閑話 -クリスマスの話をしますね-
クリスマスの話が書きたかったはずが…。せっかく書いたので公開します。
聞いた事もない鼻歌を歌いながら機嫌良く見た事もない小物を作っている亮二に、お茶とお菓子を渡しながらカレナリエンが話し掛けた。
「リョージ様。なにを作られてるのですか?」
「ああ、俺の国で流行っていた玩具を作ってみたんだよ。独楽って名前なんだけど、カレナリエンもやってみる?」
亮二から手渡された玩具らしき物を見ながら、使い方が分からず困惑しているカレナリエンを見て使い方の説明を始めた。
「真ん中に刺さってる棒を両手で挟んで、右手を前に突き出して左手を後ろに引くようにすると!」
「うわぁ。回りだしましたよ!」
カレナリエンが目を輝かせながら回り続けている独楽を眺めていた。亮二は領内の特産品として木工品を中心に輸出する事を考えており、まずは領内に流行らせるせために独楽を作っているのだった。
「これを使って領内で大会をしようと思ってね。うまく流行れば、サンドストレム王国全体に広げる予定だよ。もちろん、うちの特産品にするつもりだから大会で使用するのはウチノ家の家紋が押されてる独楽だけにするつもりだけどね」
亮二が治める伯爵領から年明けに独楽を回す事が流行り始めた。特に領都では毎年、耐久力部門やデザイン部門、技部門に分かれて独楽回し大会が開かれ、優勝者には亮二が作った銀製の独楽と、亮二との食事会が賞として送られた。2年目以降からは伯爵領からだけでなく、他領や王都、他国から参加者が増え続け「年明けは独楽回し」が、サンドストレム王国からセーフィリア全土に広がっていくのだった。
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「突然のご訪問ですが、なにか緊急事態ですか?」
亮二の突然の訪問に驚きながらも、嬉しそうに招き入れたソフィアに亮二も笑いかけながら近況の確認をおこなった。亮二が訪れたのは“サンドストレム王国すいーつ普及研究所”の所長室であり、2代目所長のソフィアがお茶と新作のスイーツを出しながら、後ろに控えていた秘書から資料を受け取ると近況の報告を始めた。
「リョージ様から、ご提供頂いた“すぽんじけぇき”を庶民向けに直営の喫茶店で提供を始めました。少し、値段が高いせいか注文は少ないですが、富裕層から個別に注文が入ってきています。それ以外のお菓子も順調に注文が入ってきていますね」
「順調そうで良かった。それと水飴の売れ行きはどう?」
亮二の質問にソフィアは嬉しそうにすると、水飴の売れ行きが爆発的に広がっており生産が追いつかない状態である事を目を輝かせながら伝えた。
「本当にリョージ様は我ら一族の救世主です。おじいちゃんも『ここまで忙しいと引退も出来ないじゃないか!』って、ぶつぶつ言いながら嬉しそうに後継者を鍛えていますよ」
「ソフィアが頑張って俺に売り込みをしてくれたからだよ。あの時にソフィアが話し掛けてくれた『旦那さま。買って下さいませんか?』の台詞が忘れられないからね」
亮二の微笑みながらの言葉にソフィアは真っ赤な顔で「はわわ」と言いながら、恥ずかしさのあまり亮二の顔が見れなくなり、誤魔化すように自分のカップにお茶を注ごうとしてひっくり返すと「ふぇぇ」と言いながら台拭きを取ろうとして盛大にひっくり返っていた。
「お、おぉ。見事なお約束の連続コンボ」
「きょ、今日は、どのような用事で来られたのですか!」
恥ずかしさを悟られないように真っ赤な顔で亮二に抗議を行ったが、ひっくり返った状態で上目使いな感じになっており、本人的には秘書の見ている手前、威厳を持って接しているつもりだったが誰の目から見ても可愛らしい女の子が、片思いの男の子から思ってもいなかった言葉を掛けられてワタワタしているようにしか見えなかった。
「あっ!そうだ。今日はソフィアにお願いがあって来たんだ。年末にスポンジケーキを食べるようにクリスマスってイベントを流行らそうと思ってるんだ」
「"くりすます”ですか?」
ソフィアのワタワタしている状態をしばらくは楽しそうに見ていた亮二だったが、今日の用事を思い出すとクリスマスの時期にケーキを販売する話を始めた。セーフィリアの世界にクリスマスは無いのでピンとこないソフィアに、亮二は「俺の国の話だけど」と言いながら日本で毎年行われているクリスマスの話を始めた。ソフィアと秘書は今まで聞いた事もないニホン国のクリスマスの話を聞いて羨ましそうな顔をしていた。
「いいですね。木に色々飾るのは楽しそうですね。それに美味しい物を食べたり、プレゼントが貰える日ですか。子供も大人も関係なくですか?」
「子供は親だったり家族親戚からプレゼントを貰ったり友達と贈り合ったりしていたね。大人は恋人がいる人はお互いに交換したり、男性から女性に渡したりしていたかな?俺も、そろそろ用意しないとな」
亮二の口から恋人は交換すると聞いた上で「そろそろ用意をしないと」と呟いたのを聞いたソフィアと秘書は、プレゼントが貰える婚約者のカレナリエンとメルタ、最近噂になっているエレナ姫の事を羨ましく思っていた。
「はい。これはソフィアと秘書さんの分」
「えっ?リョージ様これは?」
亮二から手渡された小さな箱を見て、ソフィアが口で秘書が首を傾けながら目で質問すると、亮二は満面の笑みで「いつも頑張ってくれている2人にクリスマスプレゼントだよ」と答えるのだった。ソフィアが恐る恐るな感じで箱を開けると、今まで研究所で作ったスイーツがネックレスとして出てきた。秘書はソフィアの「“くりすます”って恋人からプレゼントが渡されるって…」との呟きを聞きながら、間違いなく亮二からソフィアに渡されたプレゼントは友達からだと思いながらも、夢を壊さないように温かい目でアワアワしているソフィアを眺めるのだった。