232話 伯爵領の発展序章 -色々と対応しますね-
忙しさに拍車が掛かっていますが、文官が意外と多く居るので大分楽です。
亮二が旧レーム伯爵領に赴任してから3ヶ月が経とうとしていた。その間に亮二がおこなった施策としては、本格的な冬を迎える南部への食料支援に、伯爵領全体の税率見直しや各町村への訪問。街道整備やため池を作るなどの公共事業を積極的に行い雇用の促進を図った。
その他にも、宿場町のテコ入れや関所の通行税を低く設定するなどを伯爵領内外に宣伝し、商人が集まりやすくするなどの対策を打った。大々的に関所の通行税を安くする宣伝を行うために領都で出会った商人のセシリオを最大限に活用し、「リョージ伯爵が作った通行証を持っていると通行税が安くなる」と町や村、他領でも酒場で喧伝してもらった。その事に興味を持った商人がセシリオの紹介で通行証を発行すると、セシリオにはインセンティブとして銀貨5枚を渡し、商人には5回までの通行税を無料にするなどの特典を先着で付けた。
その効果は抜群でセシリオが「食料品関係の場合は質が悪く無ければ、リョージ伯爵が責任をもって全て買い取ってくれる」と宣伝している事もあって、領都のレーム城には通行証を求める商人達が長蛇の列を作るのだった。
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亮二の改革は人事面でも行われ、クロ率いる諜報部隊が収集した情報を元に過剰徴収などで私腹を肥やした者を罷免し、代わりの者を身分に関係なく採用するなど一新させていた。結果、レーム伯爵に優遇されていた者は居なくなり、代わりに来た者は住民からも好評で亮二の評価も一緒に上がるのだった。
また、新設されたマチカタドウシンやアライグマ騎士団についても、最初こそは奇抜な衣装で戸惑いがあった住民達も彼らの実力と公明さが分かって来ると、次第に受け入れられるようになっていた。それ以外にもマチカタドウシンやアライグマ騎士団と一緒に行動している狼達が人気を誇っており、領都の道具屋で売っているマチカタドウシンやアライグマ騎士団のグッズ販売でも狼関係グッズが売り上げトップになっていた。
「それにしても、狼グッズの売り上げが凄いね」
「そうですね。なぜ分かるのか不思議ですが、悪人以外には威嚇をしない人懐っこい狼さん達ですからね。子供達に大人気です。それと、リョージ様が作ったヌイグルミが可愛いのも売り上げに貢献していると思いますよ」
亮二が執務室でグッズ販売の売り上げ一覧を眺めながらカレナリエンに話しかけた。領都に新たにオープンした道具屋はカルカーノ商会初の他領への出店であり、オープン時には駐屯地で亮二の代わりに領主代行をしている会長のアウレリオも駆けつけていた。もっとも、アウレリオの主目的は亮二への苦情と伯爵領への通行税優遇依頼だったが。
「半年ぶりくらいかな?久しぶりに見たアウレリオはちょっとやつれたように見えたね。もっとユックリしたらいいのに」
「痩せた理由であるリョージ様が気楽な感じで感想を言っていたと彼の耳に入ったら、血相を変えて『誰のせいだと思ってるんですか!』と突撃に来ますよ」
亮二が気楽な感じで、お茶を飲みながら久しぶりに会ったアウレリオの感想を述べたのを聞いて、半年ぶりに会ったアウレリオは激務でかなりやつれ、目も血走っていたのを思い出したカレナリエンが苦笑交じりに返してきた。
久しぶりに会ったアウレリオは「元気にしてる?」との亮二からの挨拶に「ええ!もちろん!超元気ですよ!リョージ様のお蔭で!ストークス辺境伯爵領でのカルカーノ商会の売り上げは鰻上りですからね。それに駐屯地も近い内にドリュグルの人口を抜くんじゃないでしょうか!」とテンション高く話してきて亮二を始めとする一同を心配させたが、転移魔法陣を使って領都に来るまで駐屯地で書類と格闘していたとの話を聞いた亮二は、洒落抜きに過労で倒れる前に人員を派遣してもらう事をユーハン伯に頼もうと決めるのだった。その後は2時間ほど、先程のテンションが嘘のように「このくそ忙しい状況を何とかしてください!」と半分本気で泣きながら嘆願するアウレリオの話を聞かされるのだった。
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「それにしても、リョージ様が企画されたヌイグルミは素晴らしいですね。特に11匹それぞれに特徴を持っているのは斬新です。道具屋には孫を連れた老人が嬉しそうに来店していますよ」
「だろ?購買力を持っているのは年寄りが多いんだよ。普段は蓄財に励んでいても、孫の為なら財布の紐も緩くなるからな」
どう見ても、買って貰う側の亮二が悪そうな顔をしながら説明するのをアウレリオは苦笑して頷きながらも、オープン当初に順調に売り上げている店舗に気を良くしていた。亮二は一時的とはいえ、機嫌を良くしているアウレリオの様子をホッとして見ながら、今後の店舗展開を打ち合わせていくのだった。
「そう言えば、リョージ様と盟約を結ばれた“魔狼が住む森”のフェリル様との交友関係はどのような感じで?」
「ああ、フェリルには毎月、間違いなくお菓子とお茶を届けてるぞ。先月、届けた饅頭と緑茶は大喜びしてくれたな。もう、尻尾がぐいんぐいんと動いていて、見ているこっちも楽しかったぞ」
駐屯地に居ながらも情報収集を怠っていないアウレリオからの質問に亮二は気分良く答えると、フェリルとライラのケモミミと尻尾の素晴らしさを力説していた。ふと、なにかを思い出した亮二がストレージから瓶と櫛を取り出した。
「これは?」
「元々はライラのケモミミと尻尾をモフモフにする為に開発した櫛とトリートメントなんだが、大量に作成したから王都で販売しようかなと思ってるんだけど、駐屯地でもどう?」
亮二に手渡された瓶の口を開いて匂いを嗅いだアウレリオの鼻腔に爽やかな石鹸の匂いが広がった。亮二の話によると傷んだ髪を修復できる液体との事で女性向きに販売してはどうかとの事だった。櫛に関しては【水】属性魔法と【火】属性魔法を組み合わせて湯気が出るようにしたそうで、その櫛を使って髪を梳くと、さらに艶が出るとの事だった。また、キノコのお化けの魔石をはめ込んだ場所に属性付与をすれば半永久的に使えるとの事だった。
アウレリオは見た瞬間に大ヒットする事を確信すると、亮二とその場で販売契約を結び櫛30本とトリートメント300個をアイテムボックスに入れて駐屯地に持って帰るのだった。
櫛とトリートメントは王都と駐屯地でも大ヒットで、各地から問い合わせが急増しています。