233話 ダンジョンへの道のり -出発しますね-
やっと、仕事が一区切りつきました。自分で仕事量を増やしたので自業自得とも言いますが…。
「やっと、時間が取れる!これで、ダンジョンにアタックする事が出来る!出発は1週間後にするから、出発の準備はメルタにお願いしておいていい?」
「畏まりました。必要な物については私が判断して用意させてもらっても大丈夫ですか?」
執務室で、一通りの仕事が片付いた亮二は机に突っ伏しながら歓喜の声を上げると、頭だけをメルタに向けて旅の準備をお願いするのだった。レーム城でのメイド長として確固たる地位を築き上げてるメルタは、配下のメイド達を呼び出すと、それぞれに指示を出して旅に必要な物を用意させ、"拡張の部屋”に順番に納めていくのだった。
亮二がダンジョンにアタックすると聞いたカレナリエンやクロ、ライラも旅の準備をしながら、1週間後に向けて万全の体調で臨めるように調整を始めるのだった。
「俺が案内しますよ?伯爵は北部にある"深き迷宮”に潜られた事ないでしょ?いくら【B】ランク冒険者として登録されているからって、案内無しは厳しいと思いますが?」
「大丈夫!なにもない状態から自分で調べて進むのが好きなんだよね。ちなみに情報は大歓迎だから、気を付けないとまずい事は教えてもらえると助かるな」
自身も冒険者としても【C】ランクで活動しているアラちゃんが亮二に道案内を買って出ようとしたが、やんわりと断られ「情報だけを教えて欲しい」との返事が返ってきた。「本来なら情報も金をとるんですけどね」と苦笑しながらも"深き迷宮”のダンジョンについて危険な場所や魔物、設置されている罠の種類や現地にいる冒険者の気質などを説明するのだった。
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「リョージ様!準備は万端ですよ!早く行きましょう!」
「こっちも、お菓子の準備は万端。王都からも新作を手に入れてる。リョージ様の分もある」
「初めてのダンジョン楽しみ。リョージの実力を少ししか知らないけど大丈夫?母からは『我に勝てるとすればリョージくらいじゃな』とは聞いているけど。これから向かう"深き迷宮”って中級クラスのダンジョンなんでしょ?」
カレナリエン、クロ、ライラの三人から声を掛けられた亮二は嬉しそうに「分かった。俺の準備も出来てるから、すぐに出発しよう。ライラには俺の強さをダンジョンで目の当たりにすればいいさ」と言いながら、馬車に乗り込むと出発するように伝えるのだった。
御者が鞭を入れて馬車を進ませ、大通りに面した場所に差し掛かった時に沿道から大歓声が起こった。亮二が慌てて窓から顔を出すと「いってらっしゃいませ!リョージ様!」「リョーエモン!お土産待ってるよ!」「掃除は我ら"お掃除大好き騎士団”にお任せください!」などの声が聞こえてきた。
「おぉ。どうしたんだ?誰か俺がダンジョンに行くと説明したのか?」
「それでしたら、大通りの掃除をしている時に"お掃除大好き騎士団”の方に説明しましたよ。しばらく掃除に来れませんからね」
亮二は戸惑いながら手を振って領民に応えると周りに質問をおこなった。元気にカレナリエンが「私です!」と答えると理由を話し始めた。アライグマ騎士団が掃除をしていた時から気になっていたカレナリエンが、亮二が執務で忙しくなり掃除に時間が取れなくなった後は代理として参加していたとの事だった。
「ちなみに、“お掃除大好き騎士団”の名誉団長に就任しています。団長は商店街の会長さんですね」
「そうだったんだ。自分が言い出した事なのに、最初だけしか参加できなくて心苦しかったんだよ。有難う。カレナリエン」
亮二の言葉に「好きでやってることですから」としながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべるカレナリエンは“お掃除大好き騎士団”に向かって元気よく手を降るのだった。
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「それにしても、馬車の進み具合がゆったりとしていない?」
「そんな事はないと思いますよ。それにゆったりだったとしても、普段忙しくされているんですから、たまにはユックリとしても良いのでは無いでしょうか?お茶でも淹れますから待ってて下さいね。クロは王都で仕入れた新作すいーつを用意してくれますか?」
亮二の言葉にメルタが反応して最近忙しくしていたから、たまにはユックリするのも良いのではないかと提案した。異世界に来てから、もうすぐ1年ほど経つが激動の日々だった事を思い出した亮二はたまには寛ぐのも悪く無いと思うとテキパキと動いているメルタを眺め、不思議な違和感を感じながら椅子に深く腰掛けて話し始めた。
「ああ、そうだね。最近は忙しくしてたからな。たまにはユックリするのもいいか。カレナリエンも座ったらどう?クロが王都で買ってくれた新作のケーキを一緒に食べようよ。じゃあ、メルタもお茶を淹れてくれたら、たまには一緒にメルタも…一緒?あれ?メルタ?城で留守番をしてくれてるんじゃないの?今までどこに居たの?」
「“拡張の部屋”で隠れてました」
亮二が違和感の正体に気づいて、城で留守番をしているはずのメルタに質問したが、当のメルタからは涼しい顔で隠れていたと告げられるのだった。
「えぇ!城の業務は?メルタが城に居るから安心してダンジョンに向かってたのに」
「私が一緒だと駄目ですか?城の業務はメイド長補佐に全て任せてきました。彼女もそろそろメイド長としての勉強を始めたほうが良いでしょうから」
思わず城の業務を心配をした亮二だったが、メルタの上目遣いの潤んだ目で見つめられると、それ以上に何も言えなくなったが、1点だけ気になったことを尋ねた。
「彼女にメイド長の勉強をそろそろ始めさせるのはなんで?」
「リョージ様と結婚したらメイド長は引退しないといけません。それに、リョージ様の成人まで1年ほどなので、私の持っている業務量から考えると今くらいから始めて丁度だと思いました」
亮二の質問にメルタは顔を赤らめながら結婚を視野に入れての今回の行動であるとの話に、亮二も照れたように笑うのだった。
クロの買ってきた新作ケーキは絶品でした。