229話 掃除後半組の話4 -土下座をされましたね-
一斉に土下座をされたんで軽く混乱中です。
「えっ?なんで皆が土下座してるの?」
亮二が振り返ると、大勢の人数が土下座をしていた。クロ率いる諜報機関やアラちゃん一家にマイア一族が示し合わせたように整然と並んで土下座している様子に、さすがの亮二も引き気味に「なにをしているの?」と問いかけた。3組が譲り合うようにしながら話をして最終的にはクロ達からと決まったようで、残り2組は後ろに下がった。
「リョージ様。私達の調査不足で迷惑を掛けた。本当にごめんなさい」
「いいよ。俺も王都への往復の道のりも考えずに、2週間で2件の調査をお願いしたからね。その内の1件は4日しか無かったんだから、裏付けが取れなくても仕方ないよ。俺の能力で対応が出来たんだから今回の事は気にしなくていいよ。むしろ、俺が無茶な調査依頼をした事を謝らないと。ごめんね」
亮二の言葉にクロは「ごめんなさい」と涙を流しながら謝罪を続けた。クロが亮二の胸で泣いているタイミングを見計らってクロの配下の者が手紙を渡してきた。
「えっ?このタイミングで手紙を渡す?お嬢に気付かれないように読んで下さい?じゃあ、後から渡してくれても。えっ?今だと号泣しているからお嬢の監視が無くて渡せる?今見てもいいの?いいんだ」
亮二は配下の者から手紙を受け取って裏面を見るとシュバルツ署名が書かれており、手紙の封を開けて中を確認すると謝罪の言葉が書かれていた。今回の調査に関してはクロから連絡を受けていない事。亮二には申し訳ないが今後の経験の為に、あえて調査不足を把握していながら手助けをしなかった事。クロの調査不足の件のお詫びにかんしては、男爵家への資金援助を宣言していた商人の調査報告書を同封する事。などが書かれていた。
「まあ、シュバルツがここまでフォローしてくれてるなら、今回の件については特に問題なしでいいよ。そもそもクロを責める気も罰を与える気もなかったからね。シュバルツにも商人の情報を調べてくれて助かったと伝えてくれ」
「はっ!リョージ伯爵のご配慮に感謝いたします。後はお嬢が泣き止むまでよろしくお願いします」
配下の者は亮二に対して感謝を述べた後に、短く「解散!」と告げるとその場にいた配下一同は消え去るように去っていくのを確認すると、頭を撫でながらクロが泣き止むまでしばらく待つのだった。
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「で、次は誰?」
「私達はリョージ伯爵に対してどのような感謝(謝罪)をすればよろしいでしょうか?」
マイア一族が、土下座をしながら亮二に質問してきた。マイアの母親は亮二に対して暴言を吐いているので顔面蒼白で震えながら土下座状態だった。父親が亮二の前に来ると必死の形相で減刑を求めてきた。
「リョージ伯爵!お願いですから、家内への罪を少しでも減らして頂けませんでしょうか?代わりに私が罪を背負いますので!」
「あ、貴方…」
父親の嘆願に亮二はため息を吐きながら土下座をしながら抱き合っている2人に対して話し始めた。
「あのな、もうすでにお前達に対しては罰を与えているだろ?父親が代表で税務官として俺の下で誠心誠意働くのが罰なんだよ。母親は特技とかあるのか?無いんだったら、これから用意する宿舎で旦那の帰りを待っていたらいい。これで、この話は終わりだ」
2人の世界に入ったのを亮二は呆れたような顔で眺めながら一刀両断した。絶句している2人を放置して老婆とマイアと一緒に土下座している兵士に向かって立つように命じると質問をした。
「マイアと明日の午前中に結婚式を上げてもらうが用意はできるか?」
「えっ?用意といっても4人部屋の宿舎で寝泊まりしていたので家も有りませんし、結婚式を挙げるだけの金も武器や鎧を新調したので持ってませんよ?」
亮二の言葉に兵士は戸惑いながら答えると老婆が横から話し掛けてきた。
「孫娘の晴れ舞台に婿殿が貧相では男爵家の品が問われますな。ここは儂が婿殿に金銭を貸して…「いや、ここは伯爵である俺が自分の部下に祝儀をやるから安心してくれ」」
老婆が兵士へ結婚資金を貸すとの話している途中で亮二は遮ると、自分が兵士の結婚式費用を全額出すと言い出した。老婆やマイア、兵士も含めて断ろうとしたが、老婆に借りを作ると後々面倒になる気がしたので兵士に「祝儀だ」と言って金貨5枚を渡すと亮二は話を早々に終わらせるのだった。
翌日の話だが急な結婚式にもかかわらず、掃除をしていた商店街の厚意により、兵士とマイアの結婚式で使用する衣装や花、料理などが格安で提供され、亮二も食材提供をするなど、今の領都で出来る最高の式を挙げるのだった。
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「やれやれ。最後は素晴らしい話が出来ると思っているんだけど大丈夫だよな?」
マイアの一族を翌日の結婚式のために解散させた亮二はアラちゃんとジェイミー一家に向かって話すと土下座をしたままのジェイミーの母親が頭も上げずにお礼を言い始めた。
「伯爵様。どう感謝すれば良いのか分からないくらいです。ジェイミーへの仕事の斡旋だけでなく、こんな素敵な人まで紹介してもらえました。それに、こんな私の身体を貴重な秘薬を使って治して頂いた上に、ジェイミーの兄まで探して頂けるなんて、頂いたご恩にどう報いればいいのか分からないのです」
頭を上げずに、涙まじり感謝の言葉を言い続けるジェイミーの母親に亮二は照れくさそうにすると頭を上げるように伝えた。
「ほら!顔を上げてくれ!ジェイミーも不思議そうな顔をしてるじゃないか。秘薬を渡したのは明るいジェイミーを育ててくれたお礼だと思ってくれていいから。アラちゃんを見てみろよ。最初なんて酒飲んでて俺にコテンパンに叩きのめされて不貞腐れながらダンジョンに行って身体を鍛え直してから帰ってきても反抗的な目をしててさ。それをジェイミーが居て、一緒に掃除をしてくれたから心を入れ替えたんだよ?貴方はもっと胸を張って自信を持っていいんだよ」
そっぽを向きながら怒涛の如く始めた話を顔を上げてジェイミーの母親は聞いていたが、亮二の顔が真っ赤になっている事に気付くと泣き顔から少し微笑んだ顔になり「有難うございます」と感謝の言葉を再度述べるのだった。
アラちゃんとジェイミーの母親の結婚式は1週間後に行われ、兵士達と商店街の掃除メンバー、施設や孤児院の子供達も呼ばれて盛大に行われるのだった。
ジェイミーの母親には後日、施設のお手伝いさんとして働いてもらう事になりました。