172話 緊急職員会と教授会 -大人は大変ですね-
シャルロッタ先生が急ぎ足で学院に戻ったのはなんだったのだろう?
シャルロッタは亮二達に休講を告げると、急ぎ足で学院に戻ってきていた。職員室に戻ってきたシャルロッタの形相に何名かの講師が不思議そうな顔で話し掛けてきた。
「どうされたのですか?シャルロッタ先生?」
「すぐに緊急職員会を開催したいので、全職員を集めてもらっていいですか?今日で結論を出して明日の教授会で議題にあげてもらいます!」
シャルロッタの表情に緊急事態である事を理解した職員一同は、全員を30分ほどで集めると緊急会議を開催した。緊急会議に集まったのは特別クラス担任のシャルロッタと、一般コースの担任である9名に非常勤講師20名の総勢30名であり、全員が一斉に集まることは10年前に学院で死者が出た時以来であった。
「シャルロッタ先生。緊急職員会の開催との事で集まったのですが、内容を教えて頂けますか?この10年間で1度しか開かれていない緊急会議の内容を早く知りたいですね。よっぽどの内容なのでしょうね?」
「もちろんです。今日集まっていただいたのは、私が受け持っている特別クラスのリョージ君達が“初級探索者ダンジョン”をクリアしたのです!」
シャルロッタの言葉に一同は静まり返ってしまった。シャルロッタを見る視線は愕然や驚愕以外は猜疑の視線だった。その中で、シャルロッタの報告に猜疑の視線を最も強く向けていたカミーユ=アントルモンが、その思いをそのまま口から出すように問い掛けてきた。
「それは本当なのですか?“初級探索者ダンジョン”は王家が管理していたのを学院が譲り受けました。その際に、『このダンジョンは建国王アマデオ=サンドストレムがクリアしている。強力な魔物も出て来ず、最後の大部屋は魔物が大量発生するが死に至る事は基本的にはない』と言われていますよね?そのダンジョンをリョージ=ウチノがクリアしたと言うのですか?」
「ええ、そうですよ。カミーユ先生。リョージ君達のパーティーが“初級探索者ダンジョン”をクリアしたのです。大部屋の下にあるチャレンジ部屋に住んでいた“2つ首ドラゴン”を討伐してね」
「にわかには信じられませんな。なにか証拠があるのですか?」
カミーユから上がった疑惑の声に数名の講師が一斉に頷いた。シャルロッタは亮二から預かっていた“火炎の剣”を取り出すと、職員一同に見える様に魔力を込めた。魔力を込められた“火炎の剣”は【火】属性魔法を付与する以上に炎を巻き上げており、その威力に一同の目は釘付けになっていた。
「これは、リョージ君から預かっている“火炎の剣”です。これ以外にも“2つ首ドラゴン”を討伐した賞品として“ミスリル鉱石”と“ドラゴンの魔石”に“2つ首ドラゴンの財貨箱”があり、“2つ首ドラゴンの財貨箱”には金貨が2300枚と大部屋から持ち帰った金貨が2300枚あります。もちろん、リョージ君には今回の報酬は使わないようにと言ってありますのでご安心下さい」
「そ、それなら早急に教授会で議題に上げてもらおう。我が校で久々の生徒による偉業達成だからな。明日にある教授会の議題はライナルト主任教授の“転移魔法陣の今後の発展について”とシャルロッタ先生の“属性魔法に関する考察”でしたよね?先生の議題は次回以降になってしまいますね。折角、先生の論文が注目されるはずでしたのに残念でしたね」
「それは別に構いません。教え子が特別な成果を出したのです。教師冥利に尽きるとはこの事だと思います。では皆さん、明日の教授会の議題は私の発表を取り下げ、リョージ君達の“初級探索者ダンジョン”クリアの報告とさせてもらいます」
シャルロッタの提案に一同は賛成するのだった。
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翌日、亮二はシャルロッタに呼ばれて学院の職員室にやって来ていた。
「今日は休講とのことでしたが、教授会で昨日の“初級探索者ダンジョン”を報告するのですか?それでしたら、すぐにでもクリア報酬を出せるようにした方がいいですよね。それとも今すぐに出しておきましょうか?さすがに“2つ首ドラゴン”を出す訳には行きませんが」
「ふふっ。リョージ君はいつも面白いこと言いますね。リョージ君のアイテムボックスが特別なのは知っていますが、“2つ首ドラゴン”なんてそんな大きな魔物がアイテムボックスに入る訳ないじゃないですか」
亮二の言葉にシャルロッタは笑いながら応えると気分が軽くなっているのを感じた。自分で思っていたよりも緊張していたのを感じたシャルロッタは、亮二が緊張を和らげるために冗談を言ってくれたと思い込んで感謝をしていた。
「ところで、シャルロッタ先生に質問が有ります。学院の規則で『“初級探索者ダンジョン”の中で手に入れた物は1割を学院が徴収します』と有りましたが、今回の場合はどうなりますか?」
「今回については特殊な条件になりますし、金額も今までにないような莫大な金額ですので、全てを今日の教授会で決定する事になります。でも、安心してね。リョージ君が稼いだ金額は規定以上に徴収されないように頑張るから」
亮二の質問にシャルロッタは力強く応えると「任せなさい!」と胸を張るのだった。
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「では、我ら緊急職員会から上がって来た“初級探索者ダンジョン”をクリアした件についてですが、本日の司会でもある私、カミーユから報告させて頂きます。“初級探索者ダンジョン”をクリアした報酬は総額で金貨5000枚は超えております。緊急職員会としては“ドリュグルの英雄”であるリョージ君の強さを讃えて特別勲章を渡して頂きたいと提言します」
教授会が開催され、緊急職員会でシャルロッタに疑惑の視線を送ってきていたカミーユが発言を行っていた。カミーユの発言を聞いた教授会メンバーは事前に情報が入っていたために特にどよめきはなく、リョージに対する称賛の声が上がっていた。カミーユの発言を始めは嬉しそうに聞いていたシャルロッタだったが、特別勲章を渡す話は緊急職員会では行っておらず報告内容に首を傾げていた。内容的には悪い話ではなかったので、そのまま聞いていたが教授会メンバーであるセオドア=デッカー教授からの発言で顔色を変えるのだった。
「では、リョージ君を始めとする“初級探索者ダンジョン”をクリアしたメンバーには勲章を渡すとして、学院に収めて頂く金額は金貨3000枚で構いませんでしょうか?」
「ちょっと待って下さい!“初級探索者ダンジョン”の中で手に入れた物は1割を学院が徴収と決まっているではないですか!」
「許可無く発言するのを止めてくれるかな。シャルロッタ先生。金貨3000枚を学院に収めても2000枚は手元に残るのだから構わないじゃないか。それともリョージ君から『手元にお金が残るようにお願いします』とでも言われているのかい?なにか報酬を用意されてるとか?」
「失礼な事を言わないで下さい!私は正当な報酬をリョージ君達に渡すべきだと言っているのです!」
セオドアからの提案があまりにもひどい内容だったために、思わずシャルロッタが口を挟むとカミーユから注意が飛んできた。注意だけなら謝罪して冷静に意見を述べるつもりだったシャルロッタだが、カミーユから「賄賂でももらっているのか?」との発言に思わず激高するのだった。
シャルロッタ先生が思ったよりも生徒思いでした。