞いた瞬間に、喉元に突き付けられた“ミスリルの剣”を見て身動きが出来なくなっていた。なにがおこったのか分からないまま、混乱した頭で喉元に突き付けられている“ミスリルの剣”を眺めると独り言のように呟いた。


「えっ?えっ?なんで?いつの間に?」


「ふっふっふ。これで俺の勝ちだよね!モフりたい放題!触りたい放題!」


「ちょっと待った!今のはなし!絶対にズルしたでしょ!見た瞬間に剣が喉元に突き付けられるって変じゃない!」


「えぇ!だって!俺の勝ちじゃん!」


 真っ赤な顔で負けを否定してきたライラに亮二は不満そうな顔を返した。確かに、誰の目が見ても亮二の圧勝であり、不服を申し立てるのはお門違いである事は明白だった。それが分かっているライラは必死な顔で亮二に向かって人差し指を立てて提案を行った。


「じゃ、じゃあ!もう一回!今度、僕が勝ったらさっきの話はなしにして!その代わり、次もリョージが勝ったら、み、耳も触らせてあげるから!」


「はい。それでいきましょう。私にとって神の如き提案を有難うございます。全身全霊をかけてお相手を務めさせていただいます」


 ライラの提案に悟りを開いたような顔になった亮二は、両手を合わせて拝むようにすると“ミスリルの剣”を構え直して全身に闘気をまとわすのだった。


 ◇□◇□◇□


「うぅ…。こんにゃはじゅじゃぁぁ」


 肘と肉球を地面に付けて頭を下げた状態のライラが絶望したように呟いていた。この後、ライラは亮二からコテンパンにされており、周りが止めているにもかかわらず「次こそは勝てるから!」と亮二に再戦を申し込み続け、結局10連敗したところで心が折れたようだった。


「あ、あの。リョージ様。さすがにライラが可哀想だと思うんですが…」


「ですが、彼女の方から再戦のお願いをされただけですし、わたくしとしましては勝負の世界で手加減をする事は出来なかった訳です。決して全力でモフりたいからではないのです」


 あまりにもライラが落ち込んでいるのでメルタが恐る恐る話しかけると、いつもと違う口調で亮二から返事が返ってきた。丁寧な口調で答えていた亮二に全員から非難めいた視線が集中すると、さすがに居心地が悪くなったのか、軽く咳払いをして完全に落ち込んでいるライラに近付いて話し掛けた。


「ごめん。ちょっとだけ、やり過ぎた感はあるんだよ。でも、俺の強さは分かってくれたんじゃないかな?」


「う、うぅ。リョージの強さは分かった。ぼ、僕の方こそリョージの強さを疑ってごめんなさい」


 亮二の言葉にライラは涙を拭いながら嗚咽混じりで謝罪すると、頭を垂れてトボトボと馬車の中に戻っていくのだった。


 ◇□◇□◇□


「そんな顔をしなくても大丈夫だよ。さっきの戦いの賭けはなしでいいから」


「そうなんですか?てっきり以前のように『ひゃはぁ!モフモフだぁ!』とおっしゃるかと思いました。私としては良かったです。ちょっと、ライラがあまりにも可哀想だったもので」


 一同から言われる前に亮二が「さっきの勝負は無効」と告げると、メルタから遠慮がちに安堵の声が返ってきた。完全に自信を砕ききった後のライラの落ち込みっぷりは、さすがの亮二も冷静にする効果はあったようで、バツが悪そうになりながら「ちょっとやり過ぎたからね。一緒に来てもらっていいかな?」と呟くと、カレナリエンとメルタ、クロを連れて馬車に入るのだった。


「なに?尻尾触りに来たの?」


「リョージ様の強さが分かった?ライラはリョージ様の言う事を聞けばいい」


「本当に尻尾の件はいいよ。俺も大人気なかったと思ってるんだ。だから、今回の件は気にしなくていいから」


 馬車の中に入った亮二達はグズグズと泣いていたライラに近付こうとすると、気配を感じたライラは慌てて涙を拭き取り無理に笑顔を浮かべながら話し掛けてきた。クロのフォローになっていないフォローをしているのを聞きながら、亮二も苦笑しながら勝負の無効を告げた。


 亮二からの無効の言葉にライラは一瞬ホッとした顔をしたが、自分から言い出した約束を反故にするのは間違っていると思い亮二に話し掛けた。


「それは駄目だよ。僕からの約束なんだから。でも、このままだと、ちょっと、恥ずかしから、その、あの、元の姿に、戻るね」


 おずおずとした口調でライラは亮二に対して話すと、小さく、短く詠唱を始めた。詠唱が終わるとライラの身体が徐々に縮んでいき、最後には狼の姿に戻った。その様子をジッと眺めていた亮二は感動しながら「おぉ、目の前で変身してくれるなんて」と呟くと、人型だったら真っ赤な顔になっていただろうライラから返事が返ってきた。


「男の人でリョージだけだからね。変身する姿を見せるなんて。メルタさんやカレナリエンとかクロちゃんは女の子だから良いけど。じゃあ、毛繕いをお願いしても良いかな?」


 狼の姿で横になったライラに亮二は「これはこれでありか」と言いながら、ストレージから開発した犬用ブラッシング道具であるピンブラシ、獣毛ブラシ、ラバーグローブ、コーム、スクラッチャーを取り出すと順番に使用していくのだった。


 ◇□◇□◇□


「ふにゅうぅ。なにこれ?気持ち良すぎるんだけど?なんでリョージはここまで毛繕いを極めているの?」


「ふっふっふ。俺の手にかかれば誰だって昇天するのさ!」


「これだけ気持ちよければ母様も喜ぶと思う」


「マジで!フェリルを紹介してくれるんだったら、フェリル用の大型のブラッシング道具を作らないと!」


「なにが、そこまでリョージ様を掻き立てるんですか?」


「男のロマンだよ!」

そのうち人型でもブラッシングしたい…。

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