231話 フェリルとの約束事 -色々と決めますね-
それにしてもケモミミと尻尾は素晴らしいですな。
応接室に案内されたフェリルが席に座ると食堂と同じお茶とお菓子が用意されていた。亮二から着席するように促されたフェリルは紅茶を手に取り一口飲んで香りと味に満足気な顔をすると、一緒に用意されていたお菓子の美味しさを再確認すると口元を綻ばせながら話し始めた。
「散々と待たされたが、紅茶と用意された菓子に免じて許してやろう。それにしても、リョージよ。この金色に似た色の菓子はなんじゃ?ふわふわとしておって甘さも控えめで、昔にアマデオの城で出された時の菓子とは全く違うんじゃが?」
「ああ。気に入ってくれた?俺の故郷で作られている菓子でカステラって言うんだよ。そんなに気に入ったんだったら、お茶と一緒に定期的に届けようか?“魔狼が住む森”に転移魔法陣を設置させてくれたら一瞬で持っていけるし、他にも開発しているお菓子も持って行くから色々と楽しめると思うよ」
フェリルがカステラに興味を示したのを感じた亮二は、定期的にカステラや他のスイーツを届ける条件として転移魔法陣の設置を提案した。フェリルは暫く考え込むと渋い顔をしながら「しかたあるまい。その代わり、毎月しかと届けるのだぞ?」と答えながらも尻尾は左右に大きく揺れており、大喜びしている事を亮二に伝えるのだった。
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「うぉ。尻尾がブンブン。本当に有難うございま…ごほん。じゃ、じゃあ。帰りに転移魔法陣の台座が入ったアイテムボックスを渡すよ。その中にカステラとお茶も入れておくから。今月はカステラとフルーツを練り込んでるスコーンにしとくから、森に帰っても楽しんでくれると嬉しいな」
フェリルから態度で快諾された事を嬉しそうにしながら、亮二は転移魔法陣の台座に茶葉や銀製のティーポット、アフタヌーンティースタンドや陶器のカップなどの紅茶満喫セット、カステラやスコーンなどのお菓子、美味しい紅茶の入れ方が書かれた紙をアイテムボックスに入れるように指示をすると本格的に盟約の話を始めた。
「じゃあ、フェリル。本題にはいろうか。盟約としてフェリル側は“魔狼が住む森”から出ないだけで本当にいいの?」
「ああ、構わぬ。今回の盟約は我がリョージを気に入ったから結ぶのであって、我ら一族は森の最深部周辺で取れる食料があれば特に困っておらぬしな。お主に預ける一族の者は11頭で、我のように人型になれるのは娘のライラだけとなるな。盟約とは違って約束になるが、月一のお菓子だけは忘れるでないぞ」
亮二の再確認にフェリルは預ける一族の紹介と、お菓子を配達する事は忘れないようにと念を押すのだった。
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「えっ?な、なにしてるの?」
亮二が食堂に戻るとカレナリエンとメルタがライラの尻尾と髪の毛に櫛を入れていた。櫛を入れられているライラは気持ち良さそうにクロと喋りながら亮二の用意したお菓子を食べていたが、亮二の言葉にビックリした表情になると、慌ててメルタの背後に隠れるのだった。
「駄目じゃないですか!リョージ様。急に大きな声を出しては。ライラが驚いちゃったじゃないですか」
「えっ?えっ?でも、でも!だって!ライラの尻尾をモフモフしているじゃん!俺もモフりたい!モフらせて下さい!お願いします!」
食堂に響き渡った叫び声にメルタが咎めるように叱責すると、亮二は戸惑った顔で混乱したように喋り始め、最後は土下座をせんばかりの勢いでお願いを始めた。ライラが思わず「じゃあ、ちょっとだけ触る?」とメルタの背後から前に出てこようとした瞬間に亮二が怒涛のごとく話し始めた。
「えっ!いいの!本当に!ちょっとだけ!ちょっとだけしか触らないから!ちょっと待って!今すぐにミスリルで櫛を作るから!【水】属性魔法と【火】属性魔法を組み合わせて湯気が出るようにして、最後は複合魔法の“ドライヤー”で乾かせば最高じゃね?まてよ?そうだ!トリートメントも開発したらライラの髪に艶が出て、完璧!最高!素敵!に拍車がかかるんじゃね?ところで尻尾はどこまで櫛をいれても大丈夫なんだろうか?これ論文として発表するためにも検証するひつよ…痛ぃ!」
亮二がライラを見ながらブツブツと言い始めた。最初は話を聞いていた一同だったが、亮二の目が真剣さを通り越していくのを確認するとカレナリエンが背後からハリセンを上段に構えて全力で打ち下ろすのだった。
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「あれ?俺なにしてたっけ?」
「リョージ様はライラに挨拶をする為に食堂に戻られたんですよ。フェリル様との話し合いは問題なく終わられたのですか?」
我に返った亮二がキョロキョロと周りを見渡しながら不思議そうな顔をしていると、カレナリエンが正しい情報を伝えた。亮二は「あれ?そうだっけ?」と首を傾げるとライラに向き合って笑顔で挨拶を始めた。
「初めまして。俺はリョージ=ウチノ伯爵だ。これから君と一緒に行動する事になる。あれ?なんで隠れているの?大丈夫だよ?怖くないよ?こっちにおいでよ?」
「えっ?さっきの事はなにも覚えていないの?どうなってるのメルタさん?」
「大丈夫ですよ。リョージ様はたまに我を忘れる時がありますが、物凄くしっかりとした方ですから。見た目と、たまの言動に惑わされたら駄目ですよ」
さっきまでの言動とは違う亮二の言葉に戸惑いながら再びメルタの背後に隠れたライラが顔を出すと、爽やかな笑顔があった。あまりの変わりっぷりに混乱しながら見上げてきたライラに「当面は耳と尻尾を触らすとは言わないで下さいね」とメルタは釘を刺すのだった。
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「あれ?なんで机の上にミスリル鉱石とか蜂蜜とか水や石鹸が置いてあるんだ?」
「リョージ様が『閃いた!』と仰って机の上に置かれてましたよ?」
「なにか作ろうとしたんだろうな。何を作ろうとしたんだろう?」
「覚えておられないのですか?ふふふ」
もう少しでなにを作る気だったのか思い出せそうなんだけど…。