142話 ライナルト主任教授との共同研究 -時空属性魔法活躍ですね-
無事に1週間が終わりそうですね。
週末になり、亮二はライナルトの研究室にやって来た。ノックをして部屋に入るとライナルトが指を口に当てて「喋らないで」とジェスチャーを伝えてきた。亮二が頷くとライナルトは右手を差し出しながら魔力を集中させて花瓶に近付くと軽く叩いた。
「よし、これで大丈夫。お待たせしました軍曹」
「別にいいけど、今何をしたか教えてもらってもいい?」
「簡単な話ですよ。この花瓶の中にある盗聴の魔道具を一時的に動かなくしたんですよ。これで心置きなく軍曹とお話ができます」
ライナルトは笑顔で盗聴器を一時停止した事を伝えると亮二に椅子に座るように勧めてきた。亮二は花瓶の中にある盗聴器を“魔力検知を行ったところ、花瓶が青い色を放ち始めた。
「どうやら、赤い光が稼働中で青い光が待機中のような感じみたいだね。壊さなかったのは敵を欺くため?」
「敵?そうですね。敵ですよね。こちらの進めている事に横槍を入れたり、発表しようとしていた論文を先に出したり。あっ、もちろん論文は出した教授に対して徹底的に討論をふっかけて論破しましたけどね」
盗聴器を破壊しなかった事を確認されたライナルトは黒い笑顔で答えると「退席される時は一芝居をお願いしますね」と亮二に依頼するのだった。
◇□◇□◇□
「で、盗聴学院長への対応が完了したとして、今日呼び出した理由ってなに?授業の時に言っていた【時空】属性魔法を使っての研究について何かしたいんだよね?『今の研究が進むな』って言ってたもんな」
「そうそう、そうなんですよ!ちょっとこれを見てもらって良いですか?」
ライナルトは興奮した表情で机から紙を2枚取り出すと亮二に見せてきた。亮二は紙に書かれた内容を見るために覗きこむと、そこには魔法陣が書かれていた。
「これは?」
「覚えは有りませんか? 軍曹は一度、この魔法陣を見ておられますよ」
「え?俺が見た事がある魔法陣って言えば、試練の洞窟の最深部に有った魔法陣くらいだけど?」
「そうです!その魔法陣です。あの最深部に有った魔法陣は不慮の事故で残念ながら使えなくなってしまいましたが、王都に戻っても研究できるように写してきてたんですよ」
ライナルトの嬉しそうに説明するのを聞きながら亮二は胡散臭げな表情でライナルトを見ると「壊したのお前だよね?」と言い放つのだった。
◇□◇□◇□
「不慮の事故で壊れた魔法陣ですが、あの後の調査で魔物の発生はほぼゼロとの報告を受けています。ですので私はこの魔法陣は“転送の魔法陣だと推測しています」
「さらっと俺のツッコミはスルーしたな?まあ、それは置いといて、確かにそうだよな。開放した後の魔物の発生数は1ヶ月で30匹もいないかなら。あのスタンピード以前の発生率から言っても激減してるよな。で、あの魔法陣がどこかに繋がっていて、最深部の魔法陣が出口になっていたと考える訳か」
「そうです!で、ここに2枚の魔法陣を作成しました。私の理論が正しければ、この2枚に魔力を通して頂ければ繋がるはずなんです。ささっ!さっそくここに魔力を!ババーンと!」
「ババーンとって…。王立魔術学院の主任教授が出す言葉じゃないと思うんだけど。念の為に確認だけど、危険は無いんだよな?」
「分かりません!私が知るかぎりは誰も試した事が無いからです。なにせ遺失属性だったんですからね」
亮二とライナルトのやり取りは魔法陣に【時空】属性魔法を注ぐ話まで進んだが、亮二が危険性についてライナルトに確認すると満面の笑みで「分かりません!」と返ってくるのだった。
◇□◇□◇□
「よし!ライナルトそこに正座!」
「ええ?私が正座ですか?それは軍曹の専売特許では?」
「なんで俺の専売特許なんだよ!それに嫌だよ!正座の専売特許なんて。もう正座をするような事はバレないようにするって決めてるんだからな!」
「いや、そこをそんなに胸を張って言われても」
正座宣言に反論しながらも正座をしたライナルトに亮二は説明を始めた。
「いいか、ライナルト。やった事のない魔法を試すなら安全を確保しないとダメだ。俺が魔法を試す時は安全性を十分に確保…してないな。よく考えたら。それにテンプレ的に爆発する事も無いだろうし、いざとなったら不可視の盾型ガントレットが発動するか」
「えっと、軍曹?途中がよく聞き取れなかったんですが?“てんぷれ“ってなんでしょうか?」
亮二は安全性についての説教をライナルトにしようとして、自分が行う時は全く考慮していない事に気付くと最後の方は尻窄みのような呟きになっていった。亮二の話を正座しながら聞いていたライナルトから呟きになった部分の確認をされたが、適当に誤魔化すと「爆発したりしないよね?」とだけ確認して魔法陣に魔力を注ぐ事を了承するのだった。
◇□◇□◇□
「よし!気を取り直して魔力を魔法陣に注いでみよう!」
「有り難うございます。では、まずこちらの魔法陣から魔力を注いでもらえますか?」
亮二の気合の入ったセリフにライナルトは机の上に置かれた魔法陣に魔力を注ぎ込むように頼んだ。亮二は魔法陣全体に魔力が流れるように【時空】属性魔法を注ぎ込むと、魔法陣が淡く輝き白色蛍光灯を弱くしたくらいの明るさで光り続けた。
「おぉ!成功だ!では、軍曹こちらにもお願いします」
「よし、それにしても地味に魔力が必要だな」
亮二はインタフェースに表示されている魔力部分を確認すると“85%と表示されていた。 -この大きさで、これだけ魔力を喰ったらあの魔法陣はどうなるんだ?- と考えながら、もう一方の魔法陣に同じ様に【時空】属性魔法を注ぎ込んだ。
「よし、これで両方に【時空】属性魔法を注ぎ込んだけど、この後はどうすんだ?」
「有り難うございます。ではこれから実験をしていきましょう。まずは小さくて軽い小石から行きましょうか」
ライナルトは机に置いて有った小石を無造作に魔法陣の上に置いた。
「「おぉ!」」
亮二とライナルトが同時に感嘆の声を上げた。ライナルトが置いた小石が間違いなくもう一方の魔法陣に現れていたからである。第一段階の実験が成功したライナルトは次々と大きさや重さを変えながら検証を行っていた。10回目の実験で、亮二が持っていた大きめの鉄鉱石を乗せた時に移動は成功したが、鉄鉱石の重さで魔法陣が書かれていた紙が破れたため実験は終了となった。
「これで検証は終わりで大丈夫でしょう。後は魔法陣を大きくしたり、紙以外の素材を試すくらいですかね?」
「出来れば紙以外の素材で大きくして試してもらっていいか?上手くすれば、俺がドリュグルの街と往復する事が可能だよね?」
「可能ですが、1週間ほど時間を貰って良いですか?この大きさの魔法陣を書くのにも丸1日費やしたので」
魔法陣の大きさを人間が乗れるサイズにするように依頼した亮二に対して1週間の時間が欲しいとのライナルトの提案に亮二は快く了承するのだった。
これで、大きくして上手くいけば輸送費ゼロが実現できる!