147話 ライナルト主任教授との共同研究2 -後は最終確認だけですね-
魔法陣がどんな風になったのか楽しみです。
「ライナルト主任教授、失礼します」
ノックの音に「どうぞ」と答えると、亮二が嬉しそうに入ってきた。ライナルトは前回と同じく指を口に当てて黙るようなジェスチャーをすると、立ち上がって花瓶に近付きながらニヤリと笑って話し始めた。
「今日、リョージ君に来てもらったのは他でもありません。実は例の研究が上手くいかなかった報告です」
「えぇ!そうなんですか!もうすぐ完成だとシャルロッタ先生にお伺いしていたのですが?」
「シャルロッタ先生には『もうすぐ完成です』と見栄を張っただけなんだよ。私としても非常に残念だよ。せっかくリョージ君に協力してもらってここまで来たんだからね。今回は駄目だったが、別の件ではお願いをするかもしれないから、その時はまた協力をよろしく頼むよ」
「それは構いませんが、それ以外でもお邪魔させてもらって構いませんか?ライナルト主任教授とお話をしていると勉強になりますので」
「ああ、私が暇な時だったら許可しよう。じゃあ、今日はこれで帰ってくれるかい。流石に疲れてしまってね」
「分かりました。また何かあればご連絡ください。それでは失礼します」
亮二とライナルトとのやり取りが終了し、亮二は一旦外に出た。1分もしない内にライナルトが扉を開いて亮二を中に招き入れた。亮二が改めて部屋に入って周りを見渡すと、花瓶から盗聴器が取り出されており、“魔力検知”をすると前回のように活動を停止していた。
さらに部屋の対角線上には大きな木箱が置かれており、木箱を開けるように指示された亮二がワクワクしながら蓋を開けると大きなぬいぐるみが入っていた。
「え?ライナルト。このぬいぐるみを見せたかったの?」
「まさか。これは盗聴器を回収する人間の目を欺くための人形です。もちろん、実験にも使う予定なんですけどね。すいません。ちょっとした冗談でした。本当に見せたいのはその下の台座になります」
亮二からの突っ込みに笑いながら否定すると、箱とぬいぐるみを脇に置いて台座になっていた部分を紹介するのだった。
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ライナルトが木箱を脇に置くと台座になっている部分が露わになり、大きさは亮二が2人乗っても余裕がある大きさで、台座には前回見た魔法陣が描かれていた。
「これは紙に書いてた魔法陣だよね?」
「そうです。前回は紙が破れてしまったので、軍曹に魔力を注いだもらった後にどれだけ利用出来るかの検証が出来ませんでした。今回の魔法陣は上部を”銀”で作っていて、台座の部分は”鋼”になっています。前に軍曹にお売りした屋敷の代金が有ったので自費で研究が出来たんですよ」
「そこは自費じゃなくて研究費を使うんじゃないの?」
亮二からの質問にライナルトは苦笑しながら首を振ると説明を始めた。
「研究費にすると、支払い依頼をする時に利用内容の説明が必要なります。出来れば極秘に進めて、一気に発表をしたいので自費で賄う事にしました」
「自費を費やして大丈夫か?少しくらいなら俺も援助するよ?」
「いやいや。軍曹には【時空】属性魔法を注いで頂く大事な使命があります。お金なんて俗世にまみれた事を軍曹がする必要は無いんですよ!」
ライナルトの無駄に熱い宣言に苦笑しながら、亮二は台座に近付くと【時空】属性魔法を注いでいくのだった。
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「うぉい!ライナルト。物凄く魔力が必要なんだけど?」
「そうなんですか?流石にそれに関しては軍曹の力で何とかしてもらうしかないんですが」
ライナルトが用意した魔法陣に【時空】属性魔法を注いでいた亮二が愚痴をこぼすと、ライナルトは苦笑しながら「頑張ってください」と応援するのだった。
「よし!ここは“ミスリルの腕輪”を出して、こっちの魔力を使おう。俺自身の魔力は後半分も残ってないわ」
「えっ?そんなに魔力を使ってるんですか?これ1台で?両方となると今日中にいけますかね?」
「それは安心してくれ。両方共に魔力を注ぐから、あと10分位は時間が欲しい」
亮二はそう言うと1台目の台座に魔力を注ぎきった後にインタフェースを起動して魔力残量が43%で有る事を確認すると、”ミスリルの腕輪”をストレージから取り出して装備すると、充電していた魔力を使って2台目に魔力を注いでいくのだった。
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「疲れた!これで両方共に魔力を注いだぞ!ライナルト!」
「有難うございます。じゃあ、さっそく前回の続きからしましょうか?まずは前回紙の魔法陣が破れた鉄鉱石からいきましょう」
ライナルトの要望に亮二はストレージから鉄鉱石を出すと魔法陣の上に置いた。前回と同じように置いた瞬間に鉄鉱石は消え、対角線上に設置してある魔法陣に転移していた。ライナルトは鉄鉱石を動かして問題ない事を確認すると、大きなぬいぐるみを持ってきて魔法陣に置いて問題なく対角線上の魔法陣に現れたのを確認すると、満足気に頷いて羊皮紙に書いてある品物をどんどんと試していくのだった。
「軍曹。魔法陣の魔力は50回位じゃ無くならないみたいですね。それと、大きさや重さも関係なく転移しますので、そろそろ生き物を試そうかと思うのですが」
「そうだね。ちなみに俺の国の書物に書かれてあったんだけど、人間が転移の際に別の生き物が身体にくっついていて魔族になった話があるんだけど大丈夫?」
「軍曹の国って恐ろしい物語があるんですね。ですが、安心して下さい。私の推論では例え人間同士が手をつないでいてもくっつく事は有りませんよ。もし、そんな現象が起こっていたら最深部での戦った魔物に居たでしょうしね」
「なるほどね。あっちの魔法陣から、そのままの座標でもう一方の魔法陣に転移するからずれる事が無いってことか」
「もちろん、生き物で試してみますね。さっき捕まえたバッタ2匹を括り付けて魔法陣に置きますね」
ライナルトがバッタを魔法陣に置くと対角線上の魔法陣に転移していた。亮二が恐る恐るバッタを確認して紐を解くと、2匹のバッタが別々に逃げていったのを見てホッと溜息を付く亮二だった。
後は人間で試すだけですね。