228話 掃除後半組の話3 -まだ別の続きがありましたね-
感動的な話は良いですよね。
「感動してるところ悪いんだが、アラちゃん以外にも物語がある人が居るんだよ。おい。なに楽しそうにアラちゃんの事を叩いてるんだよ。お前もだろうが」
アラちゃん家族を囲んで祝福ムードの中、亮二が兵士の1人に話しかけた。
「えっ?俺ですか?」
「そうだよ!お前の担当したお婆ちゃんちも問題があっただろう!わざわざ、クロに頼んで王都まで調査をしてもらったんだぞ!」
違う馬車から中年の夫婦らしき男女を亮二の指示によってクロ配下の男性が連れてきた。同じタイミングで兵士が掃除を担当していた家の老婆とマイアも広場に連れて来られていた。マイアは兵士の姿を見ると輝かんばかりの笑顔を浮かべたが、その視線の先にいる人物を見てギョッとした顔になると大声で叫んだ。
「えっ?母上?」
「『えっ?』じゃないでしょ!家出したと思ったら、こんな所にいて!早く帰って婚約者の元に戻りますよ!」
「絶対に嫌です!なぜ私が父上より年上の男性と結婚しないとダメなんですか!父上も私が父上より年上の男性と結婚するのに賛成なの?」
マイアの言葉に父上と言われた男性は悲しそうな顔をしながらも説得をするために語りかけるように話を始めた。
「マイア。しかたがないんだ。我が男爵家は経済的に困窮しているんだよ。領地を持っていない我らに対して、彼だけが援助の申し込みをしてくれたんだ」
「その代わりに私と貴族の証である短剣を要求してきたじゃない!」
突然始まった口論に、亮二から名指しされた兵士は呆然としながら眺めていた。自分の聞いていた話と違う事に「婆さん」と慕っていた老婆に目線で問い掛けると首を竦めながら兵士に対して話し始めた。
「嘘は言ってないんだけどね。爺さんとドラゴンバスターとして名を馳せて、名誉男爵として叙勲された後も武官としても活躍して法衣男爵となった楽しい思い出。娘が戦いも出来ないお人好しの婿を連れて来て喧嘩になったけど、結局は強引に結婚されたのでレーム伯爵領の領都に引っ越した話だろ。マイアが訪ねて来て、やっぱりだらしない現状を聞かされたから、マイアには「ここで暮らせばいい」と伝えた話だろ。ほら!なにも間違っちゃいないじゃないか!」
「えっ?いや?そうなんだけど。マイアが『お婆ちゃん。一緒に王都に行こうよ』って言ってた時は、寂しそうに『老い先短い婆さんが行っても邪魔になるだけじゃから』とか言ってたよね?」
兵士の言葉に老婆は首を傾げながら「ああ」と頷くと一刀両断に切り捨てる勢いで答えた。
「ありゃ。マイアの両親からすれば邪魔になると言ったのじゃ!借金の担保でマイアを嫁に出そうとしたくらいじゃからな。儂が王都に行ったら全力で邪魔になるじゃろ!」
「えぇ!そう言った意味だったの?だったら放置してたのに。せっかく俺が頑張って両親を連れてきたのって、マイアって子に迷惑をかけただけじゃん!」
近くで聞いていた亮二が思わず叫ぶと、老婆は楽しそうに笑いながら亮二に話しかけてきた。
「いやいや。リョージ伯爵様。迷惑だなんて思っておりませんよ。貴方はマイアと貴方の部下を幸せにして下さるために動いてくださったんじゃろ?娘も伯爵様のような人を連れて来てくれたら安心して全てを任せられていたものを。まあ、お蔭様でマイアには戦いも出来そうな、しっかりとした婿が来てくれそうなので結果的には良かったですがの」
あっけらかんと話した老婆に「じゃあ、後は好きにさてもらうよ」と苦笑しながら告げた亮二は、苦笑を張り付かせたまま呆然としている兵士を引きずって口論を続けている3人の元に連れて行くと間に割って入った。
「まずは話を聞かせてくれる?」
「誰ですか!男爵家の話に入って来ないでもらえますか!この娘は連れて帰って商人と結婚させるんですから。邪魔をしないでもらえますか!」
「お、おい。この方って、ひょっとし…「税務官なのにお人好しで連帯保証人になっては借金を増やしている貴方は黙ってて!お人好し過ぎるから、お母様に認めてもらえなかったのよ!」」
亮二の制止にマイアの母親が食って掛かってきた。マイアの父親が亮二に気付いて慌てて止めようとしたが、頭に血が上っている母親は誰なのかも気付かずかないまま自分の娘と口論を続けようとした。
「聞けって言ってるだろ!さっきまでのいい感じの空気をぶち壊しやがって!」
亮二が無詠唱で“アースボール”を母親の足元に撃ち放った。あまりの威力に悲鳴を上げた母親だけでなく周りの者も仰天して飛び上がると広場に静寂が広がった。亮二は自分の周りに“ライトニングアロー”を20本ほど固定して呼び出すと、ゆっくりした口調で話し始めた。
「ここで口喧嘩をしてても意味が無いだろ?ここは冷静に話をしようじゃないか?」
「い、いや。伯爵こそ冷静になっ…「あ?俺は至って冷静だぞ?人が話そうとしているのに聞く耳を持たない奴が居たからイラッとして“ライトニングアロー”を呼び出しただけだ。話の続きをしてもいいか?」」
兵士が恐る恐る冷静になるよう伝えようとしたが、途中で遮ってきた亮二の目が据わっている事に気付いた。兵士だけでなく、その場に居た一同が亮二の雰囲気が違う事に気付いて大人しくなったのを確認して、今後の事について話し始めた。兵士とマイアとの仲を認める事。男爵家への借金は亮二が立て替える事。男爵家は領都に移り住み財務官として勤務する事。給金は借金返済に当てて衣食住は亮二が提供する事。などを取り決めた。
「ですが、借金も莫大な金額ですし、王都での勤務を疎かには出来ませんが…」
「莫大って言っても金貨500枚位だろ?男爵として年間金貨10枚が支給されて、財務官としても給料が入るだろ?だったら男爵として支給される金貨を全て返済に当てろよ。財務官としての給金も年間15枚位だから、ほとんどを返済に回したら25年もあれば返済できるだろ?衣食住に困るなら支給してやる。王都への連絡も俺がしておくから安心しろ。マルセル王に伝えといてやるから」
“ライトニングアロー”を引っ込めた亮二から王に直接伝えると聞いたマイアの両親は、選択の余地はなく決定事項である事を理解すると「畏まりました」と答えるのだった。
「さすがは“ドリュグルの英雄”のリョージ伯爵様ですな。私もこれで安心して男爵位を義理の息子に譲れそうですじゃ」
「えっ?まだ男爵位を渡してなかったの?」
「もちろん。頼りになりませんでしたからの。でも、今はリョージ伯爵の後ろ盾が出来たので安心して渡せます。それに、マイアの父親が爵位持ちならマイアの婿も将来的には爵位持ちになれますからの」
嬉しそうに話す老婆に亮二は話の流れを全て持って行かれたような感覚になり、その強かさに苦笑を浮かべるのだった。
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「えっ?伯爵?俺のマイアへのプロポーズとかは?」
「最初は、お前にプロポーズをさせる事も考えていたが話の流れからして無理だ!プロポーズなんて関係なく結婚してもらう!マイアが嫌がったら別だがな!」
「私は喜んで受け入れますよ?」
「よし!そういう事で明日にでも教会に行って式を挙げてこい!」
「そんな無茶苦茶な…」
こんなオチになるとは思っても見なかった…。