159話 伝説の武器について -マルコのメイン武器になりますね-
マルコが朝から訪ねてきました。
その日、王都で号外新聞が発売された。セーフィリアの世界では羊皮紙が潤沢に生産されており、大きな都市部では羊皮紙に手書きで書いた物が新聞として週に1度のペースで発刊されていた。新聞自体は高級品だが、載っている内容が多岐に渡っている為に、貴族や商人はもちろんの事、市民もお金を出し合って購入していた。また、定期発行以外にも大きな出来事が有った場合には号外が発刊されており、今回の号外の内容も王都の住人を存分に楽しませていた。
ライナルトにロサを助手として紹介した次の日の朝に、マルコが号外新聞を持ってやって来ていた。亮二はメルタにお茶の用意を頼んで、マルコにソファーに座るように伝えるとアイテムボックスから取り出された号外新聞を受け取りながら詳細を確認するのだった。
「ふむふむ。”王立魔術学院ライナルト主任教授と”ドリュグルの英雄”であるリョージ・ウチノ子爵が”転移魔法陣”の開発に成功!5年後の実用化に向けて更なる研究を始める。マルセル王はこの功績を持ってリョージ名誉子爵を名誉伯爵に、ライナルト主任教授を名誉男爵に!また、ライナルト主任教授は学院主任教授と技術大臣を兼務!”だってさ。開発期間はマルセル王が意図的に変更している?それにしても、いつも思うんだけど、こういった情報ってどこから仕入れてくるんだろうね?」
「情報屋はどこからでも情報を集めてくるからな。それにしても貴族派と学院長の引きつった顔が目に浮かぶよな。リョージは学院長から絡まれないように気を付けろよ」
号外を見ながらマルコに話しかけた亮二に対して、マルコは笑いながら忠告すると羊皮紙を亮二から受け取って内容の再確認を始めた。
「で、それだけの理由でマルコがここに来た訳じゃないよね?」
「ああ、ユーハンとハーロルト公からの伝言だ。『貴族派から狙われる可能性が有るから護衛を付ける。普段の生活に影響が出ないようにするから安心して学生生活を満喫してくれ』だとさ。それと、ハーロルト公からは『娘が迷惑を掛けている。そろそろ、鼻っ柱が圧し折られる頃だと思うが、もう少しよろしく頼む』だとさ。あのお嬢ちゃん、まだ頑張ってるのか?俺の一言で心を折ったつもりだったんだけどな」
「彼女は頑張り屋さんだよ。俺の友達情報だと頑張りがすべて空回ってるらしいけどな。でも、これから”初級探索者ダンジョン”の階層深くに潜っていくから、1人でやるのもそろそろ限界が来るんじゃないかな?何とか、全滅だけは避けて欲しいけど」
亮二の言葉にマルコが何か言おうとしたが、首を振って苦笑いすると「そうだな」と頷くのだった。
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「あっ、そうそう。マルコにプレゼントが有るんだよ」
唐突に満面の笑顔を浮かべながら近付いて来た亮二にマルコは嫌そうな顔をしながら「なんだよ」と返事を返した。マルコの嫌な顔をまるで気付いていないかのように亮二はストレージから”ハリセン”を取り出すとマルコに手渡した。
「これは?」
「俺の国で伝説の武器と言われている、その名も”ハリセン”だ!これはツッコミたい相手に対して上段攻撃や、横薙ぎの攻撃をすることで、攻撃力は皆無なのに大きな音と、相手が「痛ぃ!」と無条件に言ってしまう効果が有る。マルセル王が渡した"棒"も良いけど、それよりは段違いにランクの高い武器だよ!」
亮二の説明を受けてマルコは”ハリセン”を受け取ると、しげしげと眺めて「ひょっとしてミスリルを使ってるのか?」と呟いた。
「流石!マルコさんはお目が高い!そうなんです。蛇腹の部分は全てミスリルを加工していて、持ち手の部分は銀で作ったんだよ。魔力もしっかりと込めてるから壊れる事もなく永久に使える!そして、小さく折りたたむ事が出来るから、アイテムボックスに収納も簡単!だからマルコは思う存分にツッコみをしてくれれば…痛ぃ!説明の途中で何すんだよ!」
「うるせえよ!なんでツッコミの為の武器を作ってるんだよ!しかも伝説のツッコミの武器ってどういう意味だよ!作ったってお前がか?なんでミスリルを使った?あぁ!もう、どこからツッコんでいいのかわからねえよ!」
「さすがだな!使い方なんてほとんど言ってないのに、完璧に使いこなしている!マルセル王や俺の目には狂いは…痛ぃ!」
亮二から“ハリセン”の説明を受けている最中に上段から思いっきり“ハリセン”を打ち下ろすと、屋敷に響き渡るような大きな音が鳴った。マルコは頭を押さえて恨めしそうに見上げながらも、一大事業をやり遂げた職人のような表情の亮二を見て、嫌そうにしながらも“ハリセン”のツッコミ能力の高さを認めざるを得ないのだった。
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「ところで、リョージ様。マルコに渡した“ハリセン”作成の費用はどのくらいかかられたんですか?」
「え?何言ってるの?ドラゴンを退治した時にもらったミスリルで作ったから費用はかかってないよ?」
「ドラゴンを倒した時のミスリルは頂いているはずですが?全部渡しませんでしたね!」
「アレ?ワタシテナカッタカナ?ソンナコトハナイトオモウヨ?カレナリエンニカクシゴトヲスルワケナイジャナイカ」
「その言い方は何か隠してますね!全部白状するまで正座ですからね!」
過小報告したために追徴されてしまいました…。