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第73話 きっとそれは人生ゲーム

「そう言えば遥さんってときめきメモリ○○というゲームを知っていますか?」


「ああ、名前くらいはね。」



「どれくらい知ってますか?」


「各キャラクターとゲームシステムのあらすじ程度は幼馴染(るり)から。それが?」



「…いえ、遥さんって、あのゲームだと藤崎○織ですよね。」


「何処の部分が、かな?」



「勉強、運動、容姿、全ての性能が廃スペック。

一見清楚そうで、台詞の端々から見え隠れする腹黒さと脆さ。

理想に妥協しない厳しさ。

底辺とは一緒に帰ろうとも思えないという毒舌の部分。

そして何より攻略難度の圧倒的高さ。

遥さんの世代のゲームではあり得ません。

ですが遥さんほどではありません。

メインヒロインオンリーの状況でさえ、

基本的に攻略が不可能なんて恋愛ゲームならあり得ませんよ。」

攻略不可のキャラクターしかいないなんて、

それはきっと恋愛ゲームではない何かだ。

「僕は簡単に凋落されるような人間ではないとは思っているけれど、

そこまでかな。」



「大体そこまでです。」


「…摂理はどうなのかな。」



「…私を攻略ご希望ですか?」


「別にそういうつもりは無い。」

そうでなくても摂理は既に僕のものだから。



「残念です。」


「そうは見えないけれどね。」



「慣れました。

あっ、そういえば遥さんは伊集○レイでもいいんじゃないですか?

悪役と見た目で性別が解からない意味で、ですが。」


「僕は勉強も運動も何もできない相手に電話だけで落とされるような人間じゃない。

容姿が低ければ女性が近寄ってこず、若しくは逃げ去られ、

周囲の評判と容姿と能力が高ければ女性から寄ってくるあの現実的なシステムの中で、

唯一ハズレ男を受け入れる慈愛と錯誤を勘違いしたキャラクターなどありえない。」



「そういえば、電話しかすることが無いからステータスが上がらないので、

体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレス、

そして何よりもその他の女子たちへの好感度が足りない様な男と結婚して、

伊集院財閥の未来は暗いですね。」


「その通りだね。

ストレスは無い方がいいだろうけれど、そんなどうでもいいことはおいておいて、

そもそも性別を偽る家法の伊集院財閥自体が無理がある。

姫宮家はそのような愚を犯したりはしなかった。

普通に考えるとどう考えても見た目の性別は誤魔化せないと思うのだけれど。」



「…本日のお前が言うなスレはここですね。」

「Piiyher!! Piiyher!!」

僕達の話を白炎雛孔雀が遮る。

そのような事をされても僕はお前を焼き鳥にしてやろうかと悪魔の様に言ったりはしない。

寧ろ火属性的に火は大好物だろう。物理的におそらく焼き鳥にはならない。


「Piiyher!! Piiyher!!」


白炎雛孔雀、悪いけれど僕にはお前が何を言いたいのかさっぱりわからないよ。

何処かの電気の鼠もそうだったけれど僕には鳴き声だけで感情を理解するのは難しいようだ。


「多分『おなかすいたー』って言ってるんですよ。

ねーぴーちゃん。はい、御飯ですよ~。」


「Piieriii!!」


「今のは意訳すると、恐らく『ん~んまいいぃぃ!!』

だと思います。」


なぜ解かるのだろうか。

母親とは凄い。僕は改めて…そう考えていた時だった。






「侵入者、パターン赤、……敵マスターか。」


「遥さん、無茶はしないで下さいね。」

解かっているさ。『無理なことは』しない。


「…今日は大丈夫そうですね。

はい、遥さんアールグレイです。

少し酢橘を混ぜてみました。」


「ああ、ありがとう。」



管理室の壁掛けハイヴィジョンモニターの画面を見ると、

如何にも冴えなさそうなパッとしない男が叫んでいる。

何というか、普通だ。凡人だ。

そんな言葉が酷く似合う男だった。



「すみません。此処の迷宮のマスターは居られますか?

御不在ですか?」


友達の家を訪ねてきたのか若しくは訪問販売か?

そう思う馴れ馴れしさだった。


「此処のマスターと話がしたいんだ。」


自分から化物(ぼく)迷宮(いぶくろ)に飛び込んで、

何を話したいのだろうね?




「無視ですよ、無視です。居留守しましょう。」


「面白そうだから話してみるよ。」



「遥さんっ!?…やっぱりわかってないじゃないですか。」


「大丈夫、『無理』はしないよ。鎧袖一触さ。」



「凄く…慢心してそうです。」


「5分もあれば終わりそうだよ。」



「5分…って、悪夢の5分間にならない保証は?」


「さあね。

でも取り敢えず摂理がそこまで言うのならスピーカー越しに会話しておこう。」



「ホッとしました。」


「それは良かった。

……で、侵入者の迷宮主(ダンジョンマスター)さん、

本日は弊城へようこそ。今回はどのようなご用件で?」



「初めまして、私は園出(そのい) 克男(かつお)

あなたがここの迷宮主(マスター)ですか?」

野球でも誘われそうな名前だね。


「如何にもそうだよ。」



「あなたの名前は?」


「明かす必要性は無いと思うよ。

…で、要件は何かな。」



「あなたと共闘を申し込みに来ました。」


「何を目的にか教えてくれますよね。」



「この世界を敵に戦う為に。」

彼も気が付いているクチか。

…僕以外にこの世界に気が付き、対して戦う意思を持ち、

抗うものがいるとはね。


面白い、

成程、ただの凡人ではないということか。



「この世界と、戦うとはどういうことですか?」

けれどそれを知っているということをここで出すのは、

未だ得策ではない。


「この世界の争いと搾取は仕組まれている。

迷宮主(マスター)は人々を搾取し、

世界は迷宮主(マスター)を搾取する。」

知っているよ。そんなことは。



「神殺しのその後は、どうしたいのかな?」


「この世界から争いを無くす。」



平和を求めるものは弱者(ぜんにん)ではあるのだろう。

だけれども大体の人々には、『価値』が無い。

彼がどうなのかは、まだ解からないけれどね。


(やさし)さ、それ以外の何もない。

神殺しの為に僕に協力してくれるというのなら、

僕の糧となり、死ねばいい。


他人は、信用に値しない。


僕が求めるのは、

何の感慨も感動も感激も無い、

確定した勝利だけ、

それだけでいい。


「見たところ、君には御付の天使もいないようだ。

君の評価も知れたところだね。

それで、その程度の評価をされた君が世界を革命する力があるのかな?」


「手に入れる。絶対に手に入れる。

だから協力してくれないか。」



「断ると言ったら?」


「あなたには協力してもらいたい。

世界中のマスターが協力すれば、きっと。」



「悪いけれど僕は不確定な勝利は他人に任せない。

自分で勝利を目指すか、確定する勝利の為に他者を利用するか、

それだけだ。」


「あなたは失う痛みを知っていますか?

奪われる痛みを知っていますか?

そのような理不尽を残しておけますか?」

知っている、知っているとも。

僕はお母様(すべて)を奪われた。



「どうだろうね。僕はもっぱら搾取する側だから解からない。」


「そうですか、残念です。

では僕は此処で。

いずれまた遭うこともあるでしょう。さようなら。」



……。

男は去っていった。

彼は、ただの弱者(ぜんにん)ではない。

追撃も危険かもしれない。


「摂理、あの迷宮主(ダンジョンマスター)の事を調べてくれ。

ポイントの大量使用も構わない。」


「遥…さん?

解かりました。直ぐに手配します。」



「頼むよ。」

酷く、酷く嫌な予感がする。

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