187話 ネイハムとの個人授業2 -喧嘩を売られたみたいですね-
ネイハムが魔力を使えることに目覚めました。
ネイハムの魔石への魔力付与は30分で3個しか出来ず、貴重と説明されていたマナポーションも十数本を飲み干していた。だが、亮二のアドバイスで指先に魔力を集める事が出来るようになってからは、今まで上手くいかなかった事が嘘のように、同じ時間で課題として出された魔石への魔力付与50個を終わらせていた。
「ぐんそう!魔石への魔力付与50個完了しました!サー!」
「よし!魔力の減り具合はどうだ?指先に集まる魔力を感じる感覚は掴めるようになったか?自分の限界を把握できるようになったか?剣技にしても魔法にしても、戦いにおいて自分の限界を知る事が勝てなくとも、生き残るためには必要だ!それを忘れるんじゃないぞ!」
「Yes!サー!」
「よし!今日の訓練はここまでとしよう。今日は特別に後50個で終わりにしてやる!」
「え?後50個ですか?しまっ!…「100個な」」
亮二から後50個と聞いたネイハムは思わず確認をしてしまい、慌てて訂正しようとしたが間に合わず、亮二から魔力付与の個数を100個にされるのだった。
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「昨日はどうだった?ネイハムには魔力が有るって分かっただろ?この世界に魔力が無い人間は居ないんだよ。魔力の使い方が分からなければ教えればいいだけだから。後は使っていく内に魔力の総量も上がるからね」
「ま、魔力の総量も上がるのですか!サー!」
朝食を食べながら「これから魔力総量が上がる」との亮二のセリフにネイハムは驚いた。魔力が殆ど無いと水晶で判定されているにもかかわらず、魔力量が上がると言われたからである。亮二は食べかけのパンを手に持ったまま固まっているネイハムに対して笑いながら話しかけた。
「訓練の時だけ軍曹と呼んでくれたらいいから。今は普通に話をして席も立たなくていいから、ユックリと朝食を食べてくれ。ライナルトや最近やって来た教授連中も普段は普通にしてるだろ?」
「いえ、驚いて立ち上がっただけなんですけどね。ライナルト主任教授と5人の新しい教授達も兄貴に鍛えられたんですか?あれって“学院を正道に導く者”への着任の挨拶じゃなくて、ぐんそうへの挨拶だったんですね」
ネイハムは感心したように頷きながら話していたが、新たな二つ名が増えている事に気付いた亮二が目線で訴えかけると、横で給仕をしていたメルタが話しかけてきた。
「私も、その二つ名は聞いた事があります。シャルロッタさんが学院長になってから出始めましたよね?他にも“神に祝福された者”“断罪者”“女性の天敵すいーつ侯爵”“エレナ姫の懐すいーつ”なども聞いた事ありますよ」
「最後!最後の懐すいーつってなに?懐刀なら聞いた事があるけど!」
メルタが聞いている二つ名に思わずツッコむ亮二だった。
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「おい、白!今日も学院に来たのか!お前のような奴が学院の格を貶めるんだよ!」
「やめたまえ。貴族がそのような口を聞いてはいけない。なあ、ネイハムだっけ?魔力も属性もない君が学院にいる理由なんてないよね?なんで、我らと同じ教室に居るのか理由を教えてくれないかい?そう言えば、朝はリョージ先生と一緒だったよね?先生も君と知り合いか知らないけど、こんな貴族でもない、魔力も属性もない人間と親しくする意味はあるのか?全く成り上がりの伯爵ってのは理解に苦しむよ」
ネイハムは自分への口撃は我慢していたが、亮二へ口撃の矛先が向くと席から立ち上がって昨日から絡んできているイェフを睨みつけた。ネイハムから睨みつけられたイェフは嬉しそうに口角を上げながら睨み返してネイハムの肩に手を置いて耳元で話し始めた。
「お前みたいな無能な庶民が同じ教室に居ること自体が苦痛なんだよ。さっさと辞めて父親の不動産業を手伝ったらどうだ?俺が伯爵になったら贔屓にしてやってもいいぞ。うちは由緒正しき伯爵家だから上得意になれば箔が付くだろ?」
「ふざけるな!お前みたいな奴なんかに物件を紹介する訳ないだろ!」
ネイハムとイェフが一触即発の状態になって睨み合っていると、2人のやり取りに注目して静まり返っていた教室に女性の声が響いた。
「失礼します。ネイハム様はいらっしゃいますでしょうか?」
「え?メルタさん?どうしたんですか?」
メイド服で現れた黒髪ストレートで、王都でもあまり見かけない眼鏡を掛けた知的美人との表現がよく似合っているメルタに、生徒一同の視線が集中した。
「昨日、お伝えしたではありませんか。今日から昼食は届けに来ますと。リョージ様が特別クラスで待っておられますので、お取込みのところを申し訳ありませんが来ていただけますでしょうか?」
「特別クラスの生徒でもない白色を連れて行くなんておかしいのではないですか?そんな特権は貴族でも持っていませんよ。リョージ伯爵は自分が凄ければなにをしてもいいと勘違いしてますね」
メルタに連れられて特別クラスに移動しようとしたネイハムの前に立ち塞がると、イェフはメルタに向かって話しかけた。メルタは興味のない様子でイェフを眺めながら場所を退くようにと話しかけた。
「私はリョージ様からネイハム様を特別クラスに連れて来るようにと言われております。どなたか存じ上げませんが、伯爵の指示を覆すだけの根拠を示して頂けますでしょうか?それに、私はネイハム様は近々特別クラスに移動されると聞いておりますが?」
メルタの発言を聞いたイェフは最初はキョトンとした顔をしていたが、内容を理解すると大爆笑を始めた。
「おい!聞いた?俺たち一般クラスの希望の星のネイハム様が特別クラスに移動されるそうだぞ!全く魔力もなく、属性もない人間が特別クラス?リョージ伯爵が特権を使って連れて行くなんておかしいと思わないか?」
イェフの声に取り巻きから「そうだ!」「学院を辞めろ!」「特別クラスに行くのはイェフ様が相応しい!」などと声が上がった。イェフは両手を挙げて取り巻きを落ち着かせると、ネイハムに向かって挑戦的な声で語りかけた。
「我らの希望の星のネイハム様!特別クラスに行かれるのでしたら、その凄さを私に見せてください。まさか、出来ないことはないですよね?それともリョージ先生の陰に隠れますか?」
「ふざけるな!兄貴に頼らなくても俺が相手になってやる!」
「さすがは特別クラスに行かれる方だ。では、私ともう一度、入学試験と同じ試験を受けてもらおうか。日時はそっちに決めさせてやる。逃げるなよ」
イェフは嬉しそうに笑うと取り巻きを連れて教室から出て行くのだった。
上手く喧嘩を売られたようです。