第69話 クジャクの鳴き声はいやーん、いやーん。
「遥さん、遥さん、遥さんっっ!!」
「どうかしたのかな、摂理。」
僕が自室で先日書いていた絵に色を乗せていた所、
やたらハイテンションな摂理がノックをして僕の返答聞くや否や入ってきた。
…というより、返答と同時、下手したらその前と言ってもいいのではないだろうか?
ノックの意味とは一体…。
「遥さん、私、お母さんになりました。」
僕はその時に摂理の手元を見なければきっと紅茶を吹き出していただろう。
「Piii Piiii !!」
生まれたのは真っ白な孔雀のモンスターだった。
卵のまま長いので孵らないものかと思っていたけれど、
ようやく孵ったわけか。
目の前にいる人間が実の両親の仇と走らずに愚かな雛だ。
それにしても摂理に懐きすぎ……、
ああ、刷り込みか…。
摂理の薄い胸に顔を押し当てて幸せそうだ。
この世界に無償の愛で自分を優しく包んでくれる絶対の存在がいて、
それが巣立ちの日までいつまでも続くと思っているのだろう。
必ずしもそんなことは無いのに。
それにしても一つだけこの鳥に言いたいことがある。
このマザコンめ。
「Pi~?」
きっと自分に向けられる悪意すらもわからない。
生まれ出で母親に迎えられる喜びにいるのだろう。
羨ましい事だね。
「ぴーちゃん、はい、お父さんですよ~?」
止めてくれ、僕は鳥類と仔を為すようなことをした経験は無い。
「冗談がきついね。」
「ぴーちゃん、お父さんは拗ねちゃったようですよ~。
お母さんとお話ししましょうね~。」
「ああ、そういえば摂理?」
「出産ハイ的な何かの所悪いけれど、
孔雀は幼いころに触れあった種族を結婚対象にするようだよ。」
「そうなんですか。……えっ?」
「人間の女でも繁殖用に捕えておこうか?」
「…ぴーちゃんにはお母さんがいるもんね~。」
「摂理はマザコンになったらどうするつもりかな。」
「マザコンが今更増えたところで問題ないですよ?」
そうか……。
まあいいさ。そう言えば孔雀を原書の天使と見做す神話もあったよね。
原初の天使にして原書の悪魔。
地上を支配し、誇り高さゆえに愚かなる始源を晒し、語り部をも破滅させた。
神の下に生まれながら結局は反逆の道を選んだ。…なるほど、摂理の仔には相応しいか。
大天使孔雀となるか、
大悪魔孔雀となるかは解からない。
けれどどちらにしても面白い。
母親と同じくその羽で僕の役に立ってくれ。