226話 掃除後半組の話1 -掃除頑張りますね-
掃除後半組にも頑張ってもらわないと。
ダンジョンに行っていた掃除後半組が領都に帰ってきた。出発する頃の酒やけした顔とは違って、見違えるような精悍な顔つきになっており身体も鍛え上げていた。亮二に帰還の報告をする態度も自信に満ち溢れ、領都でのだらけた生活は改善されているようだった。
「ダンジョンより帰還した。この後の指示をどうぞ。罰の掃除か?それとも2週間待たずにエルナン達と模擬戦でもするか?今やっても2週間後にやっても結果は一緒だと思うが?」
「ご苦労さん。ダンジョンで少しは揉まれたみたいだな。2週間後の模擬戦を楽しみにしてるぞ。罰についてだが掃除は間違いなくやってもらうぞ。領都のメイン通りから掃除を始めて、終了後は孤児院の手伝い。それが終わったら各自自由だ。次の日の掃除に備えて好きにするがいい。集合は朝の5時。遅れるなよ」
思ったよりも簡単な内容に拍子抜けした一同は、亮二に一礼をすると宿舎に戻っていくのだった。
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「伯爵。この服装はなんだ?罰だからって事だから着たがよ…」
翌日、衣装を来て待ち合わせの場所にやって来た全員が微妙な顔で亮二に質問をしてきた。掃除前半組が着ていた頭がないアライグマの着ぐるみで、亮二が改良を重ねて新たに作成した逸品であった。
「感謝しろよ!掃除前半組からの改善要望を元に改良したアライグマくんMk-IIだ!」
「いや、そんなドヤ顔で言われても…」
亮二が「いやぁ、お父さん頑張っちゃったよ」と言いながら胸を張って着ぐるみの素晴らしい点の説明を始めた。素材を厳選し、前回より撥水性と防水性に優れているにもかかわらず、中からの通気性は改善されている事。爪の部分は最大30cmまで伸び、隙間の掃除もできる事。汗をかいても脱ぎやすいように魔法を組み込んで伸縮自在な事。
「他にも…「分かった!分かったから!これの凄さは十分に伝わった!これから俺達が掃除をする場所を教えてくれ」」
いつまで経っても着ぐるみの説明をしてそうな亮二を止めて、掃除の場所を確認する兵士達に説明不足で物足りなさそうな顔をした亮二は一同を大通りまで連れて行くのだった。
「おはよう」
「あっ!伯爵さま!毎日ありがとうございます!伯爵が来られてから2週間で大通りが見違えるように綺麗になりました」
大通りに到着した一同は人の多さに驚いていた。ざっと見た感じで50人程が掃除を始めており、年齢層も子供から老人まで和気あいあいと談笑しながら掃除をしていた。
「おい。なんでこんなに人が居るんだよ?俺たち要らないんじゃないか?」
「掃除前半組と一緒に掃除してたら『伯爵様に掃除をさせるなんて!』と言って、商店街の人達がやって来たんだよ。いくら訓練だからと言っても信じてくれなくて、気にせずに掃除してたら一緒に掃除を始めて、いつの間にかこの人数になったって感じだ」
亮二と兵士達が話していると、子供達5人が歓声を上げながら近付いてきた。その中でリーダーらしき子供が亮二に向かって話しかけてきた。
「おはよう!リョーエモン!あれ?前のおじちゃん達は?」
「おはよう。昨日まで居たおじちゃん達は別のお仕事があるから違う場所に行ったんだよ。今日から、このおじちゃん達がお前達の部下だから、しっかりと鍛えてやってくれよ。報酬は終わった後で取りに来いよ」
「おい。リョーエモンってなんだよ?それに、こいつらはなんだ?部下って俺達が子供の部下になるのか?それに、おじちゃん?俺は23才だぞ?」
亮二と子供の話を聞きながら兵士達は頭の中が疑問符だらけになっていた。その中で掃除後半組のリーダー格兵士が代表するように質問をしてきた。最後の年齢については、亮二を含む子供や兵士達も驚いた声を出し「なんで、お前らも驚いてるんだよ!」と怒鳴っていたが。
「ああ、紹介するぞ。ここにる5人は孤児院や施設に居る子供達だ。これからお前達はこの子らと2人1組になって掃除をする。子供達からの命令は掃除については絶対だ。破った奴は俺が直接制裁するからな」
「おぉ!リョーエモンなんか格好良い!」「まるで貴族様みたいだ!」「あのおじちゃん怖い」「リョーエモン報酬忘れるなよ!」「よろしくお願いします」などと子供達からの声が上がると、亮二は大きく頷いてストレージから飴玉を取り出すと子供達に手渡して大喜びしている隙に、兵士達に「俺の事はリョーエモンって呼べ。子供達には伯爵って明言してないんだよ」と伝えるのだった。
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「これは報酬の前渡し分だからな!ちゃんと仕事をしたら銅貨5枚に昼飯は豚汁だぞ!」
目を輝かせて飴玉を受け取った後に、亮二から報酬と昼ごはんのメニューを聞いた子供達は大歓声を上げながら兵士達の手を取って分担された掃除場所に向かい、昼食を提供する広場で豚汁を作りながら亮二は兵士達が帰ってくるのを待っていた。
「すまねえ。ちょっと掃除を舐めてた」
掃除から帰って来た兵士達の一人が、げっそりした顔で亮二に向かって話しかけると、集まっていた兵士達も同意するように頷いていた。23才と名乗っていた兵士は目を真っ赤に腫らしており、周りの兵士から訳を聞かれたが「うるせぇ!」と叫んで、手渡された豚汁を勢いよく食べると自分の宿舎に帰っていくのだった。
「なにがあったんだ?」
亮二が担当していた子供に理由を聞くと、きょとんとした顔で「掃除の時に僕と話をしてたら泣いちゃっただけだよ?」と、特に何もなかったかのように伝えてきた。
話の内容に興味を持った一同が子供にどんな話をしたのかを聞くと、魔物に襲われそうになった自分を守って死んだ父の事や、自分を養う為に一日中働き詰めで身体を壊して寝たきりになった母の事。兄弟は居るが散り散りになって2年近く会っていない事。などを話したと伝えてきた。
「でもね!今はお仕事頑張ったら、ご飯も食べさせてもらって、お金も貰えるんだよ!それに、リョーエモンが飴玉をくれるから頑張れるんだ!もっとお仕事頑張ってお母さんに美味しい物を食べさせて、元気になってもらって、皆に会いに行くんだ!」
「あ、駄目だ。俺、今日は帰るから後は頼んだ」
無邪気に笑顔で「頑張る」と宣言する子供の話を聞いた亮二は、子供の話が終わる頃には天を見上げて「今日は帰る」と呟くと「おい!お前だけ逃げるなよ!この空気をなんとかしろよ」と慌てて止める兵士達を振りきって屋敷に帰るのだった。
こんな話を聞かされたら兵士も泣くよね?俺は間違いなく泣く!