138話 私的魔法学校2限目 -魔法の使い方を教えますね-
詠唱破棄はかなり魅力的なようです。
「詠唱破棄?どうやって?いや!そもそもそんな事が出来るの?でも、リョージ君が今やったよね?」
ロサはパニックになりながら呟いており、マテオとマイシカは唖然とした表情のままで硬直しており、驚愕の表情からいち早く復帰したルシアが代表者として亮二に詰めかけると顔を近付ける勢いで問い正してきた。
「ねぇ!リョージ君!いま!どうやったの?あれって私でも出来るの?ねぇ!教えて!リョージ君!」
「ちょっ!近い!近い!ルシア顔が近い!」
ぶつかる勢いで近付いてきたルシアの顔を両手で押さえながら、亮二は説明を始めた。
「昨日の1回目の授業で“魔力を杖に込める”“魔力を属性に変換する”“敵を認識する””敵に向かって魔法を放つ”の過程が有るって話をしたよね?魔法使いは俺が今言った過程を詠唱しながらしてるんだけど、詠唱って、結局のところは魔法を撃つ為の”補助”でしかないんだよ。昨日、ロサが”ウォーターアロー”を撃ったけど、例えば俺にかかれば…こんな感じとかも出来るようになるんだよね」
「「「「えぇ!」」」」
亮二が”ウォーターボール”を目の前に出した状態で固定したのをみた一同は、詠唱破棄と同じくらいに驚愕の表情を浮かべた。亮二は一同の反応に対して嬉しそうにすると再び話し始めた。
「これも俺が見付けたんだけど、目の前に“水の球が有り続ける”ようにイメージするんだよ。さらにイメージを足して、“水は動かない”って感じで【水】属性魔法を使った結果が、皆の目の前に有る“ウォーターボール”になるって訳だよ。分かった?もちろん触ってみても良いよ」
亮二の言葉に一同は恐る恐る”ウォーターボール”を触ったが、いつもの感じで水を触っているのと変わらない事に驚いていた。ふと、何かを閃いたような顔をしたマイシカが“ウォーターボール”の中に顔を突っ込んだ。
「えぇ!マイシカ?なにやってるの!やめなさい!」
ルシアが慌ててマイシカを”ウォーターボール”の中から引き離した。マイシカは上半身がずぶ濡れになりながら手を叩いて「楽しい!」と大笑いして、はしゃぎ回っていた。亮二は苦笑混じりに”ウォーターボール”を消してストレージからタオルを出して渡すと、右手で【火】属性魔法を出して、左手を右手の後ろに添えた状態で【風】属性魔法をマイシカに向けて流し始めた。
「うゎ!暖かい空気が勢い良くやってきた!どんどん髪の毛と服が乾いていくね」
「だろ?俺の複合魔法の”ドライヤー”だよ。洗濯した日に雨が降っても大丈夫!」
「いや、洗濯して干してた時に雨が降っても、家の中で乾かすからね。普通の人間は魔法をそんな事に使わないから。リョージ君だけだよ、そんなに非常識なのは」
マイシカに向けてドライヤーをイメージして魔法を放つと、思った以上に効果が有ったらしく、タオルで髪の毛を拭きながらマイシカは気持ちよさそうに“ドライヤー”を受けていた。
ルシアはそんな2人の様子を呆れたように見ながらツッコミを入れて固まったままのマテオとブツブツと呟き続けているロサを現実世界に引き戻すと亮二に授業を続けるように伝えるのだった。
◇□◇□◇□
「じゃあ、仕切り直して詠唱破棄をする為に属性のイメージを固めてもらいます。昨日、渡した魔石に【火】属性魔法を注いでみた?」
「やってみたけど、意外と難しかったわよ。まだ、魔法を撃つ事も出来ないのに魔石に【火】属性魔法を注ぎ込むのがイメージ出来なかったわ」
亮二からの問い掛けにルシアが代表して答えると、マテオをマイシカが「一緒!」と手を挙げていた。ロサが「簡単だったわよ」と答えたのを聞いた亮二は大きく頷くと説明を始めた。
「今、ロサが『簡単だった』って言ったけど、当然なんだよね。だって彼女は魔法を撃つ事が出来るでしょ。でも、みんなも1回やってるんだよ。思い出してみて」
「あっ!入学試験の時にやった属性判定試験!」
「そう。あの時に【火】とか【水】の属性があるって分かったよね。その時に水晶球に魔力を注いだイメージに【火】属性を強めに意識して魔石に魔力を注いでみて」
亮二からのアドバイスにロサを除いた3人は魔石に魔力を注ぎ始めた。1分ほどで全員が【火】属性魔法が注ぎ込まれた魔石になっている事を確認すると、亮二は満足気に頷き引き続き授業を進めるのだった。
◇□◇□◇□
「じゃあ、3個とも魔石に【火】属性魔法が注ぎ込まれている事を確認したから、今度は杖を使って“魔力を杖に込める”“魔力を【火】属性に変換する”をやってみよう。みんなに渡した“ミスリルの杖”を構えて、魔力を注いで【火】属性をイメージしてみて」
「あの、リョージ君。私の杖は魔力が通らないんだけど?」
「ちょっと貸してみて。え?ちょっと引っかかるけど問題なく通るけど?」
ロサから魔力が通らないと言われた亮二は鉄に覆われた”ミスリルの杖”を借りて魔力を通してみた。やはり、すこし引っかかる感じはするが問題なく魔力を通せており、首を傾げているとマイシカが控えめに亮二に対して話し始めた。
「あの、リョージ君。知ってるとは思うけど、鉄って魔法と相性が凄く悪いよ。剣への属性付与は鉄の周りだから影響はまだ少ないけど。杖のように魔力を通す物は駄目なんだよ。だから、ロサが『魔力が通らない』って言ってるのは合ってるんだよ」
「え?確かに引っかかる感じはするけど、俺は出来るよ?」
マイシカの説明に亮二は腑に落ちない顔をしていたが、周りから生温かい顔をされたので先を制するように「俺が凄いからだね!」と言い放つのだった。
「リョージ君だから」なんて言わせません!