221話 雑用組の特訓2 -実力を確認しますね-
狼型の魔物で実力を確認してみます。
亮二達の前方100mから、こちらに向かってくる激しい音が聞こえてきた。その音はどんどんと近付いており、見え隠れする姿から狼型の魔物は2匹である事が分かった。2匹で襲ってくる事を伝えられた一同は混乱しながら亮二に対応の指示を求めるのだった。
「リョージ伯爵!敵が襲って来ますよ!僕以外は剣を抜いてすらいません!どうすればいいのか指示をお願いします!」
「ん?じゃあ2組に分かれて、それぞれ各個撃破で」
エルナンの悲鳴にも似た声に亮二は気楽に答えると「まずはお前達の実力を見せてもらう」と言い放った。エルナン以外の4人は慌てて剣を抜いて構えるとパニックになりながらも、それぞれで組を作り狼型の魔物の襲撃に備えるのだった。
「な、なんでいきなり魔物と闘わないとダメなんだよ!」
「そんな事を言ったら、俺なんて魔物と闘った事もないのに!実戦だから杖を持って来れば良かった!親から『兵士になりなさい』なんて言われなければ、研究者として一生を過ごしていたのに!」
おどおどとしていた兵士と、ビクビクしていた兵士が組を作りパニックになりながら叫んでいた。叫びながら2人は無茶苦茶に剣を振り回して狼型の魔物が近付かないようにしていたが、巧みに距離を取った狼型の魔物は2人が疲れるのを待って襲い掛かってきた。
「く、来るな!」
2人の疲れが増して剣の振りが大振りになった隙間を縫って狼型の魔物は間合いを詰め足元に噛み付いて引きずり倒すと、喉元に牙を突き立てようとした。なにが起こったか分からないまま引きずり倒された兵士は思わず目を瞑ると死を覚悟するのだった。
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「おい、いつまで倒れたままでいる!早く魔物を除けて起き上がれ。先に進むぞ!」
厳しい亮二の声に兵士は慌てて立ち上がると、今まで自分の命を刈り取ろうとしていた狼型の魔物を眺めると、すでに絶命しており恨めしそうな目で兵士を見ていた。
「えっ?一体どうして?なんで死んでいるんだ?どこにも傷が付いてないぞ?」
「ん?ああ、魔物は俺が“ライトニングニードル”で倒しているから目に見えるような傷なんてないぞ。それより!なぜ目を瞑った!それでも兵士か!兵士なら死ぬ直前まで相手に傷を付けることを考えないか!お前の名前は!」
絶命している狼型の魔物を眺めながら呟いていた言葉が耳に入った亮二は、その呟きに軽く答えると兵士に対して雷を落とした。亮二から雷を落とされた兵士は「申し訳ありません!ウラディスです!サー!」と答えた。
「ウラディス!いいか!お前の身勝手な諦めで仲間が窮地に陥るところだったのだぞ!少なくとも目を瞑るな!それに、お前が少しでも魔物に対して傷を付ければ他の者が倒す事が出来たかもしれないだろ!必ず魔物に対して剣を向けて倒されろ!分かったな!それに、横に居たお前!名前は!」
「はっ!リバスと言います!サー!」
「リバス!お前はなにをしていた!ウラディスと一緒に剣を振っただけか!ウラディスが倒されたのなら、その隙に攻撃をしろ!それに『杖を持ってきたらよかった』と言ったな?だったらなぜ最初に言わなかった!お前の身勝手な行動でウラディスを殺すところだったんだぞ!杖だったら攻撃が出来るのか?答えろ!」
「Yes!サー!杖が有れば魔法を撃つ事が出来ます!属性は【火】と【水】であります!サー!」
亮二はリバスに対しても雷を落とすと、剣を取り上げてストレージから以前に作った“ミスリルの杖”を取り出すと手渡して「これを使え!」と命令した。亮二から“ミスリルの杖”を受け取ったリバスは素材がミスリルである事に気付くと震える手で眺めながら亮二に問い掛けた。
「よ、よろしいのですか?これはミスリルでは?先端に付いている魔石はドラゴンの魔石ですよね?王家でもこれほどの杖を持ってないのでは?」
「気にするな!王家は持ってなくても俺が持ってるんだから、どう使おうが勝手だ!そこまで気にするなら使いこなせ!返事は!」
国宝級の杖を渡されたリバスは震えていた手で、しっかりと“ミスリルの杖”を握り締めると「Yes!サー!しばらくお借りします!サー!」と絞りだすような大声で返事をするのだった。
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リバスとウラディスの戦いをフォローしながらエルナン達の戦いを見ていたが、意外とエルナンは剣を使えており的確に魔物に対してダメージを与えていた。デューイもエルナンのフォローをしながら確実にとどめを刺していた。亮二は2人に対しては実技を中心に教える事を決めると、呆然としたように動かなかった兵士を見ながら全体に向けて話し始めた。
「よし!この先に魔物が集まっている場所がある!これから、その場所に向かい魔物の群れを殲滅する!そこのお前!名前を聞いていなかったな?」
「はい!ホセと言います!サー!」
鍛錬場でソワソワしていた兵士に声をかけると元気な声が返ってきた。兵士達の中で一番の大柄な男であり、エルナンの話では大柄の割に気が小さな小心者で、先輩だけでなく同期からも雑用を押し付けられたりしているとの事だった。
「ホセ!お前は今の戦いで、何故動かなかった?」
「襲ってきた魔物が怖くて。エルナン君とデューイ君に任せればと思いまして…」
亮二からの問い掛けに答え始めたホセだったが、亮二の目線に気付くと徐々に小さな声になって最後は聞こえなくなった。
「隠すな!お前は魔物を恐れたのではなく、エルナンとデューイの邪魔をするのを恐れたのだろう!お前みたいに大柄な男は邪魔など気にすることなく盾となって仲間を守れ!俺が作った魔力付与された“ラージシールド”を渡す!魔物が襲ってきたら最初にお前が盾で攻撃を受けろ!分かったな!」
「えっ?俺に、こんな立派な盾を?分かりました!次の攻撃は必ず俺が受け止めます!ありがとうございます!サー!」
ホセの感激の混じった返事に亮二は頷くと、魔物が集団で集まっている場所に向かって行軍を始めるのだった。
魔物の集まっている場所はテンプレ的なら狼型のボスがいるはず!