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来し方 行く先

 過去という熱が迫る。

 未来という炎が燃えさかる。


 熱が追いかけてくるから、それから逃れるために僕は前へ進まねばならない。でも僕の少し前には炎がある。炎は僕と同じ速度で前へと進む。それはじりじりと僕を熱し、僕の足を鈍らせる。熱と炎に挟まれ、僕の立つ「今」はとても熱く息苦しい。


 後ろには僕がかつて越えた山や谷がある。


 山の頂きを歩むとき、僕はどんなに心地よかっただろうか。

 谷の底に這ったとき、僕はどんなに苦しんだことだろうか。

 熱による蜃気楼が後方を曖昧に揺らす。

 目を(すが)め、じいっと見ようとしてみれば、熱に炙られる僕の眼はいつか干上がり、後ろだけでなく前を見ることもできなくなってしまうだろう。

 確かに、後ろを明確には見渡せない。しかし山や谷があったことははっきりとわかるのだ。


 それならば前にも、これから越えるべき山や谷があるのだろう。

 しかし炎は僕の少し先で燃え続け、先を見通すことを妨げる。

 後ろに迫る熱は僕の身体を焼きうるが、前を塞ぐ炎は傷つけない程度にじりじりと僕を熱する。


 炎は僕のいる「今」を照らす。

 照らされた僕の足もとには、たびたび分かれ道が現れる。

 どれを選べばどうなるのか、その先を見ようとしたところで、わかるのは僕と炎の間にあるわずかな隙間にある景色だけ。炎の向こうはやはり見えない。選ばねばならないのだが、あまり長くは立ち止まれない。早くせねば僕の背中は炙られ、ついには全身が焦げてしまうのだから。

 道を選んだ僕は、また歩く。

 これから自分が行くのは谷なのか山なのか。

 やはりあれを選べばよかったなどと選択を悔やんではみるものの、それでも僕は進むしかない。


 いつか炎は停止するだろう。

 熱に追われる僕は、否が応でも炎へ飛び込まねばならなくなる。

 そうして僕は、炎の中で熱に追いつかれ、炙られ焼かれて灰となる。

 ……そうなるまで僕は、熱く息苦しい「今」を歩かねばならない。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  過去や未来を熱と炎とする表現は、詩的でありながら実に適切で、とても良いと思います。  山の頂は実に晴れやかで爽快ですが、谷間は熱いわ寒いわ暗いし狭いし息苦しいわでたまらんですよね!  止…
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