196話 決闘騒動の後の一コマ4 -自宅に戻りますね-
クロの事をどうやって説明しよう。
「「お帰りなさいませ。リョージ様!」」
「た、ただいまかえりましたでござます。かれなりえんさん。めるたさん」
「え?どうされたのですか?リョージ様?なんで“さん”付け?なんで、そんなにぎこちない話し方なんですか?いつものような誤魔化した喋り方でもないようですし?」
「いや、その、えっとですね。実は…「リョージ様。私が挨拶する。今日からお世話になる嫁候補のクロ。よろしく」」
学院を出た亮二が自分の屋敷に戻って玄関の扉を開けると、カレナリエンとメルタが玄関で待っていた。亮二は、恐る恐る玄関に入りながらカレナリエンとメルタを見ながらシドロモドロに説明しようとすると、後ろに隠れていたクロが亮二の前に出て来て2人に挨拶を始めた。亮二が慌てて「いや!その!違って…」と説明しようとすると、カレナリエンとメルタはクロに対して笑顔で「ようこそ」と歓迎するのだった。
「え?なんで?2人とも物凄い笑顔なんだけど?あっ!クロが子供だからか!」
カレナリエンとメルタの歓迎っぷりに亮二が1人で納得していると、ひとしきり挨拶をした2人が亮二の元にやってきて話し始めた。
「違いますよ。リョージ様。彼女の事はハーロルト公爵の執事長のシュバルツさんから連絡が有って事情は把握しています。当面は私達と同じように婚約者として暮らすことになりますが」
「だから私が説明すると言った。リョージ様は私の話をもっと聞くべき」
メルタとクロから説明を受けた亮二は、その場でしゃがみ込むと脱力して安心したように額の汗を拭きながら2人に話しかけた。
「よかった。エレナ姫も婚約者にするって聞いてたから、シーヴはまだ本人から答えを聞いてないから置いといて、クロも入れたら4人になるもんね。でも、カレナリエンとメルタが理解してくれるんだったら俺も安心して…カレナリエン?メルタ?ど、どうしたの?」
「エレナ姫がリョージ様とご結婚される?」
「エレナの話ってなんですか?リョージ様?エレナが?エレナと?なんでエレナ?え?エレナが?」
「おぉ、カレナリエン落ち着いて。エレナって連呼し過ぎてるよ。俺もクロから聞いたんだけど。クロ?あれ?クロは?」
「お風呂に入りたいと言って奥に行きましたけど?」
「逃げたな」
亮二がクロに説明を求めようと姿を探したが、すでに玄関には居らずに浴室に移動しているとの報告を聞くのだった。
◇□◇□◇□
「リョージ様宛に王家から書簡が来ておりますよ」
「ああ、シャルロッタ学院長から聞いている内容と同じなんだろうな」
亮二はメルタから書簡を受け取ると王家からの蜜蝋である事を確認して封を開けると中身の確認をした。
「“親愛なるドリュグルの英雄 リョージへ”おぉ、普通の書き出しなのになんだか感動するな。“この度の王立魔術学院の大掃除並びに、貧民対策についてサンドストレム王国を治めるマルセルより心からの礼を述べたいと思う。本来なら魔術学院の大掃除は王家が主体になってするべきだったが、学院の自主性を重んじるあまり手を出せずにいた。学院に対して、お主が風通しを良くしてくれた上に更なる飛躍を約束してくれたことは心から嬉しく思う。また、貧民対策に関しても神都までの道のりが順調に整備されているとの報告も来ており、王国民の安全が確保されるのは…”なるほど。1枚目はかなり褒めてもらえてるみたいだね。で、2枚目にはなにが書かれているんだ?報酬についてかな?」
亮二が1枚目を読んだ感想をメルタに伝えながら2枚目に目を通し始めると固まったように動かなくなった。そんな様子を不思議そうな顔で見たメルタが「どうされました?」と尋ねると亮二はなにも言わずに2枚目を手渡した。
「え?読めってことですか?“1枚目をまじめに書いたから普通の文書だと思ったろ!甘い!最近、リョージが納めてくれた“ぷりん”に“あいす”を掛けて、その上から蜂蜜を掛けたくらいに甘い!でも、美味しそうなんで、次は“ぷりんあいす”を納めるように。おっと、話がズレてしまったの。本題だが、今回の件についてお主に報酬を与える。レーム伯爵領全域及び奴が所有していた物全て。それと、王家から準備金として金貨500枚に、“ぼーなす”として金貨3000枚を支給する。それと特別監査官としてエレナ=サンドストレムを赴任させる。但し、手を出す時は覚悟をしてから行動に移せ。エレナは『リョージ様がいつでも部屋に来るのを待ってます』と言っているが、手を出したらちゃんと報告に来るように。パパ悲しくないんだからね!って!冗談じゃない!なんでだよ!”と書かれていますね。最後の方は滲んでいて読みにくいですが、“エレナの事を不幸にしたら○○するからな”って感じですね。○○の部分は完全に滲んで読めませんでしたが、この滲んだ部分って間違いなく涙ですよね?」
一気に読み上げたメルタはリョージに手紙を返すと、両手で握り拳を作って胸元まで持ってきて「頑張ってください!」と激励するのだった。
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「クロさんや。エレナ姫が嫁候補って話はどこから仕入れたのか教えてくれるかな?」
「ハーロルト公爵とマルセル王が私の前で立ち話で決めていた」
「ええ!そんな重要な事を立ち話で決めた?」
「2人とも嬉しそうに悪そうな笑顔をしていた。横でエレナも嬉しそうにしていた」
「その場にエレナ姫も居たんだ…」
おぉ、嫁候補が一気に倍になった!