97話 街道での一コマ -戦闘を少ししますね-
森から抜けたらあと1/3で王都に到着です
”盤面の森”を1週間ぶりに抜けた亮二達一行は、王都に向けて出発を再開した。森で1週間を過ごしていたが王都までは3日を残す距離まで来ており、街道を進ませている亮二達も周りの田園風景を余裕を持って眺めていた。
もっとも”盤面の森”を領有している貴族派の土地では馬の交換とドリュグルの街への手紙を出すだけで交流を持つ事もなく通過していたが。貴族派の領主も亮二達は”盤面の森”で魔物に襲われて全滅したと思い込んでおり、言質を取られた文官を首にして証拠隠滅を図った後は、亮二の存在自体を忘れて王都に旅立っていた。
「リョージ様、貴族派の妨害について放置するんですか?」
「いいんじゃない?結果論だけどドラゴンの素材が丸々手に入ったし、魔道具の使い勝手もいいし、”盤面の森”の管理者権限も貰ったから、後でこっそりと森の中を変えようと思っているし。それに俺達が森から戻って来ないから死んだと思っているんじゃないかな?」
カレナリエンから貴族派の妨害についての対応をしなくても大丈夫なのか?との質問に、亮二は「特に問題ない」と答えると周りの者にも同じように伝えるのだった。
◇□◇□◇□
立ち寄った街で大量の食料や寝具などを購入していたので、亮二達は休憩無しで王都を目指していた。御者が出来る文官2名とカレナリエン以外は基本的に”拡張の部屋”で休憩を取るように伝えていた。メルタから、亮二達こそ休憩を取るべきだと意見されたが、索敵が出来るのは亮二とカレナリエンだけの為、やんわりと断ると、カレナリエンに休憩するように伝えて文官と2人で御者台に座って街道を進ませながら王都の状況や貴族社会の大変さなどを聞くのだった。
「それにしても平和だね」
「普通は野盗や魔物に襲われる事は注意しますが、ドラゴンに襲われる事なんて無いですからね。それにしてもここまで魔物の姿が見ない事も珍しいですが。普通は遠目でも姿くらいは見えるんですけどね」
亮二の呟きに文官が笑いながら答えてきた。亮二は索敵モードの範囲を500m程にして念の為に警戒しながら文官との会話を楽しんでいたが、索敵モードの右上から10頭ほどの魔物が明確な敵意を持ってこちらに向かって来ているのが確認できた。
亮二は軽くため息をつくと座席から立ち上がって”杖”をストレージから取り出すと文官に話しかけた。
「そう言えばさ、魔物の姿が見えないなんて珍しいって言ったよね?」
「ええ、言いましたが?急に杖なんかを取り出されてどうされたのですか?」
「俺の国では、そういった言葉は”フラグ”って言ってさ。言った瞬間に全てが台無しになるから気を付けた方がいいよ」
「それってどう言う事で…」
文官は言葉の途中で右手側から土煙が上がっている事に気が付いた。突然、現れたように見えた魔物は、遠目に見ても大きな角と身体をしており、先頭を走っている個体についてはさらに2回りほど大きかった。慌てて馬車を止めようとした文官だが、すでに距離は300mを切るまでに近付いて来ており、急な方向変換は難しそうであった。
「カレナリエンさんを起こしましょう!何か有れば即時対応出来るようにするべきです!」
「大丈夫。今終わるから」
亮二は”杖”を魔物達に向け”ライトニングニードル24連”と呟くと”盤面の森”で亮二が使っていた”ライトニングショット”よりも、さらに細く短かい金色に輝く針が亮二の頭上に24本現れた。文官が口が開いたままになっているのを不思議に思いながらも「Go!」と呟くと、馬車に向かって襲いかかろうとしていた11頭に向かって突き進んでいった。24本の針の内4本は一番大きな魔物に、残りはそれぞれの魔物の眉間に吸い寄せられるように突き刺さった。
「よし終わり!回収しに行こう」
亮二の声に我に返った文官は何か言おうとしたが、言葉が出てこずに口をパクパクとしていたが、諦めたかのように首を振ると「まあ、リョージ様ですしね」と呟いて馬車を魔物の群れに向けて進めるのだった。
◇□◇□◇□
「私達が仮眠している間に魔物が襲ってきたんですか?」
「そうなんだよ。でも俺が一撃でやっつけたから!」
「有難うございます。でも次からは起こして下さいね。冒険者として魔物が来てるのに寝てたなんてあり得ませんから」
カレナリエンとメルタからやんわりと注意された亮二は素直に謝ると、魔物についてカレナリエンから情報を聞いた。
「これは”巨大な角牛”ですね。群れで生活する本来なら大人しい魔物のはずなんですけどね。1頭討伐するだけでも結構大変なんですよ。あの角で突進されるのはかなりの威圧感が有りますからね」
「えっと、全部で11頭討伐したんだけど。どうしたらいいかな?」
「え?11頭も討伐したんですか?でも、リョージ様なら大丈夫か。結構大変だったんじゃないんですか?」
「10秒も掛からなかったよ?」
亮二からの答えに一瞬で頭が真っ白になったカレナリエンは、口をパクパクとしていたが軽くため息を吐いて「ま、まあ、リョージ様ですしね」と呟いて無理矢理納得させると”巨大な角牛”の利用用途の説明を始めた。
「えっと、肉は美味しいです。角は薬の材料になりますね。頭部が無事な場合は剥製にして屋敷に飾る貴族もいます。確か、これから向かう教皇派の貴族邸にも飾られていましたよ」
「それは良い事を聞いた。じゃあ、どうするかはお任せするとして一番大きなの以外は教皇派領主様に買い取ってもらおう。これで縁ができるんだったらユーハン伯にとっても最良だろうしね」
亮二はまだ見ぬ教皇派領主に対して、何を手土産で渡すのか思案にくれるのだった。
牛11頭どうしましょうかね?