第70話 美少女とフラグと大寒波と
今日も僕の迷宮でまた一人犠牲者が増えていく。
今日は罠にかかった女性を助けようとした男性が幾つかの罠を解除したはいいものの、
最後の罠である既死者である女性自身の手によって葬られていた。
下心混じりの純真な優しさは利益にならなければ斬り捨てられる。
常に優位は選ぶ側にある。
吸魂されるか求婚されるかは、相手の価値次第。
上に立つ見込みのない男に価値は無い。
女性とは恐ろしい魔物だね。
「そうでしょうか、男性?も中々ですよ。
相も変わらず性格の悪い演出ですね。
いつか因果が返されますよ。ね~ぴーちゃん。」
「Piia?」
鳥頭に同意を求めても無駄だろう。
「僕に罰を与えられる存在がいると?」
そんなことは迷宮主になった時から理解の上さ。
僕を殺せるのは、僕だけだ。
「世界…。」
「直接僕に手出しもしてこれないような存在が?
…確かに僕に予想以上の不利が働いたことはあった。
けれども摂理の身請け料金請求は僕に摂理の権限を移すことになり、
突如現れた強力なモンスターは僕の配下になった。
サーファーは打ち寄せる波があればそれを乗り越え、
車両走行においては向かい風はダウンフォースに貢献し接地を向上させる。
仕掛けてきた些事事も僕には利益を得得る機会でしかない。」
「…『何』が敵でも、負けはしないと?」
「それは君が一番よく知っているのじゃないのかな。
僕に罰を与えられる存在などいない。
…ところで摂理は『罰』の根拠となる『罪』の基礎となる『法』が何故あるかわかるかな。」
「より多くの善良な人々の幸せの為でしょうか?」
「それもあるだろう。
けれど実際は持ち得ている者達がそれを維持するためにある。
裕福に生きるもの達には法の裁きは畏れとなりうるけれど、
底辺の最下層にいる失うものが無い物には法は枷にならず、
その結果ゴミ共が強盗や強姦などを行う。
獣の世界に法は無い。
獣は自らの利益を自らで確保し、
自らで保護する。
それを行える『力』こそがその生き物の価値だから。
結局のところ法律というのはそれを行う力を持たない人間の為の、
代替的な力の行使なわけだよ。」
「…遥さんは?」
「世界の抜け目を潜り抜ける挑戦者でありながら、
迷宮を統べる支配者。
ダブルスタンダート?そんなことはどうでもいい。
いずれは世界を統べてやる。」
「…ぷぷ。ぴーちゃん今の聞いた?」
「Pii~。」
何か、笑われるようなことを言っただろうか?
…解からない。
「『全』を『統べて』やるだなんて…オヤジギャグ…。」
そう言うつもりは無かった。
断じてなかった。
しかしこの場で僕が無実を叫んだとしても只滑稽なだけだ。
だから僕はこういうほかない。
「どうでもいい…。」