第71話 頂点者の道の神の鳥、若しくは居住性は段違いではあるけれどホテルじゃない迷宮。
「さて摂理、そろそろ他の迷宮潰しに行かないか?」
「…出来ればぴーちゃんもまだ心配ですし、
遠慮していただきたいのですが。」
子供ができると母親は強くなるものだと実感した。
「10階層の浅瀬ならモンスターが自然発生することも無いから、
其処に転移させておけば大丈夫じゃないかな。」
「遥さんは馬鹿ですか!!」
僕が、馬鹿だと?
お母様にも言われたことが無いのに…。
「火属性の泳ぎが苦手そうな雛鳥を海辺に放置する。
そのようなパチンコに行くために、
夏の炎天下の車の中に赤子を放置する鬼畜の所業の様な真似は断じて許せません。」
実にいい例えだ。
「だったら此処の管理室においておくというのは?」
「もう少し成長してお留守番ができるようになったら考えます。」
鳥、お前は愛されているね。
「Piiier?」
「あら、ぴーちゃんお腹がすきましたか~?
はい。最高級クジャク系モンスター専用フードですよ~。」
それに何ポイント使ったかなどは気にしない。
別に既にポイントを気にするようなことも無いからだ。
全くその気はないけれど、人を殺すことなく、
迷宮の中で飼い、自然死を持ってポイントを稼ごうとするお優しい迷宮主はいるのだろうか?
例えば100人ほどの村中の人間を飼うともなれば、
100(人数)×3(朝・昼・晩)で1日に300pt。
1週間で2100pt。
1ヶ月で9000pt。
1年間で109500pt。
これは食費だけで、だ。
当然これ以上の消費が必要となる。
勿論徳用の大量安価食材ならその食費は、
5分の1にまで減らすことも可能かもしれないけれどそれでも、
21900pt。
1年間に死ぬことで1500pt出してくれるものがいたとしても、
15人は必要となる。
勿論その15人が死ぬことで更に消費量が減り、
実際にはもっと安くはつくけれど、
100人中15人が年間に死んでいく村など存続できない。
とにかく子作りに励んでもらって大量に間引くという方法もあるけれど、
やはり弱い子供では今度は殺してもポイントの足しが少ない。
もしその100人に自給自足をしてもらうというのなら、
それは敢えて村人が迷宮に住む意味は無いだろうし、
そのハイブリッドとして、村人たちが困った時にだけ食事を与えるとしても、
一度ただ飯の旨味を覚えた村人たちを御するのも難しいだろう。
死にかけを入れる代わりに宝や食事を渡すような、
姥捨て山以上の活用は難しいのではないだろうか?
第一、他所では給付金は当てにならないからそちらへの期待も難しい。
そう言う意味で救貧院のような迷宮経営は難しいと言ってもいい。
迷宮の成長速度が著しく落ちる代わりに、
世界への返済義務が無く、食べなくてもいい代理迷宮主の天使単独の迷宮などでないと、
慈善活動など面白くも何ともない狂気の沙汰だ。
当然迷宮主の自然回復量が週に50ptもあれば、
家賃が30ptとしても20pt余る。
けれども迷宮が成長してからだとその家賃も上がる為そうとも言えない。
10階層にもなるとどれだけかかるのだろうか?
やはり、最終的には迷宮を早めに買い取らないと破滅につながることは間違いない。
支配者であれど必死のやりくりが安易に予想できる。
中世の貴族は案外裕福で無い所も多かったというのが実に理解できる話だ。
そうするとやはり宝箱を置いて、
外から呼んだ侵入者を狩る方がポイントの維持には有効だ。
結局、不殺を止め、殺人者として生きていけばなんも問題は無い。500pt級の侵入者でも、
その人間を生かすために何もしていなければ、
色々払っていてもお釣りが出る。
僕達もかなりのポイントを生活費や娯楽に消費しているけれど、
今のところ不自由さを感じたことも感じさせたことも無い筈だ。
所で至極どうでもいいけれど、
「そのフードを食べさせたら毛並みがよくなったり、
美しさが上がったりするのだろうか…冗談だ、今のは忘れてくれていい。」
「遥さん、真面目に考えてください。
ぴーちゃんは最初からオールMAXですよ。
コンテストでも絶対優勝間違いなしです。」
盛り上がりが下がらなかったり、
最後に使ったら効果が大きかったりする、
『鳴き声』だったり、
ごく普通のアピールな、
『突く』位しか使えなくてもコンテストは優勝できたのだっただろうか?
…少し昔の事だったので自信が無いからはっきりとは言えない。
まだ連続で使える『乱れ突き』や、
一発逆転の大文字焼のような技があれば別なのだろう。
まさか火属性の鳥系モンスターとはいえ、
初期技が『突く』と『炎竜巻』で
レベルが51くらいに上がったにもかかわず、
『睨む』位しか他に出来ないなんてことがあれば、
コンテストだけでなく、戦闘運用にも支障が出る。
『炎竜巻』は『猛毒』等と組み合わせると、
仕様が変更されるくらい非常に強力ではあるけれど、
せめて『風斬撃』位の技は使用してほしい。
きっとそれには金剛石か真珠かでも買ってやる必要があるのかもしれないけれど。
まあ、あのコンテストは見た目が最重要要素で、
バレエ選手がその演技よりも容姿で評価されることが多く、
どれだけ凄い選手でも醜ければ選考を通らないようなものだ。
それでも鳴くだけで勝ち上がろうというのは難しい。
けれど摂理のこの笑顔を無理の壊すことも無いのだろう。
僕は人の感情がよく想定できる方だと思うし、
真実よりも認識を人は優先するということも理解している。
「……あの~遥さん?
御高察の所悪いのですが、半分ぐらい冗談ですよ?」
…
……
………
「…そうか、コンテスト必勝の技攻勢を考えていたのだけれどね。」
……というか、モンスターのコンテストはこの世界ではないのではないだろうか?
「…ありがとうございます。」
「Pii?」
「まあいいさ。
ランダム的要素が高い項目に準備を掛けるよりかは、
固定値を計算する方が堅実だ。
その白炎雛孔雀の将来的な運用方法でも考えよう。」
「愛玩用です。」
「Pii Pi Pi Pii?」
そう言いながら摂理が慈母の笑みを浮かべながら雛鳥の翼の裏をくすぐる。
鳥の方は先程まで脚を揉まれたり頭は撫でられていたけれど、
急に触られる場所が変わったのか戸惑っているようだ。
デュカリスやアリスが搾取用だとかそう言う認識は摂理が持っていないことを願っておこう。
まあ基本的には迷宮のモンスター自体が、
全員搾取子兼ね放置子的な何かなので、別にそれでも何の問題も無いのだけれど。