第76話 どんな世界でも争いはつきもの。又は笑って私を受け止めて。
「摂理、この辺で善人染みた迷宮主の情報は?」
「……そうですね、氷樹の迷宮と呼ばれる場所が該当します。」
「そこを、潰しに行こう。」
「はい。ちなみにそこを狙う理由は何ですか?」
全く無駄な質問だ。
「摂理だって理解しているのだろう?」
「神から世界を取り戻すという理想主義者なら、
きっとさぞかし普段から自分の理想を貫いているのだと判断されたのですよね。」
その通りだ。
優秀な部下は実にいいものだ。
「それと、力無き正義への憎悪と八つ当たり、
―――――私の勘違いでしたらすみません。」
「…きっとそれは勘違いだ。」
優秀過ぎるのも時に問題はある。
「出過ぎた真似を、すみません。」
まあ、無能よりは余程マシだけれども。
「今度、美味しいお菓子でも作ってくれるのなら不問にしておくよ。
そろそろ、行こうか。」
「はい。…ぴーちゃんお留守番宜しくね。」
「Pii Piiii!!」
外の時間と迷宮内の時間が違うので、
そこまで大きな時間の損失にはならないはずだ。
それと、あと1段階進化したら普通にモンスター達がいるフィールドに押し込んでも大丈夫じゃないだろうか?
…いや、それはまだ早すぎるかな。
そんなことを考えながらクリアリプルスへと僕たちは向かった。
クリアリプルスは今では大陸最強国家の一つとなりうる発展ぶりとなっている。
やはり周囲を山脈に囲まれた元荒地とはいえ、
大陸の位置的に中央にあり、何より空の便を半国営事業として、
この世界中の空の便を握った上に、
細々とやっていた他の国にある同種事業を吸収合併、
又は産業工作、風評操作などで潰しに掛かっていることもかなり大きい。
国を守るために非情になった商人上がりの国王の本気が少し見えた気がする。
そのことで商売優先の王と航空産業を任せられている王子、
そして世界全てへの慈愛を説く長女の姫が若干揉めているようだけれど、
多少ぐらいクリアリプルスにも火種があった方が僕にはやりやすい。
しかしそれらの政策の結果、薬師姫は世界中からくる弟子を持ち、
医療技術を広めやすくなっているのだから皮肉な話だ。
中世以前の西洋から、中世以前の中東位にまで医療技術が上がっていっている。
薬師姫は、医療とは魔法を使えぬ人にも携われる、
誰もが行える神の愛なのだと説いているようだ。
教会の者達にも口を出させないように人の愛とだけ言い終わらない所が賢い。
教会にとっても悪い宣伝にもならないからだ。敵を無駄に作らない。
他者に関心を持つことが愛であり、神への信仰だと言っているけれど笑わせる。
女神が騙し、世界へ侵攻する僕からしたら只の皮肉だ。
まあ、そのような事などどうでもいい。
その他にも他の国においても産業を支える一つの要素である迷宮。
産業基盤になる理由は、迷宮には自由に入れて、
しかしモンスター達が迷宮から出てくることは基本的にない。
それならその近くに国を作っても得になるとして、
今から行く氷樹の迷宮のように、
迷宮を囲むようにできている国や町もあるくらいだ。
その迷宮の質が迷宮に入ろうとする人間の数を左右させる。
ちなみに以前僕が想定した姨捨山的迷宮活用法だけど、
実際にやっているところがあるようだ。
手足を縛って檻に入れた人間を迷宮に運び入れて次の日見に行くと、
そこには代わりの宝物や金貨があるらしい。
まあ、そういう噂が流れるとよく解からない正義感を持つ奴や、
そう言う建前が欲しかった敵対勢力に狙われるきっかけになるので僕は今のところは考えてはいない。
無論僕が蹴散らされることは絶対にない。
けれど僕とつながりがある相手が破滅する可能性は捨てきれないからだ。
まあそれもそれで面白いけれど。
「クリアリプルスもそれなりに涼しい時期もあるけれど、
それでもそこまで寒くは無いだろう。冬ファッション先取りしすぎじゃない?」
「迷宮の中ほど四季の変化は大きくないけどさ。」
「おい、お前らも美人そうだからって嫉妬しすぎだろ。」
「何よもう。」
「くー生足見てぇ、っていうか顔も見てぇ、超見てぇ。」
そんな声を背後に聞きながら、
多めのファーが付いたフードを深く被りサングラスを掛けた僕達は
高級空鎖蛇快便
通称ヴィバヴィパに乗り込んだ。
因みに飛行士杉という、ジェット機の様な形の飛ぶ杉に跨ったり、
それを加工した箒で空を飛ぶ方法もあるけれど、
その技術は精々命知らずの若手魔法使いくらいのものだ。
彼らは速度至上主義でハリーハリーハリーと大声で叫び、
航空マナーが悪いなどという理由で嫌われ者なので、
やはりこれからも、空の便の主役は、大羽豚便だろう。
空の快速便に乗り込んで思ったけれど、
大国の王子で、国家の大産業の1つの社長ともあろうものが、
蛇御者という社員的な働き、
しかも国を頻繁に空けざるを得ないうえに危険を伴う仕事をしていていいのだろうかと思う。
誰もいない環境に二人きりなんて、
操れない高級空鎖蛇の便から降りられないとか、
襲われるとかそういうことを度外視すれば普通に格好の暗殺状況になりえるのに。
もしかすると王族間でいざこざがあり、
力関係が弱かったこの王子は追いやられたのか、
それとも姉も姉で好きにしているので、
政治は父親が一括。子供たちは国家のイメージアップに全力を尽くすという作戦だろうか?
