224話 森の最深部での出会い -珍しい魔物と会いましたね-
サクッと倒しちゃいましょうかね。
今までの敵とは違う亮二の動きに、白い狼型の魔物は混乱していた。魔法を撃ってくる人間はこれまでもいた。大概は魔法を相殺すると、なにが起こったのか分からないまま配下の魔物に喉を食い千切られていた。
だが今回の獲物は、こちらの思惑通りに混乱していたのに、奥に居た小さな子供が前に出て来た瞬間に流れが変わった事に気付かされた。配下の魔物を迎撃に向かわせたが、軽くあしらわれた上に、こちらに向かって突然魔法を撃ってきたのである。慌てて飛び退いて自身の必殺技である“アイスボール”を連続で撃ったが、軽く剣で切り払われて、逆に“ファイアボール”を3連続で撃ってこられた。
「ぎゃうぅぅ!」
形勢が不利だと感じた白い狼型の魔物は、大きく吠えると“アイスボール”を亮二と戦闘をしている中央部に撃ち放つと、踵を返して逃げ去っていくのだった。
「おぉ、状況判断も的確だな。部下に欲しいくらいだ。それにしても、あいつらときたらどうしてやろうか?」
自分に向かって来た“アイスボール”を“ミスリルの剣”で叩き切り、追撃を掛けようとしたが、後ろから悲鳴が聞こえてきたため、ため息を吐きながら追撃を断念した。亮二はインタフェースの索敵モードをオンにして敵が魔物が集まっている方面に戻っていくのを確認すると、パニックになっている5人の元に歩いて行くのだった。
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「伯爵!ホセが!」
「俺の事は軍曹と呼べと言ったろう!」
亮二の声に4人は首をすくめながらも、必死の表情で亮二に訴えかけた。
「ホセが俺達を庇って“アイスボール”を1人で受け止めたんです!」
エルナンが泣きながら状況の説明を始めた。白い狼型の魔物が放った“アイスボール”は戦闘中のエルナンとデューイが居る場所に着弾しようとしていた。魔物が波を引くように撤退をしていくのを安堵の表情で見ていた2人は“アイスボール”への反応が遅れた。そこにホセが盾を構えながらエルナンとデューイを突き飛ばすと“アイスボール”に突っ込んだとの事だった。
「ぐ、軍曹。申し訳ありません。盾で防ぐ時に魔力を通せませんでした…」
「よし!その気持ちを忘れるな!次は必ず魔力を通せ!魔力を通した盾を構えたお前なら、さっきの“アイスボール”でも防げてたぞ!今回は許してやるが次は容赦しないからな!」
ホセの謝罪に亮二は答えると、ストレージからポーションを取り出して飲ませながら状態を確認した。“アイスボール”の直撃を受けてはいるが、盾で防いだので致命傷にはなっていなかった。ただ身体中が裂傷を起こしており、ポーションを飲む事で傷自体は治っていたが、ショック状態からの回復は出来ないようだった。亮二は、この状態での行軍は不可能と判断すると全員に対して話し始めた。
「今回の行軍はここまでとする。お前達はホセを担いで領都まで戻れ!」
「Yes!サー!それで、ぐんそうはどうされるのですか?」
エルナンの質問に亮二はニヤリと笑うと「もちろん奥に行くに決まってるだろ」と告げるのだった。
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担架を作ってホセを乗せた一同は何度も振り返りながら領都に向かって出発していった。亮二はインタフェースの索敵モードでエルナン達の進行方向に敵が居ないのを確認すると、魔物が集まっている場所に進んでいくのだった。
「おぉ!最大限に警戒しているな」
亮二の呟きに気付いた魔物達が一斉に威嚇の声を上げ始めた。森の中にある大きな広場には狼型や熊型の魔物が20匹ほど固まっており、亮二に対して唸り声を上げなら徐々に間合いを詰めようとしていた。
「引け」
大きくはないが広場全体に響き渡る声が聞こえてきた。亮二に対して徐々に間合いを詰めようとしていた魔物が左右に分かれて道を作ると、大きな狼型の魔物がユックリと亮二の前にやってきた。
「ふむ。確かに強大な魔力を持っておるな。偵察隊が手も足も出なかったのも理解できる。それに手に持っているのは“ミスリルの剣”か?服装もミスリルで出来ておるようだし、左手には“不可視の盾形ガントレット”を身に付けておるとはな。お主何者だ?」
「へぇ、物知りだな。俺の名前はリョージ=ウチノ伯爵だ。レーム伯爵に変わって、この地域を治めるためにやって来た。喋れる魔物なんて初めて見たが、お前こそ一体何者だ?」
大きな狼型の魔物が話しかけてきた事に内心は驚きながらも、表面上は冷静に対応した亮二に対して、大きな狼型の魔物は感心したように目を細めると亮二を値踏みするように眺め始めた。
「我と対峙しても怯みもせんとはな。アマデオ=サンドストレム以来かの。600年も生きていると面白い事に遭遇するもんじゃ。我の名はフェリル。“大きな顎を持つ者”であり、アマデオ=サンドストレムと激戦を繰り広げた者である」
「建国王と?それにしても、アマデオって人は俺の行く先々で出てくるよな。その内、本人と会うんじゃないか?」
フェリルと名乗った大きな狼型の魔物から聞かされた内容に亮二は「アマデオと出会うフラグじゃね?」と考えていると、フェリルが話しかけてきた。
「アマデオとの盟約で森の中に入った場合はお互いに容赦しないと決めておったが、ここまで来たのはお主が初めてじゃ。何用でここまで来たのじゃ?」
「いや、ちょっと部下を鍛えようと森に入っただけなんだけどね。魔物が集まっている場所を目指していたら、ここに着いただけなんだよ」
特に意味はないと答えた亮二にフェリルは沈黙の後に大声で笑い始めた。
「面白い奴だな。この“魔狼が住む森”の最深部まで来る力があり、我と対峙しても物怖じせぬ態度。その身体から溢れ出る魔力に、イオルス神の神具を身にまとっているか。神に愛されておるようだな」
フェリルは興味深そうに亮二を見ていたが「気に入った」と告げると話し始めた。
「リョージよ。我はお主とも盟約を結ぼう。なにか希望するものはあるか?我らは、アマデオと同じように森に入ったら容赦しないで構わぬ」
「だったら、フェリルの部下を何匹か貸してくれない?偵察隊を率いていた優秀な部下がいるじゃん。あんな感じの狼型の魔物を貸してくれないかな?俺の鍛えている部下と一緒に俺の領地を守ってもらいたいんだ。ちゃんと給料は出すし、この森にも必要な物が有れば融通するから考えてくれないか?」
亮二の提案にフェリルは大笑いすると、「分かった。1ヶ月ほど時間をくれ」と告げるのだった。
喋る魔物と出会うとは。