167話 神との再会 -お互い元気そうですね-
やっぱりイオルスがオルランドの身体に宿ったようです。
「ひょっとしなくてもイオルス?」
亮二の問いかけに、いつもと違うオルランドの表情で嬉しそうに頷くと「はい、イオルスですよ」と返事が返ってきた。亮二は嬉しそうにするとストレージから”ハリセン”を取り出すと全力でイオルスに叩きつけた。
「痛ぃ!何するんですか!せっかくの再会なのに酷いじゃないですか亮二さん!”ハリセン”でツッコまれるようなボケなんてしてませんよ!」
「うるさい!会う事があったら感謝しようと思ってたんだよ!」
「え?じゃあ、”ハリセン”で叩かれた意味は?」
突然、”ハリセン”で叩かれたイオルスは頭を押さえながら抗議をしてきた。そんな様子を亮二は嬉しそうに眺めると、”ハリセン”でイオルスを再度叩くと説明を始めた。
「じゃあ、説明してやる。まず、転生途中の通路で聞かされた自動音声。それに年齢!セーフィリアの世界では13才から成人だからと説明が有ったのにステータスで確認したら11才だったじゃん!なんで11才なんだよ!最初に年齢の説明をする時にどれだけ苦労したか。それと、せっかくモテて結婚が決まったのに、成人するまで2年も待つ必要が出たじゃねぇか!」
「いや、ちょっとした手違いで。てへぺろ!痛ぃ!」
「やかましいわ!てへぺろもイラつく要因なんだよ!って、こんな話をしてる場合じゃなかった。”2つ首ドラゴン”の様子はどうなっている?」
亮二が今までイオルスに対して溜め込んでいたうっ憤を吐き出して冷静になると、”2つ首ドラゴン”への攻撃最中だと思いだして慌てて”2つ首ドラゴン”に視線を向けたが霧も動いておらず、よく見ると亮二とイオルス以外は何も動いていない事に気が付いた。
「あれ?ひょっとして時間止まってる?」
「厳密に言えば超スローペースで流れています。ちょっと、亮二さんとお話がしたかったので時間を操作しました。長時間は無理ですが5分くらいでしたら会話できますよ」
「じゃあ、”ハリセン”で叩きたい放題か」
「え?まだ叩かれるんですか?でも、時間が動き出したらダメージはオルランドさんにいきますよ?」
「この”ハリセン”はミスリルで作っていて、全力で叩いても大きな音と「痛ぃ!」と叫ぶ効果しかないんだよ」
「私の代名詞と言われているミスリルを、そんな事に使うなんて…」
イオルスの言葉を聞いた亮二は嬉しそうにすると、上段から全力で”ハリセン”を振り下ろすのだった。
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「いくらダメージが無いからって叩きすぎだと思います!」
「これでスッキリしたから許してやる。でも、異世界に転生させてくれた事は感謝してるんだぞ。だから立派な神殿も作ったろ?」
頭をさすりながら苦情を言ってきたイオルスに、亮二はスッキリした表情で駐屯地に建てた神殿の話を伝えた。
「もちろん、亮二さんからの感謝の気持ちは伝わってましたよ。それよりも、この世界の住民が亮二さんに対して感謝の気持ちを持ってくれるのが嬉しいですね。それが信仰の力になりますから」
「感謝の気持ちが信仰の力になるの?え?神殿を建てるよりも?せっかく神殿を建てたのに」
亮二の驚きにイオルスは首を振って否定すると説明を始めた。
「もちろん、神殿を建ててもらっても信仰の力は増えますよ。でも、亮二さんがこれまで活躍されてきた内容は、人々が“亮二さんがいる時代に生まれた幸運”を神に祈るほどの出来事なのですよ。駐屯地だけの話ではなくてね。亮二さんと出会えた幸運を祈る力が、幸福の神イオルスの力になるのです」
「そ、そうなんだ」
「あれ?ひょっとして照れて…痛ぃ!え?本当の事を言ったからって叩くこ…痛ぃ!」
亮二の耳が赤くなっている事に気付いたイオルスが、からかおうとしたが先を越すような“ハリセン”の連続攻撃を受けて言葉が止まると、亮二はまくし立てるように質問をした。
「それよりも!俺がこっちの世界に呼ばれたのは信仰の力を得るためか?」
「それは違います。信仰の力が多くなったのは嬉しい誤算です。言い方は悪いですが、そんな事を亮二さんに「期待」していませんでした。私が期待しているのは亮二さんがお持ちの転生前の日本の知識を使って、レベルの下がったこの世界を少なくとも500年前まで戻して欲しいんです」
「500年前?」
「ええ、500年前はアマデオさんに頑張ってもらったんですが、彼が死んでからどんどんとレベルが下がっていったんですよ。だから、亮二さんのようにライナルト主任教授やアウレリオさんと商売して頂けると、後の世にもつながるのでありがたいですね」
「え?アマデオってこの国の建国王だよな?彼も転生者なのか?」
亮二の質問にイオルスは先ほどと同じように首を振って否定すると説明を始めた。
「彼はこの国で生まれました。転生者ではなく、純粋に能力が高くて神との会話ができる能力を持っていたんです。そんな彼に神託を授けて、色々とやってもらったんです。でもここ最近は彼のような能力者が出て来なくて、このままでは世界が衰退するので転生者を求めて亮二さんにたどり着いた次第です」
「オルランドはどうなの?イオルスを自分の身に宿してるんじゃないの?」
「彼はアマデオさんの子孫で強い力は持っていますが、あくまでも現代を基準にした場合ですね。いくら教皇とはいえ、亮二さんほどの力は持てなかったようですね」
亮二からの質問に気楽に答えていたイオルスのセリフに引っ掛かりを覚えた亮二は、暫く考えて「教皇?」と呟いた。
「ええ、オルランド=ラベルニアさんは第86代の教皇さんですよ。年齢は14才で間違いないです。彼の意識を確認すると、亮二さんが学院に来るとの噂を聞いて実力と人望などを確認しに来たみたいですね。途中からはエリーザベトさんが好きになったので、亮二さんそっちのけだったみたいですが」
「はっはっはっ。よし、オルランドの意識が戻ったら応援してやろう」
「残念ながら亮二さんとの会話もここまでのようですね。ちなみに今回はオルランドさんが呪文を唱えたタイミングと、私が意識をセーフィリアに向けたタイミングが一致したので実現しました。簡単に出来るわけではないのが残念です。亮二さんに“ハリセン”で叩かれるのは勘弁ですが、またお会いしましょうね」
「ああ、さんざん“ハリセン”で叩いたが感謝している気持ちに嘘はないからな。俺が生きている内に会うことも何回かあるだろうし、その時は飯でも奢ってやるよ」
「じゃあ、あと30秒程で時間が戻りますので、頑張って“2つ首ドラゴン”を倒して下さいね」
イオルスは手を振って別れを告げるとオルランドを包んでいた光が徐々に弱くなり、時間が流れ始めるのだった。
相変わらずイオルスはイオルスでした。