234話 ダンジョンへの道のり2 -質問されましたね-
ゆっくりと進む馬車にだんだんと飽きてきました。
「やっぱり、ちゃんとリョージの実力が知りたいな。本当に強いの?」
「おう!もちろん俺は強いぞ!」
馬車の旅が暇だったのか、ライラが亮二に絡んできた。亮二も少し暇を持て余していたので馬車を街道脇に止めるように命じて、周りに人や魔物が居ないのを確認して休憩を告げた。亮二は【土】属性魔法でテーブルや椅子を出してストレージから飲み物や食べ物を用意すると、カレナリエン、メルタ、クロ以外にも一緒に付いて来ている家臣たちにも休憩するように伝えてライラと2人で少し離れた場所にやってきた。
「リョージの強さを教えてくれるの?」
「ああ。例えば、これなんてどう?こんな小さな“ファイアーボール”は作れる?」
ライラの言葉に亮二は口元に笑みを浮かべながら人差し指の先に小さな“ファイアーボール”を無詠唱で作った。亮二が作った“ファイアーボール”を見て、自らの人差し指の先に“アイスボール”を同じように作ったライラは見せつけるようにして鼻で笑った。
「それくらいの事だったら僕でも出来るよ。“魔狼が住む森”の深部で偵察隊の子が『リョージは強いよ』と言っていたから期待したんだけど…「ふっふっふ。じゃあ、これはどう?」」
がっかりしながら感想を述べているライラを途中で遮ると、亮二は嬉しそうな顔で中指の先に“ライトニングボール”それ以外の指先にも“アイスボール”“アースボール”“ウォーターボール”を出すとライラに見せつけるようにしながら上空に向けて撃ち放った。
「な、なにごとですか!」
5つの属性魔法が空中で衝突するように重なった瞬間に周囲一体に轟音が鳴り響いた。突然の爆発音に別の場所で用意された食事を満喫しながら食べていた御者と「念のために」とニコラスからの命令で付いて来ていた護衛が慌てて亮二の元に走ってやってきた。
「ごめん!ちょっと俺が魔法をライラに見せてただけだから気にしないで食事をしといてよ」
「そうはいきません!我らは護衛として任務についております。先程は持ち場を離れてしまって申し訳ありませんでした!」
直立不動で謝罪してきた生真面目な護衛2人を頼もしそうに見ながらも、その生真面目さに苦笑を浮かべた亮二は護衛と御者の為にテーブルと椅子を創りだして座らせると「そこで見といてよ」と伝えるのだった。
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「魔法が使える事は分かったけど、魔術師として遠距離攻撃をするの?それだったら前衛は私しか居ないよね?カレナリエンも魔法だし、メルタさんは弓だし」
「ん?俺のメインの武器は“ミスリルの剣”だぞ?知らなかったのか?」
「えっ?じゃあ、さっきの魔法を見せてくれたのはなんだったの?」
ライラの言葉に亮二はストレージから“ミスリルの剣”を取り出すと「こっからが本番だよ」と言いながら【火】属性魔法を付与し、一振りごとに属性を変えながら剣舞を始めるのだった。
「綺麗」
ライラが思わず呟くほど亮二の剣舞は見る者を惹きつけており、休憩しながら見ていた護衛たちも感嘆の声を上げていた。亮二は最後に【雷】属性魔法を三重掛けして天に突き上げ、雷を天に返すような形にして剣舞を締めくくると、いつの間にか集まった一同から盛大な拍手が起こるのだった。
「おぉ。いつの間に」
「流石ですね。ところで、ライラに強さを見せるのは終わったんですか?」
カレナリエンの言葉に亮二がライラを見ると、我に返ったような表情をしながら「ま、まだまだだね。剣舞と実戦は違うんだから!」と少し頬を染めながらソッポを向いて返事をするライラを見た亮二は「じゃあ、模擬戦でもする?」と提案するのだった。
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「でも、怪我したらダンジョンどころじゃなくなるよ?」
「そんな貴方に朗報です!ここにある俺が作った武器を装備すれば相手が怪我をする事は絶対に有りません!普段なら絶対なんて言葉は絶対に使わないのですが!でも!この装備なら絶対と言い切れるのです!」
「そんな武器があるんだったら、さっさと貸してよ。それをつけて戦ってみようよ。僕はやっぱり、実際に戦ってリョージの力を知りたいな。手加減してあげるから、安心して掛かって来てくれていいよ」
怪我の心配をした言葉に対して、亮二は嬉しそうに懐からペンダントを取り出すとライラに手渡した。ライラは思わず受け取ったペンダントを首を傾げながら凝視すると、装飾品として一級品である事が分かる意匠を凝らした周辺部と、それだけでも価値がある大きな魔石が中央に付けられていた。
「それを首からぶら下げて『マジカル装着変身!』と、言ってみてよ」
「えっ?まじかるそうちゃくへんしん?」
ライラがペンダントを首に掛けてからキーワードを唱えると一瞬ライラを中心に光り輝き、手足に武器が装着された。亮二はその姿に感動した面持ちで眺めていると、戸惑った顔のライラが質問をしてきた。
「なに!この装備は?」
「そう!どう!つけ心地に違和感はないはずだけど?猫パンチも出したい放題だよ!」
亮二の言葉に「確かに違和感はないけど…」と小さな声になりながら自分の手足を眺めた。手はグローブより少し小さな獣の手になっており、足は踵からつま先までが長くしたような感じのケモ足になっていた。元々の尻尾にケモミミも合わせて亮二のイメージ通りの獣人が出来上がっており、亮二は鼻を押さえながら天を見上げて満足そうにすると「完璧だ。さあ!戦おうか!」と気合を入れるのだった。
「本当に、これで戦うの?こんな格好で?」
「えっ?普通に動けるように開発した魔道具だからダイジョウブデスヨ。モンダイナイアルネ!負けた時の言い訳に使ってくれてもいいよ」
「なっ!僕が負けるわけ無いだろ!もし、僕が負けたらリョージに尻尾を触らせてあげるよ!」
亮二の挑発のような言葉にライラは激高すると、模擬戦の勝負に負けたら自由に尻尾を触らせてあげると自信満々に言い放つのだった。
全力で戦いますよ!最大級の褒美のために!