「お二人はどちらへ?」
考え事をしていると、そう王子が問いかけてきた。
「北の国へ。それは先程行き先を尋ねられた時に言いましたよね。」
そう言うと、王子は笑いながら言った。
因みに僕は先程から王子と何度か喋っているけれど、
声質で普通に男だと理解されていないようだ。少し、へこまないことも無い。
まあ慣れたけれど。
「ああ、いや、皆、大羽豚便しか使わなくてね。
安いし、それに自分で言うのもなんだけど王子に送ってもらうのが気が惹けるんだって。」
だろうね。
「お二人はこの国の人じゃ無かったりする?」
「はい。」
日本と神の御許の生まれだし、
そもそも摂理に至っては人ですらない。
「氷樹の迷宮のあるホワイトブルクへ。」
「……なるほど。ホワイトブルクまでは本来この便は出ていなくて、
乗継がいるのだけど、
お二人には特別にホワイトブルクまでお送りしますよ。」
「…見返りは?」
「割増料金と、他国の御貴族方であろう貴女方への貸し。
そういうところかな。」
「商売人なら貸し借りも料金の内だろう。
お金は払うけれど、二重取りを企まない方がいいよ。」
「……これは一本取られたかな。」
そんなたわいもない会話を僕と王子がして時間が過ぎ、
空気の温度や感触もだいぶ変わったことを感じ始めていた時だった。
邪懸巣と皐月懸巣が空で争っているのを見た。
甘ちゃんとマイペースなことで有名なこの二匹のモンスターは、
同じカケスのモンスターでありながら生活環境が被ると争うことが多いようだ。
流行語大賞でも争っているのだろうか?
更にいえば松掛巣と皐月懸巣も同種間で争うこともあるらしい。
どちらの方がありのままでいられるかでも揉めているのだろう。名前的に。
因みに枝落とし音から、チェーンソーの音まで、
幅広くカバーしてコピーできることで有名なカケスは英語でジェイだけど、
今はそれはどうでもいい。
そんな酷く時間の無駄な思考をしていた時だった。
邪懸巣と皐月懸巣が、
なぜか、標的を高級空鎖蛇に変えてきた。
「なぜ、いつもこうなるのかな。」
少しずれたサングラスを掛け直しながら小声で摂理に尋ねると、
「色々と敵を作りすぎたんじゃないですか?」
それと、その仕草素敵ですよ?
そう摂理に答えられた。
敵、言われなくてもそれが何かわかっている。
「摂理、落ちようか。」
「私は既に遥さんにオチてますけど。」
サングラスとフードでも赤くなったのを隠しきれないのなら、
そういうことは止めておこうか。
「冗談はいいから先に降りてて。
後は、頼むよ。」
「はい。」
摂理はそう言うと、
邪懸巣が籠を吊るすことで動きが制限されている高級空鎖蛇を、
バリアが張られていない背後から攻撃し、
籠が揺れたのと同時に摂理が悲鳴と共に落下する。
「そんなっっ。」
客の落下に王子が叫ぶ。
さて、僕も演技を始めるか。
「やってくれたな。」
そう言って高級空鎖蛇の上に駆け上がり、
その背を蹴って天に足を向け頭上に地を眺める姿勢から、
邪懸巣の背の上から薙刀の刃を突き刺す。
放っておけば動きが制限されているとはいえ高級空鎖蛇の敵ではなかっただろう。
高級空鎖蛇の内一匹を籠から切り離して戦闘させれば直ぐにかたが付く。
これは最初に摂理が落ちて、
『王子』が冷静になるまでの勝負だ。
一応ここまでの運賃程度の宝物は籠の中に置いておいた。
悪いけれど君ごと救ってあげたり、
あまり近くまで着いてこられたりすると色々面倒になる。
僕はそのまま死にかけた邪懸巣の背に乗ったまま、
そのまま地に落下する。
高級空鎖蛇が見えにくくなってきたと同時に、
その刃を抜き、再度頭に突き刺す。
薙刀を引き抜く必要は無い。死体をそのまま虚空に格納すればいいだけだ。
足場?其れこそ無用な話だ。
「はい。遥さん。」
僕を確保させる為に翼の生えた乗り物が先に落ちていたからだ。
「さあ、行こうか。」




