9話 職業適性検査 戦士模擬戦 -血が沸き立ちますね-
剣での戦いは心が踊りますよね
戦士の適性が有るのを知っているのは亮二本人。それと、その本人から話を聞いていたマルコだけである。その彼にしても、亮二からキノコのお化けを600体倒したとの話と、ミスリルの剣を持っている事を知っているだけなので、実際に戦いの才能があるかは分からなかった。
「戦力となる冒険者が1人でも多く居るのは、この街にとっても有難い話だがな」
木剣を振っている姿を見ながら呟いていたマルコだが、亮二の実力を確認するには丁度良い機会だとマルコは考えていた。バルトロメインの冒険者ランクはFであるが、大きな身体に似合わず俊敏性にも優れており、武器の扱いにも長け、今後期待の新人だったからである。
ただ一点、ギルドの入り口で揉めかけた件が有るので、マルコは渋い顔をしながらカレナリエンに話しかける。
「おい。カレナリエン。なんでバルトロメインなんだよ? あいつは、さっきリョージと揉めかけたじゃないか。お前も見てただろ?」
「だって! ギルドに探しに行っても、リョージさんの相手が出来るような丁度いい相手が居なかったし、それにバルトロメインから声をかけてきてれたのよ。『あいつの相手は、俺がやってやるよ』って! なら、彼に頼むしかないじゃない!」
「もし、バルトロメインが圧倒的な勝利をして、戦士としての適性がないと判断されたり、怪我でもしたら、金を貸してくれないぞ?」
マルコから苦情を受けたカレナリエンが口を尖らせつつ反論する。その言葉を聞いたカレナリエンは青い顔をすると、慌ててバルトロメインの方に駆け寄り注意をする。
「いい! バルトロメイン。これはリョージさんの戦士の適性を確認するための、模擬戦なんですからね! 間違っても、さっきの揉め事の憂さ晴らしをやっちゃダメよ!」
「分ってるって。素人の子供相手に本気になるかっての。安心しろよ。自信過剰気味の坊ちゃんに、世間の厳しさを教えてやるだけだからな」
少し離れた場所で木剣の確認をしている亮二を眺めながら、バルトロメインはニヤリと笑いつつカレナリエンに模擬戦を始めるように促すのだった。
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(さっきは、魔力と属性の多さで無双っぷりを見せ付けた。だから戦士としても、そこそこ出来る所は見せときたいな。模擬戦相手のバルトロメインは、入り口で絡んできたやつだろ。アイツの、あの顔はどう見ても『さっき生意気な口を利いたクソガキに、世間の厳しさを教えてやる』って感じだよな? だったら、遠慮なくイオルスからもらった身体のチェックが出来るな。キノコのお化けじゃ分からない動きも確認したいしな。あと、やり過ぎない程度で、世間の厳しさを教えといてやる。人を見かけで判断するなと)
木剣を振りながら改めて感じたことは、セーフィリアで生きていくために用意された亮二の身体は、基本能力が高い事だった。複数のキノコのお化けを前にしても苦にせず対応ができる。そして面倒くさいと感じられるほど、倒し続けられる筋力と持久力もある。
だが、今回の相手は、なにも考えずに振りかざして突っ込んでくるキノコのお化けとは違い、戦士の適性を持った冒険者である。模擬戦とは言え対人戦闘との事も有って、亮二は沸き立つ心を抑えながら、開始の声がかかるのを待っていた。
「もう一度、言っておきます。これはあくまでも適性検査になります。お互い、やり過ぎないように注意してください。特に、バルトロメインは試験官として行動するようにと、強く言っておきます。では、始めてください!」
注意事項を伝えたカレナリエンが開始の宣言を行う。亮二が木剣を構えたのに対し、バルトロメインは見た目が子供である事も有って、木剣を肩に担いだ状態で馬鹿にするように亮二に手招きを行った。
「遊んでやる。そっちから、かかって来いよ」
「そうなの? じゃあ、遠慮なく」
バルトロメインの態度に一瞬、目を細めて眉を軽くしかめたが笑いながら木剣を軽く握リ直すと、一足飛びで間合いに入り、真正面から横薙ぎの一閃を放った。
「なっ!」
想像以上の速度で近付いてくる木剣に慌てながら、なんとか横薙ぎの一閃を躱したバルトロメインだったが、その目に入ってきたのは上段から打ち下ろされてくる木剣だった。
(なんで、横から来ていた木剣が、上段から来るんだよ!)
叫ぶ間もなく打ち下ろされてくる攻撃に、慌てて肩に担いでいた木剣で受け止める。なんとか歯を食いしばりながら踏ん張って耐えたが、バルトロメインは伝わってくる衝撃に驚愕する。不安定な体勢で受け止めた体勢を整え、剣を構え直すと腰を落として反撃のために踏み込もうとする。
だが、バルトロメインの攻撃は先を読まれているかのように防御され、逆に連続した攻撃に晒され続け、防戦一方になり始めた。
(なんだよ! ガキの力や技術じゃないだろ! 戦士にも登録してない素人なのに、なんて攻撃をしてくるんだよ! マルコが連れてきた、どっかの金持ちボンボンじゃないのかよ! なんなんだよ! こいつは!)
バルトロメインの心の動揺には気付かず、亮二は横薙ぎの一閃後に上段から打ち下ろす。そして返す刀で逆袈裟斬りを打ち、バックステップで躱そうとをするたびに、上下左右に剣を振るいながら間合いを詰める。
徐々に驚愕から困惑に、そして焦りが出始めているバルトロメインの表情に勝利を感じた亮二は、横薙ぎの一閃を撃った後に、わざと大きく息を吐いて限界を装った。そんな亮二の様子に、大きな隙が出来たと感じたバルトロメインは、今までの劣勢を挽回するために雄叫びを上げ、一気に間合いを詰めながら袈裟斬りを行った。
「は?」
模擬戦は圧倒的に亮二優勢だった。開始時からナメてかかっていたバルトロメインに対し、亮二は横薙ぎの一閃を放った後は、一方な展開で反撃の糸目を晒すこと無く、最後も亮二が意図的に作った隙だとも気付かず、勢い良く前に出て体勢を崩した所を攻撃され、空中高く木剣を跳ね上げられていた。
特に息を乱すこと無く、空中に上がった木剣を亮二が右手で受け取る。そして、左手で持っている自分の木剣をバルトロメインの喉元に突きつけて『これで終わり?』と言わんばかりに、軽く首を傾げながらカレナリエンの方を向くのであった。
やっぱりやり過ぎは気持ちいいです。




