閑話 エルナン達の成長 -模擬戦をしますね-
作者より
感想に「エルナン達と掃除組の戦闘は?」と感想を何通か頂きました。
ゴメンナサイ!本気で忘れていました…。今回のエルナン達の話は戦闘をメインで話を考えていたのですが、気付けば掃除組がメインとなってしまいました。
掃除組の改心で満足して戦闘シーンを忘れていた次第です。
と、言い訳を並べましたが「だめじゃん!」と自らツッコミを入れて書いた閑話となります。楽しんで頂けたら幸いです。
「俺達って変わったよな?」
「なにを今更な事を言ってるんだよ」
アライグマ騎士団の1人が呟くと、周りの騎士から呆れたような顔で答えが返ってきた。騎士達が寛いでいるのは南部にある町の一つであり、亮二が最初に訪れた町でもあった。
定期巡回の業務で訪れた騎士3名と狼1頭は町に着くなり住民から大歓迎と子供達からの質問責めを受け、やっとの事で抜け出して駐屯所にたどり着いていた。出されたお茶を飲んで一息を吐いた騎士は、改めて自分の装備を確認すると笑いが込み上げてくるのを感じながら仲間の騎士に話しかけた。
「冷静になって自分の装備を見て見ろよ。罰として命じられた掃除で『なんだよ?この格好は?』と言ってたじゃないか」
「まあな。この格好で領都どころか伯爵領の全体を巡回すると聞いた時は本気で辞めようかと考えたからな」
改めて自分の装備を眺めると、今までの常識では考えられない格好だった。鎧や手足の部分はフワフワな毛並みで覆われており、兜は見た事もない動物を形どっていた。主君である亮二からは「俺の国に居るアライグマって動物だ」と説明を受けており、愛嬌のある兜は子供達に大人気で領都で販売されているアライグマ騎士団のヌイグルミは人気商品の一つにもなっていた。
「そう言えばエルナン達はリョージ伯爵の城を守る上級騎士に任命されたんだよな?確かに短期間であれだけの戦闘能力を身に付けたあいつ等なら納得だけどな」
2か月ほど前に戦った内容を騎士は懐かしそうな顔をしてながら思い出すのだった。
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「では、これより模擬戦を開始する!掃除組については10名いるので、厳選して5名を出すように!使用する武器はこちらで用意した鉄剣で戦う事。それ以外の防具や盾などは通常装備で構わん。それと、魔法は禁止しないが広範囲魔法は使わないように!」
ニコラスの掛け声に従って両陣営から5名が説明場所にやってきた。緊張気味のエルナン達に対してアラちゃんが口元をニヤリとさせると威圧を交えながら話しかけた。
「確かに、1ヵ月でよくここまで鍛え上げたもんだ。飲んだくれの時だったら油断して一瞬で沈められたかもしれないな。だが、俺達も遊んでいたわけじゃないんだ。ダンジョンで腕を磨いた成果を見せてやろう。悪いが今日の模擬戦では完勝させてもらう」
「ぼ、僕達も負けるつもりはありません。リョージ伯爵に直接鍛えて頂いた実力で貴方達を粉砕するつもりです!」
アラちゃんの威圧を受けながらエルナン達が心を奮い立たせて言い返した瞬間に、背後から恐ろしい圧力が襲ってきた。思わずアラちゃん達が剣を構えるほどの圧力を放った人物がエルナン達に近付くと満面の笑みを浮かべながら気合を入れてきた。
「おい!お前ら!俺からの訓練を受けてアラちゃんごときの威圧に怯んでるじゃねえぞ!いいか!これで負けたら半年間は2ランク上の特訓をさせるからな!返事は!」
「Yes!サー!あの特訓でも夜中にうなされますのに、2ランク上の訓練だと死ぬと思います!サー!」
「だったら、さっさと勝ってこい!」
亮二からの圧力を全面に受けながら模擬戦に負けた場合の再特訓を提示されたエルナン達一同は、震えた声と真っ青な顔で答えると「必ず勝ってきます!サー!」と答えるのだった。
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「アラちゃんごときはないんじゃないですか?俺、貴方の直属騎士団の団長ですよ?」
「いいんだよ。俺にしたらエルナンもアラちゃんも一緒だよ。なんなら15対1で戦ってみるか?」
アラちゃんの苦笑混じりの言葉に亮二は笑いながら軽口を叩くと、ストレージから大きな水晶球を取り出して四隅に設置して説明を始めた。
「これは、俺が作った魔道具で四隅に設置した水晶球より内側でなら戦っても致命傷にならないように回復魔法が流れ続けるから全力で戦ってくれていいよ。但し、制限時間は10分。それ以上は水晶球に込めた魔力が持たないからな。言っとくけど、この水晶球1個に俺の魔力を全て注ぎ込むくらいは必要だからな。負けたからって簡単に再戦が出来ると思うなよ!それに王立魔術学院の主任教授ライナルトと共同開発している最中の試作魔道具だから絶対に壊すんじゃないぞ。壊したら弁償だからな!」
「そんな貴重な魔道具を、こんな戦いで使っていいんですかい?えっ?サンプルを取るには丁度いい?それに壊したら金貨50枚?後でインタビューをするから怪我した時の感触と治る時の感じを覚えておけ?了解です。エルナン達には丁度いいハンデでしょうな」
アラちゃんは獰猛な笑顔で亮二の話を聞いて頷くと、部下が持って来た模擬戦用の鉄剣で素振りをしながら気合を入れ始めた。その様子を眺めていたエルナンはリーダーのホセに作戦の提示を求めた。ホセは騎士団が慢心していなくても油断はしていると判断し、4人の仲間に作戦の説明を始めるのだった。
