171話 ダンジョンからの帰還 -先生が待っていましたね-
チャレンジ部屋から戻ったらシャルロッタ先生が待っていました。
「えぇ!“初級探索者ダンジョン”をクリアした?今まで誰もクリアした事がないんですよ?」
「『チャレンジ部屋の攻略おめでとうございます』とダンジョンが話し掛けてきたので間違い無いですよ。クリア報酬も有りましたので。見てみますか?シャルロッタ先生」
シャルロッタの言葉に亮二はストレージから“2つ首ドラゴンの財貨箱”を取り出して開けると中身を見せた。シャルロッタの目に入ってきたのは、生まれてから一度も見た事の無い数の金貨や宝石であり、ドラゴンの財宝と言われても納得出来る代物だった。
「ほ、本当にクリアしたんですか?地下4階の大部屋が最後の部屋になるのですが、大量の魔物が出ませんでしたか?とても倒せる数では無いはずですが?」
「リョージ君を中心として、大部屋にいた魔物を殲滅しました!」
「物凄い数だったよね。あの数を倒せたのは自信になるよね」
「“試練の洞窟”でのスタンピードと変わらない数だったな。あの時は【B】ランク冒険者達が居たし、集団戦のプロである駐屯軍も20名は居たから楽勝だったけどな」
「酷い!私達も頑張ったんだよ!」
シャルロッタの問い掛けにマテオが答えると亮二が冗談混じりに補足説明を行い、その内容にマイシカが頬を膨らませながら文句を言ってきた。そんな様子を眺めながら微笑ましそうにしているシャルロッタだが、実は静かに混乱真っ最中だった。
- え?大部屋はクリア出来ない設定になってるんじゃないの?あの部屋は大怪我をして動けない人には魔物は襲わないように特殊な魔法が掛けられているわ。そして全滅状態になると、天井から『この部屋で手に入れた物は返却して立ち去るが良い』と声が聞こえて、金貨や宝石を返却しないと大部屋から出られない仕様になっているのよ? -
亮二が嬉しそうに“2つ首ドラゴンの財貨箱”をシャルロッタに見せていたが、一向に反応がないために訝しげに彼女を見ると財貨箱を眺めながら何かを考えているようだった。
- それに全滅状態だったとしても部屋を出たら怪我も回復するしね。残っている記録には大部屋に出る魔物は最大で150匹を超えたと書かれているけど、そんな数を殲滅なんて出来るものなの?それに大部屋の下にあるチャレンジ部屋なんて聞いた事もないわよ!だいたい“2つ首ドラゴン”ってなによ?あの地下にそんな凶暴な魔物が居たって言うの?それを討伐した?大体、報酬ってなに?それにこんな金額見た事もないわよ!あの箱に手を突っ込んで握ったら、私のお給料1年間分は超えるんじゃない?だいたい…「シャルロッタ先生!」 -
シャルロッタは“2つ首ドラゴンの財貨箱”を眺め続けながら、パニック状態で思考の海に沈んでいた。あまりに反応がないシャルロッタに生徒達が心配しながら声を掛けると、我に返ったように首を振りながら意識をはっきりとさせると笑顔で話し始めた。
「ごめんなさい。あまりの状況に付いていけなかったわ。ちょっと、学院に戻って緊急会議を開くから、今日はこれで授業を終わりにするわね。明日も休講にするので、今日の疲れをしっかりと取って英気を養うようにしてね」
シャルロッタは解散を告げると、足取りが覚束ない状態で学院に戻っていくのだった。
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「よし!俺たちは“初級探索者ダンジョン”を攻略したのを祝して、飯でも食べに行こう!もちろん俺が奢るよ!」
「今日の報酬に手を付けたら駄目だよ?」
「当たり前じゃん!それ以外にもお金は持ってるから、気にしなくて大丈夫!」
亮二の宣言に一同は歓声を上げると王都にある料理屋に向かうのだった。亮二達が向かったのはエリーザベトが私的に利用している料理屋で、店に入ると恰幅の良い女性が対応にやってきた。
「いらっしゃい。エリーザベトちゃん。お?今日は友達を連れてきたのかい?珍しいどころか、エリーザベトちゃんに友達が居たなんてね。私は嬉しいよ!」
「ちょ、ちょっと!意味の分からない事を言わないで欲しいですわ!私が王都に来る時は1人でゆっくりしたいから来ているだけですわ!それに店主自ら出迎えなくても構いませんのよ!お友だちを連れて来ただけですから!」
「お嬢ちゃんに友達?やっと友達が出来たんだね。ここに1人で来てた時は『この子は寂しい子だね』って思ってたんだよ」
「そんな事を思ってましたの?」
店主の女性がにやけながらエリーザベトに話しかけると、顔を少し赤くしながらエリーザベトが反論していた。そんな様子を眺めていたオルランドは恋人の新たな一面を見つけたかのような顔をすると、エリーザベトの背後に立って店主に話し始めた。
「初めまして。エリーの恋人のオルランドです。いつもと違うエリーが新鮮なんですが、いつもこんな感じなんですか?」
「まっ!エリーザベトちゃんの彼氏!そうかい、そうかい。ついにお転婆姫に友達だけでなく恋人も出来たのかい。おばちゃんは嬉しいね。よし!今日は腕によりをかけて料理を作ろうかね!」
オルランドの自己紹介に「そうですの。今日からお付き合いする事になりましたの!」と真っ赤な顔になりながらも店主に伝えると、一同を団体席に連れて座るように告げた。
「ここの店主は私が小さい頃に公爵家の料理長をしていた人で、料理の腕前は王都でも有名ですのよ!」
エリーザベトが自ら案内役として一同は“初級探索者ダンジョン”にアタックした際の苦労話や、地下4層での激闘の話で盛り上がりながら王都で有名だとエリーザベトが紹介した料理に舌鼓を打つのだった。
エリーザベトさんはやっぱりボッチだったようです。