第96話 あの女のハウスに行くんだ
クリアリプルスを出て、
草原を歩いていると、
摂理がいきなりフルートを取りだした。
「じゃーん、どうですか?」
「さっき買っていた奴だね。」
「はい。試しに吹いてみます。」
♪~♪♪~~♪♪
「…感想は?」
「驚いた。初めてなのによく吹けたね。」
「ピアノで練習しましたから。
チャイコフスキーの Gornimi tikho letela dusha nebesami(御霊は静かなる空の高みに)です。」
「そうか、上手かったよ。
貸してみてくれるかな。僕もフルートには覚えがあるんだ。」
婚約者の得意分野だったからね。
「っっえっ!?遥さんそれって間接…」
摂理、僕は気にしないから大丈夫だ。
♪~♪~♪♪~♪~~♪
「やっぱりお上手ですね。」
まあ、コンクール金賞受賞者の指導を受ければこんなものさ。
「先程に引き続き、チャイコフスキーのBlagoslovljaju vas, lesa(森に祝福あれ)でした。
そのまま、Na zemlju sumrak pal(夜が来る)をお楽しみください。」
「2曲目の遥さんの意訳が完全にエロゲーな件について…。」
それは気にしない方向で。
フルートの音色に誘われてきたのか太重蛇が襲ってきた。
フルートを吹きながら対処したかったので、
水を呼び出して対処しようとした。
が、不発。
「…っ!?、出ない!?」
出力元である半身が蛹状態であるせいか…。
無理矢理力を引き出そうとするとほんの少だけ氷が前方に固まるのが確認できた。
属性質の変化と、出力源の不足か。出せて量は極小。
…倒すぶんには問題は無い。
「八氷糸。」
蜘蛛の足の様に、昆虫の翅のように、
背中から周囲に広がる様に発生した氷の極細のワイヤーガンが、
太重蛇に襲い掛かる。
そのまま駆け出し、
太重蛇の頭に飛び乗ると共に曲も終わった。
フルートを仕舞い、新たな得物を持ち帰る。
氷の迷宮核を極深海雀蜂に与えた時に抜け落ちた、
2枚の翅、1対の脚、触角を薙刀に重ねて打ち直し造り出した新たな僕の獲物。
絶望の海異 魔刀『深淵蜂翅薙刀』
太重蛇の頭上から突き刺すと、
手応えが無いくらいあっさりと突き刺さった。
切れ味は十分だ。
極深海雀蜂の一部であった物がまだ力が引き出せると僕に叫んでいる。
「言われなくてもわかっている。」
後方に背を反りながら回転し着地する。
「終わりだ。」
ただでさえツチノコの様に膨らんでいる太重蛇が、
急激に膨らみ、その傷口という傷口から水が噴き出して破裂した。
文字通り血の雨が、降る。
「摂理、頼むよ。」
「清掃術式。」
身体や服に着いた血が消え去っていく。
便利な術式だ。
「それにしても牛若丸もかくやというような戦いぶりでしたね。」
一応は少し意識していたからね。
「不慮はあったけれどね。
…そうだ、摂理、
今度術式について教えて欲しい。戦闘の幅が広がるから。」
「解かりました。でも天使にとって術式は世界に意思を溶け込ませる感覚だけでいいというか、
説明が難しいんですよ。シューンとしてグイッとするとババーン、キュインッってなるというか、
その、何というか、…すみません。解かりませんよね、これじゃあ…。」
「成程ね、さっぱり解からない。」
独学で学ぶことにしよう。
さて、ルリの所に行く前に、
「摂理、そろそろ…。」
「はい、そうですね。食事にしましょうか。
今日のランチは清漣の迷宮特製薬草サラダです。
勿論酒草は抜いています。」
何が勿論なのかは解からないけれど、
確かに酔っぱらってルリの所に行くのは問題がある。
「外で迫られても困りますし…。断れそうにないし…。」
? 摂理は何を言っているのだろうか?
特に気にしないでおこう。
それよりも予想以上に美味しい。
栄養面を気にすることも無い身体なので単純に味だけを評価できる。
「美味しかったよ。ソースも特性だよね?」
「はい。色々試して作ってみました。」
ある意味家庭の味と呼んでもいいのかもしれない。
さて、食べ終えたしそろそろだね。
「ルリの所に行こうか。」