197話 決闘騒動の後の一コマ5 -どこでもバタバタしてますね-
王宮に呼ばれました。
「リョージ伯爵前へ!」
名前を呼ばれた亮二はマルセル王の前に進むと跪いて頭を垂れた。マルセル王が厳かに大きく頷くと、そばに控えていた文官が巻物を広げて内容を一気に読み上げた。
「リョージ=ウチノ伯爵においては“初級探索者ダンジョン”の攻略、貧民対策の実施に王立魔術学院の改革及び属性覚醒論文の発表を行った。特に貧民対策においてはオルランド教皇より感謝の手紙が届いている。サンドストレム王国としても伯爵の多大なる功績に報いるために報酬を用意した。リョージ伯爵には病気で療養されたレーム伯爵一族に代わり、レーム伯爵領を治める事を命じる。また、準備金として金貨500枚を渡す。準備金以外の功績に応じて金貨3000枚を下賜する事とする。金貨3000枚に関してはリョージ伯爵の赴任後に特別監査官として赴任するエレナ=サンドストレムが持参するので受け取るように。以上である!」
「ははっ!非力な身では有りますが、サンドストレム王国の発展のために持てる力の限り務めさせて頂きます」
亮二が文官の読み上げに呼応するように答えると、一個人に与えられた報酬の巨大さに謁見の間に集まった貴族達から大きなどよめきが起こった。ただ、貴族派と言われるグループが固まっている周辺は沈黙が続いていたが。マルセル王はそのどよめきを心地よさそうに受け止めると、亮二に向かって厳かに話し始めた。
「リョージよ。この度の働き誠に見事である。サンドストレム王国を預かる者としても心よりの感謝をしよう。特に属性覚醒については今後の我が国の力を大きく動かす一歩だと思っておる。またレーム伯爵領についても、さらなる発展がある事を期待しておる!特別監査官として我が娘のエレナを派遣するので、困った事があればなんでも相談するが良い」
「畏まりました。特別監査官としてお越し頂くエレナ姫のお手を煩わせる事のないように、精一杯務めさせて頂きます」
亮二はマルセル王に向かって恭しく告げると、再度深く頭を下げるのだった。
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「で、今回も皆さんから呼び出しを受けるわけですね」
「まあ、そう言うな。今回はマルセル王がリョージに対して、どうしても伝えたい事があるそうじゃからな」
謁見終了後に、そのまま残るように伝えられた亮二は“いつもの事”と達観した表情で待っていると、いつものメンバーと完全武装したマルセル王が現れた。
「よし!リョージよ!我が娘のエレナが欲しくば儂を倒してからにしてもらおうか!」
「ええ!ちょっと!マルセル王!なにしてるんですか!完全武装した状態って戦う気満開じゃないですか!戦いませんからね!王相手に戦えるわけないじゃないですか!で!なんでエレナ姫は『私のために争うのはやめて下さい』みたいな顔をしてるのですか!普通に止めてくださいよ!」
完全武装したマルセル王から戦いを申し込まれた亮二は慌てて断りながら、エレナにツッコミを入れると悲壮な顔をして2人の間に入ろうとしたエレナから苦情が入った。
「もうっ!リョージ様!せっかく私が一生懸命考えた台詞『あぁ!私のために争うのはやめて下さい!』を取らないで下さいませ!お父様も!そこまでしたら冗談では済みませんよ!その装備は建国王アマデオ様の装備ですよね!」
「いや、ミスリル装備で固めているリョージと張り合おうとしたら建国王の装備しか無いじゃん?久しぶりに出したら、あちこちが痛みや汚れがあったから手直しして磨き上げたら、金貨2枚も費用が掛かっちゃった。払っといてね」
「『払っといてね』じゃありません!取り敢えず、金貨2枚はお父様のお小遣いから引いといて下さいませ!リョージ様。これからレーム伯爵領に特別監査官として赴任するエレナ=サンドストレムです。末永くよろしくお願いします。いつでも、もちろん夜でも構いませんのでお部屋に来て下さいね」
エレナの詰問にマルセル王が嬉しそうにメンテナンス費用が2枚掛かったことを告げると、文官に対して費用は本人の小遣いから支払うように命じた。マルセル王の「え?ちょ、小遣いから?だって、王家の装備だよねこれ?そこは公費で支払いじゃね?」と呟いていたが、文官は爽やかに聞き流すと「畏まりました姫さま」と伝えるのだった。
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「エレナ姫にお伺いしたいことがあります」
「リョージ様からのご質問なら喜んで」
亮二から質問を受けたエレナは満面の笑みで「喜んで」答えた。
「では、エレナ姫が行われている王国民への慰問活動はどうされるのですか?あと、クロから聞いた話は冗談ですよね?カレナリエンが混乱してましたが?」
亮二の質問に慰問活動は特別監査官をしながら続ける事を伝えると、クロがもたらした情報の結果に満足そうに頷くと話し始めた。
「カレナには後で正式に話をします。形式上だけでも順番を譲ってもらう必要がありますから」
「俺の意思は無視ですか?」
「リョージ様が『お前の事は心底嫌だ』と言われれば、枕を涙で濡らしながら身を引きますが?」
「心底、嫌な訳がないでしょう。結構、エレナ姫って強引なんですね」
「あら?強引ではない女性なんておりませんわよ?」
亮二の諦め気味のため息に、エレナは満面の笑みで答えるのだった。
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「ゆるさんぞ!リョージ!エレナを娶ると言うなら儂と尋常に勝負だ!」
「分かりました!では、リョージ様を娶る為に尋常に勝負させて頂きますわ。お父様!勝負!」
「ちょ!エレナや!どこからその武器を出してきた?それは建国王の妻であるエリナ=サンドストレムの武器である“疾風のレイピア”ではないか!国宝品を勝手に持ち出すとは何事だ!」
「お父様がそれを言いますか!建国王の妻であるエリナ様とは名前も似ているから問題ありません!」
「ダメだ!その武器は周囲10mを巻き込んで竜巻が起こる!リョージ助けて!」
「お二人で好きに戦ってください…」
エレナ姫とマルセル王は話し合いで解決したらしいです。途中で帰ったので知りませんが。