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「双方準備は良いか?では、始め!」
ニコラスの開始の合図と同時にリバスが“アイスアロー”を5人全員に向かって撃ち放った。詠唱短縮で“アイスアロー”を5本同時に唱えられると思っていなかったアラちゃん達は流石に動揺して、隊列を崩しながら大きく回避をおこなった。
「やるじゃないか!だが…うぉ!」
隊列を崩して1人だけ離れた場所に居た兵士に対してウラディス、デューイ、エルナンが同時に襲いかかった。三方から襲いかかられた兵士はエルナンの一太刀目は剣で受け止めたがウラディス、デューイの剣は捌ききれずにまともに喰らってしまった。今回の模擬戦では刃先が潰された鉄剣と、アライグマ騎士団として配備されている鎧の性能で致命傷にはならずにいたが、まともに攻撃を喰らったため気絶はしないまでも身動きがとれない状態になってしまった。
「1人に3人で対処するのは悪手じゃないか?」
昏倒して動かなくなったように見える兵士を横目に、体勢を立て直したアラちゃんがリバスに向かって間合いを詰めると横薙ぎの一撃を入れようとした。だが、横からホセの攻撃が目に入り若干体勢を崩しながらも防御すると、その力を逃がすようにしてリバスに向かって押し出した。
「うわぁ!」
リバスが情けない声を出しながらホセを抱きかかえるように転倒するのを確認すると、こちらに向かって攻撃を仕掛けようとしていたウラディスを一刀のもとに斬り捨てた。逆袈裟の形で斬られたウラディスは反撃する間もなく気絶し動かなくなるのだった。
「ウラディス!おのれ!ウラディスの敵!」
1対1の斬り合いに勝利したデューイがアラちゃんに向かって怒りに任せて剣戟を振るってきた。全体的にはエルナン側は1人が戦闘不能で2人が転倒中であったが、アラちゃん側は2人が戦闘不能で2人はエルナンと交戦中だった。デューイと剣を交えながらも冷静に状況を判断したアラちゃんは、持っていた剣をホセに向かって投げつけた。
「なっ!」
突然、飛んできた剣に反応する事が出来ずに直撃を受けたホセが気絶したのに気付いたデューイとリバスが思わず硬直したのを見て、拳に【風】属性魔法を付与してデューイを殴りつけて昏倒させた。昏倒させたデューイから鉄剣を取り上げてエルナンの背後から攻撃する為に近づこうとしたが、気付いたエルナンは間合いをとる、交戦していた1人に対して回転しながら足元を斬りつけて機動力を奪い、右手を突き出して「“我はかの敵を撃つ!“アースボール”!”」と叫んで撃ち放った。
「おぉ」
思わず亮二が感嘆の声を上げるほど、アラちゃんと同じくらいにエルナンの活躍は目立っており“アースボール”を顔面に受けた兵士は気絶し、アラちゃんに向かって剣を構えて防御体勢をとった。もう1人の兵士は転倒していたリバスが立ち上がって魔法を連続で撃ち放ち、魔法を撃たれている兵士は鉄剣に【火】属性魔法を付与して斬り払いながら間合いを詰めようとするなど一進一退の攻防を繰り広げるのだった。
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「これで、1対1で戦えるってか?」
「そうですね。アラちゃんさんには感謝しています。貴方に、こき使われていたお陰で憧れのリョージ伯爵から直接指導を受けたのですから。それに、この戦い次第で親衛隊に任命してくださるとも聞いています。アラちゃんさんには感謝していますが、勝負ですので僕達が勝たせてもらいます!」
アラちゃんの軽口にエルナンは真剣な顔で答えてきた。あまりに真剣な表情で剣を握りしめたエルナンに「嫌味にしか聞こえないな。だが、感謝してくれてるんなら負けてくれ!」と苦笑を浮かべながらアラちゃんは鉄剣に【風】属性魔法を付与するとエルナンに斬り掛かるのだった。
アラちゃんとエルナンの一騎打ちは30合辺りから戦闘経験の差が出始め、40合を超えた辺りから地力の差が出始めてきた。お互いに荒い息をしているが、アラちゃんにはまだ余裕があるようだったが、エルナンは息も絶え絶えの状態になっており、誰の目に見ても次が最後の一太刀になりそうだった。
「こ、これで最後の一太刀になります。ぜ、全力でいかせて頂きます!」
大きく息を吸ったエルナンが渾身の力を込めて上段から一撃を放った。まともに受け止めていたら剣ごと打ち下ろされる勢いだったが、アラちゃんは半歩下がって空振りをさせるとエルナンの体勢が崩れたところを足払いで転ばせ、喉元に剣を突き付けると「俺の勝ちだな」と降参を迫るのだった。
「それまで!アラちゃん騎士団の勝利とする!」
亮二からアラちゃん騎士団の勝利宣言が告げられると、戦っていたリバスと兵士も戦闘を停止した。自分達の勝利が告げられた事を確認したアラちゃんは深呼吸をしながら地面に座り込んで薄氷を踏む思いでもぎ取った勝利を喜ぶのだった。
◇□◇□◇□
「アラちゃん騎士団の勝利だが、気絶した奴は特訓だからな」
「見学していた俺達はどうなるんで?」
「ついでだから、お前達も一緒に頑張れ!ああ、それと情けない声を出してたリバスは他の奴とは違って特別コースだからな!」
「軍曹!リバスが目を回して気絶してます!サー!」